読まれるテックブログの極意は「書く人の心が折れない仕組み」。モノタロウのエンジニアに学ぶベストプラクティス

2023年8月21日

株式会社MonotaRO ECシステムエンジニアリング部門 EC開発Aグループ 商品推薦チーム

八木 俊樹

2020年10月に中途入社。モノタロウのサイトに表示されるレコメンド周りのシステムを担当。2020年11月の立ち上げ当初よりテックブログの運営を担当。

株式会社MonotaRO ECシステムエンジニアリング部門 EC基盤グループ 商品情報基盤チーム

中村 真人

2019年7月に中途入社。ECサイトの基盤技術をつくるアーキテクチャリングの担当を経て、現在はECサイトで使用するための商品情報データ構築を担当。2020年11月の立ち上げ当初よりテックブログの運営を担当。

株式会社MonotaRO コアシステムエンジニアリング部門 データ基盤グループ データマネジメントチーム

吉本 直人

2020年2月に中途入社。全社的なデータ活用推進のためのシステム基盤の運用・管理を担当。2021年5月よりテックブログの運営に参画。

株式会社MonotaROのテックブログは、記事を公開するたびに多くの注目を集め、今では月間1万人が訪れるブログに成長しています。

運営を担当するのは同社のエンジニア。通常業務に加えて、テックブログ運営業務として記事のテーマ選定から構成の策定、執筆者のモチベーション管理、内容のブラッシュアップまで一貫して担当し、記事の品質や更新頻度を担保しているそう。

「さぞ大変なのでは」と話を聞いてみると、何やらとても楽しそうな雰囲気。運営チームの皆さんに、「バズるテックブログ」を生み続ける方法を取材しました。

テックブログ運営の肝は「書き手1人に背負わせないこと」

——ヒット記事を連発しているモノタロウのテックブログは、どういうふうに運営しているんでしょうか?

吉本:ここにいる3名含め運営チームは6名で、みんなエンジニアとしての業務にあたりながらテックブログの運営をしています

八木:テックブログ自体は、2018年から採用を目的として発足していましたが、当時は「書ける人が書いていく」というスタイルで更新頻度もまちまち、質も担保できておらず、正直全然読まれていませんでした

せっかくやるなら、多くの人に読まれて採用にも役立てられるよう組織的に運用しようと、2020年の11月ごろに僕と中村さんの2人で新しい運営体制をつくることになったんです。

中村:新体制出発後の1本目は八木さんが書いてくれたんですよ。

▲1本目の記事を書いたという八木さん。株式会社MonotaROの本社は兵庫県。この日はリモートで取材を行いました

——実際に書いてみて、どうでしたか?

八木:運営する上で、まず書いてくれる人の気持ちを知っておくべきだと自分で書いてみましたが、想像していたよりずっと大変でした

僕は何をどうやったかという「HOW」を書くだけならわりと筆が進む方です。ただ、テックブログは社外の人にも読んでもらうものですから、プロジェクトの背景や前提の説明といった「WHY」も必要です。社内では言わなくても通じることも言語化しないといけないし、そういうことに限ってわかりやすく言葉にするのが難しい。社外秘の情報が混ざる場合もあるので、どこまで説明するべきかという情報の取捨選択も…。こういうことを考えながら書こうとすると、どう書けば読み手に伝わるのかわからなくなり、書くのがしんどくなってしまいました

そのとき中村さんが相談に乗ってくれたのが、大きな力になったんです。一緒に情報を整理してくれたり、表現や内容に客観的な感想やアドバイスをくれたりして、何をどう書けばよいのかがわかり、最後まで書き進めることができました。

中村:一人で書いていくうちにだんだんモチベーションがなくなってしまったり、どう書き進めればいいかわからなくなっちゃうこともありますよね。

八木:この経験から、テックブログの運営においては「執筆のストレスを執筆者1人に背負わせない」のが肝だと痛感しました

超忙しい業務の中でもテックブログの更新を維持するには、僕が悩んだ「情報の取捨選択が正しいかどうか」「わかりやすい表現かどうか」を客観的に判断できる伴走者が必要なはず。そこで、テックブログ運営チームは「テーマ選定から公開まで、執筆者に徹底的に伴走しよう」と決めたんです。

——ちなみに、八木さんが書いた1本目の記事はどんな反響があったんですか?

八木:約1週間で1110PVを記録し、はてなブックマークが74もつきました! それまでは記事を出してもほとんど反響がなかったので、いきなりこれだけの数字が出て、とても驚きました。

読者の知りたいことをわかりやすく伝えられるよう丁寧に書けば、ちゃんと結果がついてくると実感しました。この反響こそが、テックブログを書く一番のモチベーションになるとも感じましたね。

中村:八木さんも公開前は「読んでもらえるだろうか」と結構弱気そうでしたもんね。思ったより見てもらえて僕も嬉しかったし、「この方向性でなら、多くの人に読んでもらえる良い記事をつくっていけるはず」と手応えを感じられました。

▲八木さんが書いた1本目の記事。タイトルもテーマも魅力的

「執筆者が折れない仕組み」が読まれる記事を生み出す

——記事のKPIは何でしょうか?

