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2025年12月25日

「お絵かき掲示板交流サイト Petit Note」管理人・開発者
さとぴあ
2000年ごろより「お絵かき掲示板」のユーザーや管理人として活動。2018年、スクリプトの保守・改修のため独学で関連ツール開発に関わり始める。現在はPHPスクリプト「Petit Note」(さとぴあさんが運営するサイトと同名)の開発や「POTI-board EVO」の保守、HTML5製ペイントツール「PaintBBS NEO」「litaChix」の改良・翻訳などを手がける。趣味はロードバイク。
お絵かき掲示板交流サイト Petit Note
X:@satopian
GitHub:@satopian
2000年代、Web上の創作文化の中心地として「お絵かき掲示板」が栄華を極めていました。専用ソフトを持っていなくても、シンプルな書き味によりブラウザ上で直接絵を描くことができ、そのまま掲示板に投稿可能。描画過程をアニメーションで再生して技術を共有しあったり、絵を通した交流ができたりしたこの場所は、多くのクリエイターにとっての原風景でした。
一方で2010年代中盤以降、その中核技術であったJavaアプレットが廃止され、掲示板の言語のバージョンが古くなり多くのお絵かき掲示板が閉鎖や閲覧不能の状態に追い込まれていきました。
しかし、その文化は潰えていません。HTML5やJavaScriptといった現代のWeb標準技術によって「当時の描き味」を再現・進化したWebアプリが登場し、今も息づいています。その「復興」の裏には、消滅の危機に抗い、お絵かき掲示板関連ツールを現代環境に適合させ続けてきた、有志の人々の存在がありました。
そのキーパーソンのひとりが、さとぴあさんというユーザー。本業はソフトウェアエンジニアではなく、25年来の「お絵かき掲示板ユーザー」です。しかしお絵かき掲示板がいよいよ消滅の危機に直面した2018年、さとぴあさんは、54歳にして自らコードを書き始めました。現在ではGitやWSL2、Node.jsなどを駆使して開発・保守を行いつつ、自らも「お絵かき掲示板交流サイト Petit Note」の運営を続けています。なぜ、そこまでして「お絵かき掲示板」を守り続けるのか? それは、Javaアプレット時代の文化と「描き味」を今につないだ人々の物語。
さとぴあ:きっかけは2000年。当時から私は個人サイトを運営していました。ある日、相互リンク先のサイトでお絵かき掲示板が設置されているのを目にしました。pooさんという方が開発して公開した、知る限りで最古のお絵かき掲示板「OekakiBBS」(※1)です(v1.00は1999年12月に登場した)。
すぐに私はお絵かき掲示板にのめり込むようになり、2000年6月には自分のサイトにもこの掲示板を設置しました。同年10月には、キャンバスサイズを自由に変更できる機能を備えた、お~のさんの「PictureBBS」(※2)を設置しました。
同時期、ユーザーが描いた手順を掲示板上で再生できる、描画アニメ機能を備えたお絵かきアプレット「PaintBBS」も登場しました。開発者の「しぃちゃん」さんは、2003年前後に高機能なお絵かきアプレット「しぃペインター」をリリース。この頃にはWeb向けの主要なお絵かき掲示板のペイントツールが出そろっていました。
その後の2005年、私は現在も運営しているお絵かき掲示板交流サイトを開設しました。これらのお絵かき掲示板のペイントツールを導入して、多くの人々に使っていただきました。また自分でもイラストを描いて楽しんでいました。
(※1)pooさんのスクリプトには、「お絵かき掲示板」という名称が使われていた。
(※2)お~のさんのスクリプトには「らくがき掲示板」という名称が使われていた。
さとぴあ:存在そのものが衝撃だったからです。「すごいサイトを見つけた。Web上で絵が描けるんだ!」と。
また、振り返ってみれば「ほど良い緊張感」も良かったのかもしれません。私はPC用のペイントツールでも絵を描きますが、お絵かき掲示板で描く時のほうが丁寧に描く傾向があります。描いたものを投稿したら「他の人が見る」という前提があるからです。
