今まさに「マネジメントを担う人」のコミュニティが必要。あらたま氏に聞く EMConf JP 開催の背景

2024年12月2日

LayerX バクラク事業部 プロダクト開発部 エンジニアリングマネージャー

新多 真琴

ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、前職では執行役員CTOを務めた。現在はLayerXにて「バクラク申請・経費精算」のEMを担いつつ、コミュニティ「EMゆるミートアップ」、カンファレンス「EMConf JP」を運営している。趣味は全国津々浦々のサウナ探訪。
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エンジニアリングマネージャー(以下EM)という役割の重要性が広く認識されるようになるとともに、開発組織でEMを務める人も増えています。しかし、EMのように組織のマネジメントを担う人は、機密性が高い情報を扱うこともあり、知見を共有する機会を得にくく、孤独な戦いを強いられていることも少なくありません。

そんな中、EM関連の3コミュニティが2024年7月に合同イベント「EM Fest!」を開催。普段なかなか話せないEM同士で、互いに知見をシェアできる場として大いに盛り上がりました。2025年2月にはEMの実践者のためのカンファレンス「EMConf JP 2025」の開催も決定、プロポーザル応募は233件集まり、大きな話題となっています。

「EM Fest!」を合同開催した3コミュニティのうちのひとつ、「EMゆるミートアップ」の主催者で、「EMConf JP」の運営スタッフでもある新多真琴さん(以下あらたまさん)は「EMは孤独な暗中模索。だからこそコミュニティが必要だ」と語ります。マネジメントを担う人にとっての「コミュニティ」が持つ力とは? そして「EMConf JP」の熱狂の背景にあるものとは? お話を聞きました。

EMとは、チームや組織の成果を最大化する人

――あらたまさんは現在エンジニアリングマネージャー(以下EM)という肩書きですが、ご自身はEMの役割をどう定義していますか?

あらたま:私自身は現時点では、「EMとはチームや組織の成果を最大化することに責任を持つ人」と定義しています。そのためにEMは、チームや組織に必要なことを見極め、何らかの手を打つ役割を担っている、と考えています。

EMの業務として、ピープルマネジメントを真っ先に思い浮かべる人もいるかもしれませんが、その先には、「チームや組織の成果を最大化すること」があるはずです。であれば、多くのEMが担っているある特定の業務、例えばピープルマネジメントなども、自分より適任だと思う人がいれば、その人にお任せすることも手段のひとつだと思っています。

つまり、チームや組織の成果を最大化するためにEMがやるべきことは、そのEMが属する組織によって大きく異なります。実はこれが「EMゆるミートアップ」コミュニティを立ち上げようと思った理由の1つでもあるのです。

――といいますと?

あらたま:「EMゆるミートアップ」を立ち上げたのは2022年秋で、前職時代でした。当時はCTOという肩書きでしたが、開発に携わる人数が合計15名くらいの小さな組織だったので、私がEMの役割も担っていました。

その中で「EMは孤独で、暗中模索だ」と感じたのです。

まず「何がEMなのか」という役割の定義すらぼんやりしています。EMが解決すべき課題は組織のフェーズによって課題は異なるから、ある種仕方のないことです。となるとEMは、自分が所属する組織に合わせて、自分ひとりで考えて実践していくしかない。

そのうえ、似た課題に同じ熱量で向き合っている人と出会う機会もほとんどありません。現職ではEMが複数人いる環境ですが、プロダクトや組織のフェーズによって悩みの濃淡が違うため、それぞれが自分とは全く異なる課題に取り組んでいます。そもそもEMの業務に持っているモチベーションも人それぞれで、積極的に取り組む人もいれば、やるべきことを淡々とこなしていく人もいます。マネジメントという共通トピックがあっても、社内にすら同じ温度感で話せる人がいないのです。

だからEMにこそ、「コミュニティ」が必要だと強く思いました。コミュニティで世のEMの生きた知見が共有されれば、自分が今ぶつかっている課題を解決してきた先人たちの話に触れられる。また、社外のEMと出会う機会があれば、似た環境で似たことに悩んでいる人に出会う確率は上がります。コミュニティがあることによって、EMが「孤独な暗中模索」から脱出するきっかけになるかもしれない、と考えました。

――立ち上げ当時は既に「Engineering Manager Meetup」というコミュニティがありましたが、ご自身でも立ち上げようと決意したのはなぜでしたか?

