最新記事公開時にプッシュ通知します

だって最高のホビーだから。プログラミング言語「HSP3」を30年開発している理由【フォーカス】

2026年1月28日

ONION software 代表

おにたま(武田 寧)

1966年生まれ。1980年代より同人ソフトサークル「ONION software」として活動し、数々のゲーム作品を発表。1996年よりWindows向けインタプリタ言語「Hot Soup Processor(HSP3)」の開発・公開を開始する。本業では『ボクと魔王』などで知られる株式会社ツェナワークス技術開発責任者として、コンシューマーからスマートフォンアプリまでさまざまな商業ゲーム開発に携わる。著書に『最新HSP3.3プログラミング入門』(秀和システム)など。
公式サイト「HSPTV!」
GitHub
X:@onionsoftware

なぜAI全盛の今も、Windows 95時代から続く「型安全ではない」国産言語が愛され続けているのか?

「HSP3(Hot Soup Processor)」というインタプリタ形式の言語・開発環境があります。1996年にリリースされ、BASICライクな書式でプログラムを実行可能。日本のフリーゲームやフリーソフト開発の土壌を支えてきました。

開発者は、同人ソフトサークル「ONION software」代表のおにたま(武田 寧)さん。本業ではゲーム開発会社の技術統括を務めるプロのエンジニアでありながら、約30年間にわたり、HSP3の開発とメンテナンスを続けてきました。

そんなHSP3を取り巻くコミュニティは、今なお活況です。2003年から毎年開催されている「HSPプログラムコンテスト」には毎年、100以上のアイデアあふれる応募作品が寄せられています。

生成AIによるコーディングや、UnityやUnreal Engineといった強力なゲームエンジンもある現代において、なぜHSP3は開発され続け、そして使われ続けているのか?

「プログラミングは安くて手軽で、面白いホビーですから」と語るおにたまさんにお話を聞きました。

コードを書くことそのものが「思考プロセス」だから

――HSP3とはどんな言語なのか、特徴を教えていただけますか。

おにたま:「試行錯誤のしやすさ」は初期から一貫していると思います。直感的にプログラムを書けて、すぐに実行して試せる。

もともと僕は、言語仕様に強いこだわりがあるわけではありません。初期は80年代のBASICをベースにしつつ、自分なりにゲームなどがつくりやすいよう拡張しました。

例として、当時のBASICは行番号依存でコードの使い回しが難しかったため、GOTOやGOSUB命令に頼らなくても処理を記述でき、プログラムの再利用性を高められるような構造にしました。

その後30年で関数やフレームワークなど、時代に合わせてモダンな概念も取り入れていきました。

一方で、クラスや厳密な関数型といった、現代のプログラミングでは主流となっている作法はあえてあまり取り入れていません

HSPスクリプトエディタのイメージ。なおHSP3は2025年9月、約4年ぶりとなるメジャーアップデート「HSP 3.7」をリリース。大規模なコードを安全に記述できる変数管理機能や、ゲーム制作を支援する「珠音(たまね)ドットフレームワーク」、AI合成音声のサポート搭載など、現代の技術トレンドも取り入れている。

――昨今のトレンドである「関数型プログラミング」や「オブジェクト指向」などを、意識的に取り入れていないということでしょうか。それはなぜですか?

おにたま:なんというか、HSP3のヘビーユーザーである僕自身が、「すごくプログラミングができる」わけではないから、といいますか……。

――どういうことでしょうか。

おにたま:小さな機能をひとつ実装しては動かして確認し、また次を足して……というふうに、積み上げるようにコードを書いていくスタイルが、僕には一番合うんです。

数学的思考に優れたエンジニアの方なら、まず頭の中で全てのロジックやクラス構造を組み立ててから、一気にコードに落とし込めるのでしょう。最初から完璧な設計図を描いて、その通りにゲームを実装していく人もいると思います。

でも僕の場合は、頭の中で考えることと、コードを書く作業が、ほぼ同時に行われている感覚なんです。「とりあえずキャラクターを表示してみよう」と書き始め、「動かしてみたらなんか違うな、じゃあ次はこうしよう」と、実行画面を見ながらアドリブのようにコードを継ぎ足していくやり方なのですね。

つまり、頭の中にあるアイデアや構想の整理も兼ねてプログラムを書いている側面が大きい。

――書きながら考えるという、思考の過程とコーディングが直結したスタイルが好きなのですね。

おにたま:はい

例を挙げると、麻雀ゲームをつくっているうちに「なんだか普通にやってもつまんないな」と思ってしまい、相手キャラに合わせてさまざまな「イカサマ」ができるという機能の実装に熱中してしまったことがありました。