中村:1カ月あたりの公開本数をKPIとしています。PVや面談申込数は、テーマやタイミングによって流動的に変わるので、それよりは「継続して公開すること」を大切にしたほうが健全な運営ができるんじゃないかなと。

——実際にどうやってテックブログを運営しているんですか?

吉本ざっくり言うと、①ネタ集め、②ネタ選定、③伴走担当の割り振り、④執筆者と記事のアウトラインを作成、⑤執筆、⑥レビュー、⑦公開、という流れです。

ネタは、Notionでつくったネタ帳に随時記入してもらっています。ブログとしてふさわしいものをジャッジした上で、伴走者となる運営メンバーを割り振ります。1本の記事には、メインとサブの2人の運営メンバーがつきます。

書く前には、運営メンバーと執筆者が相談しながら、記事で最も伝えたいことを設定し、そこから逆算しながら記事のアウトラインを決めていきます。執筆に入ってからは週1回のミーティングで進捗をチェックし、必要に応じてスケジュールも調整します。その後のレビューでは、書く前につくったアウトラインと原稿を見比べながら、執筆者と一緒に記事をブラッシュアップしていきます。出来上がった記事はCTOの最終レビューを経て、公開です。

——執筆者はどんな人が多いですか?

吉本毎年春と秋に開催している社内カンファレンス「ManabiCon(マナビコン)」で発表をしたエンジニアに、「その内容をブログにも書きませんか?」と声をかけることが多いですね。

中村:ほかには、既存のネタと、テックブログ本来の目的である採用をリンクさせて明確にターゲットを定め、適任者に依頼することもありますね。書きたい人に書いてもらうこともありますよ。

——声をかけた人が「今はあまり書くモチベーションがない…」というときはどうしていますか?

吉本:「書きましょう」と押し付けるのではなく、あくまで書きたい気持ちを「引き出す」ことを心がけています

まずは最近の業務について話を聞きながら、書きたいと思ってくれるネタを探していくことが多いですね。本人は「大した業務はしていない」と言うものの、よくよく話を聞くと「すごい!」「興味を持つ人がたくさんいそう!」と思うことがいっぱいあるので、その気持ちを素直に伝えながら、一緒にテーマを決めていっています。

▲「伝えたいことが見つかると、書きたい気持ちにつながります」と語る吉本さん

——書き始めてからの執筆者のモチベーションを保つために、どんなことをしていますか?

八木:週1回のミーティングで話を聞いたり、励ましたり、スケジュールに無理がないように調整したりとサポートしています

もちろん、業務が忙しくてだんだんモチベーションが下がることも、書きたかったことを見失ってしまうこともあります。強制的に書かせるのは絶対したくないので、執筆者と話し合った上で、途中で制作を諦めることもあります。もちろん、最後まで進めてもらえるようできる限り努力はするのですが。

吉本:僕たちも自分自身で書いてきたから「やらされ感がありながらも書く」のが一番つらいのは痛いほどわかります。そうならないよう、運営メンバーが寄り添いながら一緒に記事をつくっていくことを大切にしています。

——記事の公開後には、反響を伝えたりするんでしょうか?

八木:もちろんです! 公開後の反響は運営チームでキャッチして、執筆者にできるだけ具体的に伝えるようにしています

たとえば「NewsPicksで取り上げられて著名人からコメントがついた」とか、「はてなブックマークのホットエントリに入った!」とか、「Twitterで嬉しいコメントをもらえた」とか。中には記事がきっかけでカンファレンスに誘われたり、雑誌の連載を打診されたりした人もいますよ。

反響を伝えるとみんな喜んでくれますし、「またやってみようかな」と言ってもらえることも多いです。

吉本:あとは記事のはてなブックマーク数やPV数を計測して、執筆者に必ず伝えてます。記事経由でカジュアル面談の申し込みが来たことなども伝えると、とても喜んでくれますね。最近は執筆者から「面接で“ブログ見てます”と言われました!」といった声も届くようになりました。

八木:これらの反響は、執筆者だけでなく部門全体に共有しています。それを見た人から「自分も書きたい、こんなネタはどうか」と声をかけてくれることも増えてきて、いい循環が生まれつつあると感じます。「ネタはないんだけど、何か書きたい」という人もいますよ。

中村:「書きたい」という気持ちさえあれば、いくらでもおもしろいことは引き出せますから、そういった申し出はとても嬉しいですよね。今となっては「ブログを書くと、何か反響がもらえたり、嬉しいことが起こる」というのが、ある程度社内の共通認識になったので、我々から依頼した場合でも、執筆者のモチベーションを支えてくれている気がします。

——多くの読者に読まれるブログをつくるために大切なことは何でしょうか?