さとぴあ:ひとついえることとして、お絵かき掲示板のペイントツールは単体では使用できず、投稿を受け付けるCGIなどの掲示板システムが必要です。そして、お絵かき掲示板が登場した当初は、使いたいペイントツールごとに、対応する掲示板を設置しなければなりませんでした。
PaintBBSを使いたいならPaintBBSの掲示板を、PictureBBSを使いたいならPictureBBSの掲示板を、別々に設置しなければならなかったのです。
しかし、2001年に「BBSNote」という画期的な掲示板スクリプトが登場しました。これはひとつの掲示板上で、プルダウンメニューから複数のペイントツールを切り替えて使うことができるものでした。
さとぴあ:私は2001年12月にこのBBSNoteを導入し、以来17年間にわたり使い続けることになります。
しかし、そんなお絵かき掲示板に2010年代、逆風が吹きました。
さとぴあ:ご存知かもしれませんが、大きな転機は、お絵かき掲示板の中核技術であった「Javaアプレット」が、Webの世界から徐々に排除されていったことです。
具体的には2014年のJavaアップデート(Java 7 Update 51)から、セキュリティポリシーが厳格化し、PCの「Javaコントロール・パネル」を開いて「例外サイト」にURLを指定しなければ、アプレットが起動しなくなりました。ユーザーが個別に設定しないと、絵が描けなくなったのです。そして追い打ちをかけるように、2017年には主要なブラウザにおけるJavaプラグインのサポート自体が終了してしまいました。
すでに標準的なブラウザでなくなりつつあったInternet Explorerを使えば辛うじて動作しましたが、そこまでして使ってくれる人が増えるはずもなく、多くのお絵かき掲示板交流サイトが、運営を終了していきました。
また、PaintBBS、しぃペインターを開発していた「しぃちゃん」さんのサイトも2006年に更新が途絶え、消滅してしまいました。
さとぴあ:その窮地を前にして登場したのが、2016年に開発が始まった、funigeさんの「PaintBBS NEO」です。
これは、Javaアプレットとして動作していた「PaintBBS」の挙動や通信を、HTML5とJavaScriptで再現したものです。
NEOは、BBSNoteなどの既存のお絵かき掲示板に2行追加するだけで動作しました。そのためサーバー側のプログラムを苦労して書き換える必要がありませんでした。
たった2行追加するだけで、Javaアプレットのための設定を読み取って動作したのです。
私は2017年5月にこの「PaintBBS NEO」を、運営しているお絵かき掲示板交流サイトのBBSNoteに導入しました。結果的にHTML5・JavaScriptに対応したおかげで、PCだけでなく、Javaアプレットが動作しなかったタブレット端末やスマートフォンでも、お絵かき掲示板で絵が描けるようになりました。funigeさんによるPaintBBS NEOの開発は、お絵かき掲示板の歴史におけるターニングポイントだったと私は考えています。
さとぴあ:いえ、そう簡単にはいきませんでした。今度はサーバー側の「掲示板スクリプト」に限界が訪れました。
2018年、PaintBBS NEOにも描画手順を記録再生する機能が追加されました。しかし、その動画のバイナリデータはオリジナルのPaintBBSとは異なる仕様のものでした。そのため、「BBSNote」のセキュリティチェックで動画が拒絶されてしまいました。
そして、その問題を解決するには、「BBSNote」をかなり改造しなければならないことがわかりました。
実のところ、PaintBBS NEOの開発者であるfunigeさんが、NEOの動作確認用のサンプル掲示板として使っていたのは、2000年代初頭から存在するPHPスクリプト「POTI-board」でした。POTI-boardを前提とした仕様になっており、BBSNoteでは動画を受信することができなかったのです。
しかも、サーバー上のPerlのバージョンが上がると、古いBBSNoteはそもそも動かなくなってしまうこともわかりました。
さとぴあ:それが、できなかったのです。BBSNoteは「再配布禁止」のライセンスだったため、有志で改造したものを配布することができませんでした。
しかし幸い、PHPスクリプト「POTI-board」の作者SakaQさんは、改造と再配布を許可してくれました。こちらも、当時最新のサーバー環境(PHP7)では動かない状態でした。