あるいは、RPGをつくっていた時のことです。仲間が主人公の後ろを一列についてくる動きを見て「いや、人がこんなきれいに整列してついてくるのは不自然だろ」と思ってしまった。

そこで、仲間が勝手に動き回るようにプログラムを書き換えてみた。それがさらに発展して、「じゃあ、もう戦闘もプレイヤーの意思とは関係なく、こいつらが勝手に戦ったり逃げたりすればいいんじゃないか?」と考えて、最終的には自律して仲間が動くゲームになってしまいました。

▲ONION softwareから発売したPC8801向け同人ゲームの一例

――もう完全に別のゲームですね。

おにたま:これも、最初からしっかりと設計してつくっていたら、たぶん生まれませんでした。

もちろん、仕事で行うような大規模開発なら話は別です。

ですが個人の趣味でクラスの定義や継承関係の整理を強制されると、途中で「やっぱり違う仕様にしたい」と思っても気軽に修正するわけにもいかなくなるため、試行錯誤や思考の妨げになる。そのため、型安全性のような仕様はわずらわしく感じてしまうのです。

なのでHSP3では、なるべく直感的に、エディタを起動してコードを書けばすぐに動く、という手軽さを維持しています。

// HSP3のコード例:ウィンドウとボタンを表示
mes "ボタンを押してください"
button gosub  "クリック", *click
stop

*click
dialog "こんにちは!"
return

▲HSP3の記述例 平易な命令文で動かせる

「自分のため」が「みんなの遊び場」になるまで

――30年という期間は、個人のソフトウェア開発としては驚きです。これほど長く開発を続けてこられたモチベーションの源泉は、どこにあるのでしょうか。

おにたま:大きく分けると、3つある気がします。

最初から今まで一貫しているモチベーションは、純粋に「自分のため」です。

HSP3が生まれたのは1996年(当時はHSP)ですが、その前身(LSPと呼ばれる)は1994年のこと。当時は、世の中がMS-DOS環境からWindows 3.xやWindows 95へと移行していく激動の時期でした。僕自身、1980年代からBASIC言語やMS-DOS環境などを使ってゲームをつくっていたのですが、Windowsが登場して、開発環境が一変してしまいました。

MS-DOS時代のような手続き型とは異なり、アプリケーションにはイベント・ドリブンのような新しい概念が取り入れられ、それまでの開発技法が使い回せなくなった。なので「自分が今まで通り、手軽にゲームをつくるための道具が欲しい」と思ってつくったのがHSPの始まりです。

――自分に合った開発環境をそれほど重視しているのですね。

おにたま:そうですね。

持論ですが、僕はゲームにおけるプログラミングというのは「表現のための手段」だと思っているんです。

特に、さまざまなゲームデザインが開拓された現代では、ゲームの「ルール」の目新しさだけで勝負するのは難しくなっています。一方で、ゲームのシステムそのものだけでなく、それに付随する演出や世界観、キャラクターの挙動といった手触りの部分が、プレイヤーの心に刺さることが多いのではないか、と。

そこで、画面がフェードインするタイミングの心地よさや、ボタンを押した瞬間のレスポンスといった、「ここを見せたい!」という細部をつくり込むには、自分の手足のように動かせる道具が必要です。その道具が、僕にとってはHSP3なのです。

――一方で、現在は他にも便利な開発ツールが生まれているのではないでしょうか。

おにたま:確かに、今どきのゲームエンジンや開発用フレームワークは、本当に素晴らしいツールばかりです。ただ、こうしたツールでは、細かな演出において多くの処理が自動化され、非同期で動くように設計されていることも多い。便利である反面、コンマ数秒の演出タイミングを完全に制御しようとすると、かえって微調整が難しい場合があります。

その点、HSP3は基本的に、書いた通りの順番に処理が進む「同期的」な動作をするので、僕としては細かい演出のタイミングを制御しやすいと感じるのです。

今でも仕事でアイデアが思いついた時のプロトタイプ作成や、ちょっとしたツールをつくるときにはHSP3を使っています。自分が一番使いやすい道具としてメンテナンスし続けてきた側面は大きいですね。

――となると、当初はユーザーへの公開を意識していなかったのでしょうか。

おにたま:あまりしていませんでしたね。あくまで、「自分用のツールだけど、よかったら使ってみてね」という感覚でした。ところが、公開してみると予想以上の反響があり、「こういうのが欲しかった!」という声や機能追加の要望をいただくようになって、自分以外のニーズも考えるようになりました。