中村:やはり継続することが一番大事です。記事の数自体が増えていくことで、コンスタントに読まれる記事も増え、見てくれる人の総数も増えていきますから。

吉本:アウトラインをつくるときの執筆者とのコミュニケーションも重要ですね。執筆者が伝えたいことのさらに奥に隠れている「本当に伝えたいこと」を引き出すのが自分たちの役割。そのうえで、執筆者がすいすい書けるようアウトラインを整えられれば、よい記事がつくれると思います。

八木:あとはタイトル決めかな。0から1として記事自体をつくり出すのは、執筆者の力あってこそ。でも、僕たち運営者が客観的な視点をもって伴走することで、読んでくれる人にとっての記事の魅力を1から10へと増幅することはできます。タイトル決めは、それが最大限に活かされるポイントです。執筆者からも案をもらいつつ、運営メンバー同士でも何度も考え直して、具体的な数値や効果を入れるなど今までに良い結果が出たタイトルの特徴を盛り込みながら工夫を重ねています。

▲運営メンバーが記事のタイトル案を出し合う様子(「7ヶ月で累計7万人が訪れた。量よりも質を重視したテックブログ運営ノウハウ|モノタロウテックブログ」より引用)

ブログの運営で鍛えられる「伝える力」「読み取る力」で、エンジニアとしてもレベルアップできる

——テックブログ運営と普段の開発業務を両立させるのは大変ではないですか?

中村・八木・吉本:超大変です(笑)

——どうして今まで続けられているんですか?

中村:テックブログ運営に本気で向き合うと、エンジニアの業務上役立つスキルを身につけられるんです。

ひとつは、人に何かを伝えるスキル。これは開発はもちろん、仕様書を書くときにも活きていますね。「前提を知らない人に伝わるように書く」のは、テックブログも仕様書も同じ。記事を何本もレビューしていると「いいこと書いてるのに、前提が抜けているせいで伝わりにくくてもったいないな」と悔しく思うことがあってね。自分が書いた仕様書がそうなっていないかチェックできるようになると、伝わりやすい表現で書けるようになります。

▲「“伝える力”は必要不可欠なソフトスキル。あらゆる場面で役立ちます」と語る中村さん

吉本:読み取る力も仕事に生きています。エンジニアであれば、普段のチーム開発でソースコードを読んだり書いたりすることが多いので、いかに読みやすく書くかはもちろん、どう読み取るかも不可欠なスキルだと思います。テックブログ運営で培った、執筆者の伝えたいことを類推して読み取る力が生きていると感じます。

八木:記事のアウトラインをつくるときの執筆者とのコミュニケーションで「相手の思いを引き出す」ためのやりとりを繰り返してきていることも、1on1など普段のコミュニケーションに役立っていると感じます。

また、自分で記事を書けば担当業務への解像度が上がりますし、書いたものをいろんな人にレビューしてもらうことで、自分のアウトプットをフラットな視点で見られるようになるのもいいところですね。

吉本:記事の制作をきっかけにいろいろなチームの人と関われて人脈も広がりますし。両立が大変な分、得られることもたくさんありますよ

——これからテックブログをどんなふうにしていきたいですか?

吉本:自発的に記事を書いてくれる人をもっと増やしていきたいですね。現状ではそういった人はまだ少なくて。まずは一度書いてもらって、工数感や進め方のイメージをつけてもらいたいし、自分の記事に反響をもらう嬉しさを感じてみてほしいなと思っています。

中村:同時に、運営メンバーも増やしたいですね。最終的には我々運営チームのメンバーだけではなく、開発組織全体として、誰でもできるようになればよいと思います。エンジニアとして役立つスキルも身につきますから、多くのメンバーにメリットを享受してもらいつつ、今よりもっと気軽に記事を書ける文化に変えていきたいですね。

吉本:手前味噌ですが、うちの会社にはすごい人がたくさんいるんです。それを発信できればその人のすごさも伝えられますし、会社に魅力を感じて応募してくれる人も増えるはずです。

八木:本当に「どうして発信しないの?」「もったいない」と思う人ばかり。テックブログを書いて、それが多くの読者に届くことで、自分の強みに気づいてもらえたらと思いますね。いずれはブログという形にこだわらず、たとえばカンファレンスとか、何かもっと社外に発信したり、業界全体に貢献できるような場をつくっていけたらと思っています。

取材・執筆:古屋 江美子

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