2024年3月18日
株式会社タイミー VPoE
赤澤剛(Go Akazawa)
2009年に株式会社ワークスアプリケーションズに入社、ERPパッケージソフトウェアの開発とプロダクトマネジメントに従事。2015年よりシンガポール及びインドにてR&D組織の強化、海外企業向け機能開発をリード。その後LINE株式会社での新銀行設立プロジェクト、株式会社アルファドライブ及び株式会社ニューズピックスでの法人向けSaaSの開発に携わった後、2021年1月にアルファドライブ執行役員CTO、2023年4月に株式会社NewsPicks for Business取締役に就任。2024年2月よりVPoEとしてタイミーにジョイン。
株式会社タイミー 執行役員CTO
kameike(亀田慧)
大学時代、スタートアップやメガベンチャー企業でインターンを経験した後、2017年、ピクシブ株式会社へ入社。アプリエンジニアとしてiOSアプリ開発へ従事する傍ら、メンターとしてタイミーをサポート。2019年6月、タイミーへCPOとしてジョイン。エンジニア採用や開発組織の構築に携わり、2020年8月にCTO就任。
「タイミー」は2018年のリリース以来急成長を続け、2024年2月にはワーカー数700万人を突破しました。タイミーが生み出した「スキマバイト」という新しい概念は、労働市場に大きな変化をもたらしています。
この急成長を実現するべく開発組織を率いてきたのは、CTOのkameikeさん(@kameike)です。タイミーの立ち上げ期から業務委託エンジニアとして関わり、多くのエンジニアとともに事業の急拡大を支えてきました。
2024年2月、元アルファドライブCTOの赤澤剛さんが、タイミーの新VPoEに就任。kameikeさんは「このタイミングでVPoEというポジションを設け赤澤さんを迎え入れたのは、組織のスクラップアンドビルドを成功させるためだ」と言います。
「今のタイミーの開発組織は、目に見えた課題が山積みな状態ではない。けれど、サービスと組織をさらに成長させ続けるためには、今の状態を揺るがしてでも組織を拡大しなくてはならない」と話すkameikeさん。赤澤さんが今のタイミーにジョインすることを決めた理由とは? うまくいっている組織に、なぜ大きな変化が必要なのか? CTOのkameikeさんと新VPoEの赤澤さんに取材しました。
赤澤:前職のアルファドライブでは、初めてCTOになりどうにか3年間務めました。2人でスタートした開発組織を40名規模に拡大しながら、そもそもCTOの役割とは何なのかを考えたり、日々もがきながらやってきました。でも3年目にふと、サービスの拡大に対してCTO職を「こなしている」ような感覚が自分にあると気づいて、ショックを受けたんです。「今のままでは、CTOとしてメンバーに申し訳ないな」と。
その頃には、3年の間に増えたさまざまな事業や組織をメンバーに任せることができており、同時に自分の熱量やその方向が変化していることにも気づきました。まだ事業は志半ばではありますが、これだけ優秀なメンバーが揃っている組織なら、僕が半端な状態でCTOを務め続けるよりも委譲すべきだ、と思いました。結果、後任のCTOを社外から招くのでなく、ずっと一緒に働いていて信頼していた社内のエンジニアにCTOを引き継げたことも、本当に良かったと思っています。
赤澤:私には、自分がCTOとして仕事をする上で指針にしている7人の“推しCTO”がいるんです(笑)。実は私を誘ってくれたCTOのkameikeさんとCPOのzigorou(山口徹)さんはその「推し」の中の2人でした。
私が理想とする開発組織と、タイミーの開発組織がすごく似ていたこともあります。私は「プロダクトは使われて初めて価値がある」と思っていて。そのためにエンジニアには、お客様への価値提供に徹底的に向き合い、必要なことはなんでもやる!というマインドであってほしい。そして、そんなメンバーを全力で歓迎する組織を理想としています。タイミーの開発組織は、そうした動き方を実現しながら顧客に価値を届け、実際に「売れるプロダクト」を提供していて、私にとってはとても魅力的でした。
kameike:今のタイミーには今後の組織拡大を担うキーパーソンが必要だと考え、ずっと探していたんです。
「タイミー」は、この2月で累計登録ワーカー数700万人を超え、ものすごい数のユーザーを抱えるサービスに成長しています。でも、エンジニアはまだ100人もいません。今後もサービスはどんどん成長していくのに今の規模のままでは、日々つつがなくプロダクトを運用するだけで、新しい価値を届けることは難しくなっていくでしょう。今後のサービスの成長ペースを考えると、開発組織も爆速で成長させていく必要がありました。
そんなときに赤澤さんと出会い、お互いに「目指す組織像」が近いとわかったんです。
私は良いサービスをつくるためには、「チームが顧客に提供するべき価値を解像度高く理解し、顧客価値を高める機能をどんどん開発できている状態」が理想だと思っています。赤澤さんも同じように考えているとわかり、もしジョインしてもらえればすぐに活躍してくれそうと感じていました。