そうした中で生まれた2つ目のモチベーションは、「教育」です。僕は少年時代、八王子にあったパソコンショップによく出入りしていたのですが、そこでは、店員さんが子どもにプログラミングを教えていたんです。その原風景に加え、僕自身が幼いころに初めてパソコンの機能に触れたときに心からワクワクした経験があったので、人に教えることにも興味がありました。

そこにおいて、ちょうどHSP3が初学者でも書きやすいBASICライクな仕様なので、自治体さんと協力してプログラミング教室などを開いたり、入門用の書籍を出したりするようになりました。

教育用途を意識してからは、「全角スペース」なんかが混じっていてもエラーにならず、そのまま実行できるような仕様も取り入れています。普通の言語ならエラーになりますが、初心者がそこでつまずいて挫折してしまうよりは、「適当に書いてもまずは動く」という楽しさの提供を優先したかったんです。

――「自分のため」のツールが、「教育の道具」にもなったのですね。

おにたま:そして3つ目のモチベーションは「新しいものや面白いものを見てみたいから」です。

2003年から「HSPプログラムコンテスト」というものを開催し始めたのですが、そこには自分ひとりでは絶対に思いつかないような、アイデアが尖っていたり、エネルギーに満ち溢れていたりする「予想外の作品」がいくつも寄せられてくるんです。

「HSP3で、こんなものがつくれるのか!」と、僕自身が驚かされました。そうして「もっといろいろな機能を渡せば、きっと僕が想像できないものをさらにつくってくれるに違いない」と思うようになったのですね。

そうした、ユーザーが自らの手で生み出す新しい作品を見ることが、開発を続ける大きな原動力になっています。

選手よりも「審判」をつくりたい子ども:AI時代にコードを書く価値

――「予想外の作品」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

おにたま:例えば、プログラミング教室で子供たちに「自由にゲームをつくってごらん」と言うと、10人のうち8人は、ブロック崩しやシューティングゲームといった定番のジャンルに挑戦します。

一方で、毎度1〜2人ぐらいは「なぜそれをつくった!?」と聞きたくなるような作品を生み出してくるのです。

あるとき、野球を題材にしたゲームをつくろうとしている子がいました。「野球ゲームかな?」と聞いたら、彼は真顔で否定し、

違う。審判をつくりたいんだ

と語ったんですね。どうやら、ひたすらストライクやボールを判定し続ける審判ゲームを制作したかったようでした。

――なかなか出てこない発想ですね。

おにたま:はい。このように自由に遊べる道具があると、尖ったものをつくる人が出てくるのです。そうした、ある種の情熱を受け止められるような土壌を提供する意味でも、HSP3を続けていきたいのです。

――とはいえ、今は生成AIが進化しています。そういう変わったゲームも、AIに頼めばつくれるのではないでしょうか?

おにたま:確かに、プログラミングができなくても、ある程度のゲームが制作しやすい時代になりました。ただ、AIはよくある野球ゲームをつくれるかもしれませんが、「審判になりたい」というような突拍子もない個人のこだわりを形にするのは、まだそこまで得意ではないんじゃないかな? と思います。

もしAIにつくらせようとしたら、特殊な仕様を伝えるために「打つ機能はいらない」「走塁もいらない」と指示するうち、しまいには「こう動かしたいから、判定のロジックだけをこう書いて」といった、プログラムの処理構造を理解した上での細かなプロンプトも必要になってくるでしょう。そうして生成されたコードにも、細かな修正が要るはずです。

――AIにつくらせようとした結果、結局自分でコードや仕組みを理解する必要が出てくる、と?

おにたま:そうなることも多いのではないかと。エラーが起きた時、「なぜ動かないのか」と問題を分解して切り分ける。そして「コンピュータがこう動いているはずだから、AIにはこう指示しなきゃいけないな」と考える。その思考プロセスは、結局のところプログラミングそのものです。

AIによるコーディングを否定するつもりはないのですが、完全にAIに丸投げするより、最初からコーディングを学びつつ自分の手も動かしながらつくった方が、最終的には早いこともあるかもしれません。

それに、コーディングを通してコンピュータの「仕組み」を知っておくと、応用の幅が大きく広がる。そこから、新しいものが生まれてくるんじゃないかな、と思うのです。

――「仕組み」を知ると、新たなものが生まれやすい。

おにたま:はい。プログラムのレベルまで降りて「画像を表示する命令」「音を鳴らす命令」「入力を受け取る命令」といった、コンピュータが動く「仕組み」を細かな粒度で知っていれば、自由な発想が生まれやすいのでは、と。

例えばですが、「ウィンドウのサイズを変える命令」を使って、ダメージを受けるたびに「ゲーム画面そのものが物理的に小さく縮んでいく」ような演出にしてみる。あるいは「文字を表示する命令」を使って、文字そのもので敵を攻撃するシューティングゲームをつくってみる……など。