あらたま:実は、最初は自分で立ち上げようとは思っていなかったんですよ。参加してみたいと思っていた「Engineering Manager Meetup」がたまたま活動をお休みしていて。だったら自分でやってみるかと思い、「EMゆるミートアップ」の立ち上げに向けて動き出したのです。

コミュニティは「EM実践のセーブポイント」

――「EMゆるミートアップ」は、「Engineering Manager Meetup」など他のEMコミュニティとはどう違うのでしょうか。

あらたま:「Engineering Manager Meetup」はOST形式で、みんなが自由に話すスタイル。「EMゆるミートアップ」は「評価・目標設定」のような普遍的なテーマを扱うことが多いです。他にも、2023年に発足した「EM Oasis」は、「EMの事業貢献」のようなちょっと尖ったテーマがあったり、お悩み相談のパートがあったりします。このように、それぞれに違った特徴があります。

「EMゆるミートアップ」は大体トークとディスカッションの2部構成で、前半のトークを呼び水にして、後半で日頃の悩みを相談し合うような流れにしています。単に「いい話を聞いたな」というその場の満足で終わらず、明日から使える実践的な種を持ち帰ってもらいたいので、後半のディスカッションパートは大事にしています。

「ゆる」という言葉を加えたのは、コミュニティに柔らかい雰囲気を持たせたかったから。緊張した状態で悩みは吐露できないし、マネージャーはいつも「達成」のプレッシャーにさらされ続けているからこそ、解放される場であってほしい。とはいえ、楽しんで終わりではなく、実践的な知見の共有と学びのある仲間がいる場にしたいと思っていて「雰囲気はゆるく、内容はガチ」にこだわっています。

参加者は当初は15名前後でしたが、直近のイベントには60名以上の申し込みがあり、常時定員オーバーするようになってきています。最近は「CTOに“困っているなら、ゆるミートアップへ参加してみたら?”と背中を押されて参加しました」というEMの方もいて、嬉しいですね。

――「EMゆるミートアップ」は、参加者にとってどんな存在ですか?あるいはどんな存在であってほしいと思っていますか?

あらたま:前向きなコミュニケーションの場として機能していると思います。「似たようなことで悩んでいる仲間がいるとわかり、それだけでも安心した」という声も多いですね。

個人的にはエンジニアリングマネジメント実践における「セーブポイント」のような場所になれたらいいなと思っています。EMに限りませんが、ずっと前線にいると疲れてしまいますよね。「EMゆるミートアップ」が、自分がやってきたことを振り返り、棚卸しをするきっかけになれたら。さらにそれを知見として共有し、得られたフィードバックを今後の仕事に活かしていくような好循環を生み出せたら嬉しいなと思っています。

既存の3コミュニティがハブとなり、大きな熱狂に

――あらたまさんは2025年2月に開催される「EMConf JP 2025」の運営スタッフでもありますが、これはどんなイベントですか。

あらたま:EMの役割を実践する皆さんのためのカンファレンスです。テーマは「増幅と触媒」。EMの知見を共有する場はまだ少ないので、カンファレンスの場限りではなく、そこで生まれた熱量がほかの場所で花開いて、新たなコミュニティや動きが生まれるきっかけになってほしいという思いを込めています。

都内での開催なので、関東以外にお住まいの方にとっては「参加してみたいけど遠いな」と感じる人もいらっしゃるでしょう。ただ、そういった悩んでいる方々にもぜひ現場に足を運んでいただき、熱量をじかに感じていただきたいです。対象はEMやエンジニアリングマネジメントの実践に興味がある人。あくまで実践にフォーカスしたいので、EMを採用したい人などにはあまり参考にならないかもしれません。