赤澤:CTOが戦略を担うとすれば、VPoEの役割はその戦略を戦術に落とし込んで実行することだと思っています。開発組織に対する考え方にとても共感できるkameikeさんがCTOの組織なら、VPoEの戦略実効性を強めながら役割を果たして、タイミーが抱えている課題を一緒に解きたいし解ける!と強く確信しました。
kameike:メンバーを「ええやん!」とどんどん肯定し、称賛してくれる赤澤さんのパーソナリティも魅力的でした。変化に対して称賛をし、前に進めていく力は、自分になかったケイパビリティであり、ぜひ力を貸してもらいたいと思いました。
kameike:開発者が最大のパフォーマンスを発揮できる組織です。
私はよくF1のレーシングチームに例えるのですが、レースで勝つためには、レーサーだけがトレーニングをすればいいわけではありません。ピットインを短くしたり性能の高いマシンをつくったり、異なる専門性を持つ人たちが多様な角度でレーサーをサポートするからこそ、最高の結果が生まれます。
最高の結果を出す、つまり高い顧客価値を提供する機能をハイペースでリリースするには、レーサーにあたる「開発運用チーム」が単独でしっかり価値を届け、サポーターにあたる「CI/CD、SRE、DRE、プラットフォームなど」とうまく連携できている方がいいですし、開発組織とプロダクトチームの連携も強く求められる。タイミーではずっとこの考え方で開発組織をつくってきました。
kameike:現状を維持していくだけなら、うまくいっていると思っています。開発組織とプロダクトチームはしっかり連携できていますし、プロダクトも重大な障害をほとんど起こさずつつがなく動いていて、常に何らかの新規開発が行われています。
ただ、事業環境は大きく変化しているので、常に試行錯誤を続けていく必要があります。今後もプロダクトはハイペースで成長していく中で顧客価値を高め続けるための開発を担うには、今の規模では到底足りません。開発組織やシステムのあり方自体を、もっと急速に変えなくてはならないのです。
赤澤:確かに今のタイミーの開発組織は、問題が山積みというわけではありません。しかし、「一見うまくいっている組織をさらに良い状態にしながら拡大する」ことは、実はものすごく難しいチャレンジです。
おそらく実際に開発しているメンバーは「今の組織で十分うまく回っている」と感じている点もあるでしょう。一方で、経営層は必然的に二歩先、三歩先を見ているため「事業を大きくし、会社を存続させるには今の組織ではまだ足りない」と考えている。この認識のギャップを埋めなければなりません。
しかもタイミーでは今、サービスの伸びるスピードも求められる品質も、ものすごい勢いで高まっています。それに応えるためには、サービスの成長スピードに追いつく速さで組織を拡大し、成長する必要があります。
そのために、今ある組織の合理性を一度壊してでも中長期的なゴールのために新しい体制をつくりにいく、つまり「スクラップアンドビルド」が必要だと思っています。
赤澤:そうですね。急にたくさんの人を採用したりチームの切り方や開発プロセスが変わったりすると、チームの混乱や生産性の低下を招く可能性があります。
人が増えると、確実に短期的な組織の生産性は一時的に低下します。新しい方が入社した際にキャッチアップにコストを要するのは当然で、その方のアウトカムがオンボーディングコストを上回るまでに一定の期間を必要とします。でもその期間があるからこそ、一緒にどんどん新しい挑戦ができる組織になっていきます。
これが「短期的には非合理だけれども、中長期的には合理的な選択」なのだと思います。
kameike:うまくいっている組織の構造を変えると、どうしても現場に負荷が生じます。それに伴う生産性の低下は、経営層にとっても辛いものです。でも大きなジャンプをしようと思ったら、どうしても1回しゃがまなくてはなりません。
kameike:変化に対して、メンバーとマネジメントレイヤーが一緒に向き合っていくことが大切だと思っています。なぜ自分たちは今しゃがんでいるのか、何のために組織拡大が必要なのかを、しっかりとメンバーに理解してもらうこと、今いるメンバーに変化を伝え、議論し、実際の変化を体験して一緒に向き合っていくことが重要だと考えています。
また、拡大の過程ではマネジメントが立ちゆかなくなった瞬間に、色々なことがうまくいかなくなり、組織の崩壊に一気に近づきます。そうならないように、まずはEMをはじめとするマネジメントレイヤーの体制を整えつつ、付随する形でメンバーを増員するという順番で行うことも大切だと思います。
タイミーの場合、良い文化やそのタネはあるように感じますが、大きくスケールしていく中で開発組織のカルチャーを整えなければなりません。そのファーストステップとして赤澤さんにMVV(Mission、Vision、Value)をつくってもらっているところです。
kameike:例えば、開発組織が20人を超えて「自分だけでは見きれない」と感じるようになったとき、組織を2階層型に変更しました。
その際、開発組織を部門やチームに分ける必要があったのですが、プロダクト視点で切るべきか、事業視点で切るべきか、開発視点で切るべきか、あるいは過去の歴史を踏まえて切るべきか。当時は大きな組織運営の経験が豊富な方が組織にいなかったため、とても悩みました。