このように要素を分解し、自分の発想と組み合わせて新たなものを生むというのは、「仕組み」を知っている人間ならではの強みです。

そうした点も意識して、HSP3ではWindows APIを呼び出してOSの機能に直接触れたり、Raspberry Pi版ならハードウェア制御ができたりと、コンピュータの根幹に近い部分に親しめるようにも設計しています。

――そうした「仕組み」に触れやすい、というのもAI時代にコーディングに触れるメリットということですね。

おにたま:あと……。そもそもの話になってしまうのですが。

僕は、プログラミングというものを「安くて、手軽で、面白いホビー」だと思っているんですよ。

「プログラムを書くこと、ゲームをつくること」自体が、もうゲームのように面白い。苦労して組み上げて、思い通りに動いた時の喜びというのは、時代が移っても変わらないだろうと感じています。

そうした意味でも、「自分で手を動かし、コンピュータのことを理解しながら何かをつくる」という体験には、独自の価値が残っていくのだと考えています。

ベーマガ時代からの「衝動駆動開発」を受け止めるために

――毎年、年末近くになると、おにたまさんは『東方Project』原作者のZUNさんなどとHSPコンテストの応募作品を振り返るYouTube配信を行っています。お話を聞いていると、毎度おにたまさんやZUNさんが尖っていたり勢いがあふれていたりする作品を見て、とても楽しそうに笑う理由がわかってきた気がします。

おにたま:ありがとうございます。お酒でも飲みながら、ゆるく見ていただけるとちょうどいいコンテンツだと思います(笑)。

昔話をすると、2003年まで発行されていた雑誌「マイコンBASICマガジン(ベーマガ)」には、プロではない一般の投稿者がつくった、ユニークなプログラムがたくさん掲載されていました。技術的には高度でなくても、情熱とアイデア一発で勝負しているような作品がいくつもあったのです。

HSPプログラムコンテストに寄せられる作品を見ていると、ふと、あの頃のベーマガのことを思い出すことがあります。

誰かから強制されたわけでも、仕事でもない。ただ「これをつくりたい!」という初期衝動のまま手を動かして生まれていくもの。そうした衝動はきっとある種の普遍性があり、それが現代にも形になって、コンテストに寄せられてきているのかもしれません。

▲2025年11月30日配信“[OBSLive] 自作ソフトの祭典! 南治一徳さんとともにHSPプログラムコンテスト2025特集配信”のスクリーンショット。2025年度のゲストはゲームデザイナーの南治一徳さん。映像内の応募作品は部首を組み合わせて漢字をつくるパズル「漢々学々 ~球体を回転して解答ゲーム~」

――衝動を受け止める場所として、コンテストが機能している?

おにたま:そうなっているといいな、と。

つくったものを発表して共有し合い「なんだこれは!」とツッコミを入れたりしてみんなで楽しむ。HSPプログラムコンテストにはそうした一連のサイクルがあるので、「あ、変なものをつくってもいいんだ」「僕の作品でも大丈夫かな」と参加のハードルが下がり、いまだに毎年100点以上の応募が寄せられているのかな、とも感じます。

そして、そうしたゲームやソフトウェアが集まる場所を維持し続けることには一定の意義があるのかもと、最近は特に思います。

――今後のHSP3の展望についてお聞かせください。

おにたま:これからも、時代に合わせて進化は続けていきます。現行の「HSP 3.x」シリーズは2005年から続いていますが、次世代となる「HSP4」を今つくろうと思っているところですし、MacやWebブラウザなど、新しいプラットフォームでより快適に動くように改良を続けていきたいと考えています。ただ、環境が変わっても、先ほど言った「直感的に書いて、パッと動かせる」という根幹を変えるつもりはありません。

プログラミングは、今後もたまらなく面白い「ホビー」であり続けるはずです。何かをつくりたいと思った人が「コードを書く楽しさ」を知る選択肢のひとつとして、これからもHSP3を手に取ってもらえたら、とても嬉しいです。

▲HSPプログラムコンテスト2025入賞作品のひとつ『僕らは希ガスに溺れていく』。擬人化された希ガスが登場人物の「乙女ゲーム」(画像はHSP3公式サイトからスクリーンショット
▲HSPプログラムコンテスト2025で優秀ゲーム賞を受賞した『これがほんとのクレーンゲーム』。物理演算により細かく揺れるクレーンで、工場内のオブジェクトを運ぶゲーム(画像はHSP3公式サイトからスクリーンショット)

取材・執筆・編集:田村 今人
撮影:曽川 拓哉

関連記事

人気記事

  • コピーしました

RSS
RSS