――なぜ今回、EMをテーマにした大型カンファレンスを開催することになったのでしょうか。

あらたま:昨年末の「EMゆるミートアップ」のオフラインイベントの打ち上げで、「やってみない?」と盛り上がったんです。

打ち上げの場で「EM Oasis」主催者のパウリさんと話していたら、各EMコミュニティのイベントには毎回定員を超える応募があるとわかり、もう少し大きな規模のイベントが求められているように感じました。そしてその場にいた、ポッドキャスト「EM.FM」を運営しているゆのんさん(カケハシCTO)、「EMゆるミートアップ」初回からの参加者である190(いくお)さん(カケハシEM)に声をかけたところ、彼らも同じ思いを持っていて、意気投合しました。

その後、「Engineering Manager Meetup」コアスタッフのさとだいさん、カケハシの技術広報でイベント開催のノウハウを持つ941(くしい)さんにも声をかけて、この6人がコアメンバーとなりました。

本格的に動き出したのは今年の4月から。大型カンファレンスを開催するか決めるために、まずは「Engineering Manager Meetup」「EM Oasis」「EMゆるミートアップ」の3コミュニティ合同のイベントを開催して、実際にどれくらい人が集まるかを探ることにしました。それが8月の「EM Fest!」です。80名の募集に170人くらいの申し込みがあり、現場の熱量もかなり高かったですね。懇親会ではあちこちで実践的な話題が飛び交い、議論が始まっていました。

――Xでも、ものすごい盛り上がりを感じていました。大盛況に終わった理由はどう分析していますか?

あらたま:1つは、タイミングでしょう。EMの中にも、コミュニティの必要性を身をもって感じる人が増えていたんだと思います。EMというロールが世の中に広く認知されるようになり、EMを務める人も、EMという役割に興味を持つ人も増えている。ただ、実践しようとすると困難ばかりなので、相談できる場が欲しい、と多くのEMが考え始めていたタイミングだったんだと思います。

もう1つは、既存の3つのコミュニティに通っている人たちが、「EM Fest!」の場でハブとなってくれた点も大きいのではないかと思います。

3つのコミュニティはそれぞれ雰囲気が違うので、普段から複数のコミュニティに参加している人は1~2割くらいです。しかしその人たちが、それぞれのコミュニティの知り合い同士をつなげてくれることで輪が広がり、化学反応のようなものが生まれたように思います。既存のコミュニティの垣根を超えた交流や知見共有の場に手応えを感じて、「EMConf JP」の開催を改めて決意できました。

――EMというポジションを置いていない企業もまだ多いし、コミュニティやイベントに「EM」という名称をつけることで、逆に「自分は違うかも…」と思ってしまう人も出てきそうな気もします。

あらたま:それは確かにそうで、そもそも「自分はEMなんだ」という自覚が薄い人もいますね。あとから振り返ってようやく「自分がやっていたのはマネジメントだったんだ」と気がつくこともあると思います。

現状ではSpeaker Deckにアップしたコミュニティでの登壇スライドをXなどで見たり、connpassでのイベント告知を見て、「EMConf JP」や各コミュニティに興味を持ってくれている人が多いようです。書籍でもWeb記事でも、どんな道筋でもいいので、最終的に何らかの知見に手が届きますように。そう願いながら、じわじわすそ野を広げていく段階かなと思っています。

コミュニティは実践や成果の“おすそ分け”の場

――あらたまさんは以前から、本業が忙しい中でも、ほかに「Startup in Agile」などのコミュニティの運営もしています。コミュニティ活動はご自身にとって、どういう位置づけですか。

あらたま:私は新卒の就職先もカンファレンス参加をきっかけに決めたくらい、コミュニティや会社の枠を超えたつながりには何度も助けられてきました。だから自分ができることがあれば、何らかの形で還元したいという思いがあります。

ただ、大前提として、本業ありきです。本業で成果を出して、何ならその宣伝も兼ねて、実践知をおすそ分けする感覚ですね。「EMゆるミートアップ」や「Startup in Agile」も、あくまで実践者のためのコミュニティという軸があり、そこはブレないようにしています。来年2月の「EMConf JP」も、実践する人たちのためのカンファレンスとして開催します。

ちなみに先日、「EMConf JP」のスタッフ募集をしたところ、想定の約3倍の応募があり、イベントへの期待の高さを感じています。開催前から参加者と熱量を交換できているので、当日も活気あふれる場になりそうです。私自身も今からとても楽しみにしています。

取材・執筆:古屋 江美子
編集:光松 瞳
撮影:山辺 恵美子

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