また、マネージャーが増えてきた時期には、それぞれ経験豊富なEMに、タイミーの組織をどのようにスケールさせていくのか深く対話する必要もありましたが、それを十分にこなせていない状況が続いていました。
組織づくりは意思決定の積み重ねであり、一度ルールを決めたからといってうまくいくわけではありません。絶対的な正解がない以上、月並みですが、うまくいくまであきらめないで模索し続けるしかない。今後は組織づくりのための戦略・戦術を赤澤さんと一緒に進めていくことができるので、心強く感じています。
赤澤:誤解を恐れずに言えば、kameikeさんの思考や言葉を「適切に雑に丸めて戦術にする」ことでしょうか。
kameikeさんの論理的思考や構造化の能力は並大抵ではありません。そしてだからこそ、チームのメンバーはすごい量の情報を一気に受け取ることになります。時にメンバーは、わかったような気はするけど実は理解が追いついておらず、十分にkameikeさんの思考が伝わっているとは言えない状態になってしまっているときもあるのではないかと感じました。そこで自分自身がVPoEとして戦術性を高めていく中で、必要に応じてkameikeさんの言葉を置き換えたり、程よく間引いたりして、メンバーが納得感を持って一緒に行動していきやすい状況をつくる部分で貢献したいと思っています。
一方、実際のチームでも、その開発を行う理由や背景について、私からしたら十分すぎるくらいに言語化できているのに、「kameikeさんレベルに言語化と戦略を練らなければ、提案や実行に移せないのでは?」と、プロセスやプラクティスをやや重視し過ぎて動き出しが遅くなってしまっているように見えるケースもありました。そんなときは「ここまで想定と言語化ができているなら十分だよ! ぜひやってみよう!」と、称賛と歓迎を持って、開発を前に進めていく手助けをしていきたい。そうして「思考や言語化の適切な粒度」について、開発組織全員で同じ認識をつくっていくことでも、開発者のパフォーマンスが最大化される組織づくりに貢献できればと考えています。
赤澤:私は「人間の感情」は、組織というアーキテクチャを構成する超重要な構成要素の1つだと思っているんです。CADDiの藤倉さんも言っているように、人間の感情を無視して組織を適切に設計し運営することはできません。感情を無視することは、組織の運営をするうえで合理的な手段とは言えません。
感情を重要視するのと同時に、組織の前提である「お客様やサービスに向き合う」ことも大切です。人の感情に向き合いすぎると、愛憎劇的な課題が生まれることがある印象があります。あくまでお客様やサービスに向き合う中で、適切にお互いを認識するような組織運営を目指しています。
また、私は、タイミーのタグラインである「はたらくに“彩り”を。」のもと、当社で働く人にも当然、自分たちの仕事を楽しんでいてほしいと思っています。そのため、前向きであること、前向きな気持ちになってもらうことを大切にしています。例えば、小さなことですが、非同期非対面を基本とする組織であれば、Slackやリモート会議で自分からスタンプやコメントを送ったり、やや過剰にでもリアクションしたりすることや、自分から相手を知るために歩み寄っていくことが基本だと考え、あらゆる行動や言動に留意しています。
一緒に働く人を信じることも大切にしています。というのも、シンプルに、私にとっては人を信じた方が楽なんです。「あの人はできないかもしれない」と疑っていたら、単純にマイクロマネジメント性が増して自分がやることも増えるし疲れますよね? 信じた結果、何か問題が発生したなら、そのときはメンバーと一緒に解決に向けて行動すればいいんです。そもそも、私1人では絶対にできないことをメンバーが一緒にやってくれているわけですから、信頼と感謝の気持ちしかありません。
赤澤:やっぱり、まず私がメンバーを信じきることだと思います。メンバーに寄り添い、その上で「信じている」と明確に伝えていく。組織の意思決定について徹底的に言語化し、なぜ大事なのか言い続ける。経営の側から信じるという順番が大切で、「メンバーが経営を信じてくれるから、経営もメンバーを信じる」という順番は、間違っていると私は思います。
加えて、メンバーにとって「報告や相談をするに値する人物」であり続けるための努力も欠かせません。「報告が上がってこない」と嘆くマネージャーという構図もありますが、それはメンバーに「報告や相談をしたりすれば、今の状況が好転する相手」だと認識されていないからではないでしょうか。
VPoEに就任した際、「VPoEを有意義な道具として使ってもらえる状態を目指したい」と社内に所信表明しました。VPoEである自分も、組織というアーキテクチャを構成する要素のひとつですから、VPoEという役割としてうまく機能できるように、メンバーに「VPoEは自分の業務や目的達成のために役立つ存在だ」と思ってもらわなくては。そう認識してもらえることこそが、VPoEとして獲得すべき「信頼」なんだと思っています。
取材:石川香苗子
執筆:一本麻衣
編集:光松瞳、王雨舟、石川香苗子
撮影:曽川拓哉
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