その問題に対処するため、POTI-boardのテンプレート作者でもあったさこつさんという方が、PHP7対応版の「POTI-board改」の開発を始めました。
それを知った私は「ああ、つくってくれるんだ。それを使えばお絵かき掲示板を存続できる」と思っていました。
しかし、最初のバージョンに問題が見つかりました。「8KBを超える画像の受信ができない」というバグです。線を数本引いただけの軽い画像は投稿できるのに、時間をかけて描いた容量の大きいイラストは、画像が途中で切れてしまうのです。
さとぴあ:そこで、「私にも何かお手伝いできないだろうか」と思い、自分で問題の箇所を探して修正しました。
これが、私がお絵かき掲示板関連ツールの開発を始めたきっかけです。
しばらくの間は3人でPOTI-board改を開発していました。そして、2021年にGitHubのPOTI-boardの開発リポジトリをさこつさんから譲っていただき、より一層深く、開発に関わることになりました。その際に、スクリプトの名前も変えました。当初はPOTI-board改という名前でしたが、漢字を使っていると英語圏で通用しないと思ったので、Evolution(進化)の意を込めて「POTI-board EVO」としました。
そこからは、さまざまなツールを導入するために、開発活動を増やしていきました。
実は海外にもお絵かき掲示板の文化があり、Web上で動作するオープンソースの優れたペイントツールの開発が行われていました。これらを自分の掲示板でも使えるようにしたかった。
POTI-board EVOのバージョン3では、まず「ChickenPaint」という海外製のHTML5ツールに対応させました。その後も、「Klecks」(※3)や「AXNOS Paint」(※4)、BlueskyのATプロトコルを用いたお絵かき掲示板「PinkSea」でも使われている「tegaki.js」(※5)など、POTI-board EVO上で使えるツールを順次増やしていきました。
(※3)Klecks:bitbof氏による、KlekiというツールをベースにしたWebペイントツール。スタンドアローン版とWebフォーラムでの使用を前提とした組み込み版がある。
(※4)AXNOS Paint: 掲示板での利用に特化して開発された、国産のHTML5製ペイントツール。描画データをブラウザ内に自動バックアップできる。
(※5)tegaki.js: 軽量なWeb描画ライブラリ。PaintBBSのように描画工程(タイムラプス)を記録・再生できる機能を持つ。
さとぴあ:いいえ。高校の授業で1981年にFORTRANの授業を受け、アナログデータをデジタルに変換する論理回路を設計する実習を経験していたので、AND/ORなどの論理回路を理解していたり、90年代にPC修理の仕事をしていた経験から壊れたものを修理するときに必要になる考え方は習得していたりしましたが、PHPやJavaScriptの知識はゼロからのスタートでした。
基礎知識が無い状態からのスタートでしたから毎回壁にぶつかりました。特にKlecksを導入したときは大変でした。KlecksにはPHPの掲示板と連携してデータを受信するためのサンプルコードが存在しなかったのです。
しかし、やりたいことは「Klecksで送信ボタンを押したあと、掲示板にデータを送信する」と明確でした。
「通信処理がないなら、つくるしかない」ので、非同期通信(Fetch API)を使って、独学で実装しました。おかげで、画面遷移しないエラーメッセージの表示などもできるようになりました。
よくお絵かき掲示板の話がSNS上などで語られると、「インターネット老人会」というフレーズが飛び出しますが、私の場合は開発に参加した時点で、年齢は54歳を超えていました。なぜこの年齢でGitHubのアカウントを作ってPHPを書き、WSL2でJavaScriptのペイントツールをビルドしてお絵かき掲示板を開発しているのか、とても不思議に感じることもあります。まさか自分が開発する側に回るとは思っていませんでしたから。
さとぴあ:「目的がはっきりとしていて、それが必要だったから」です。何を実現したいのか、どういう考え方をすればいいのかが明確であれば、言語への理解はあとから付いてくるものなのかもしれません。
お絵かき掲示板のスクリプトが目の前にあり、「非推奨」のエラーが出ている。でも、そのスクリプトがどうやって動いているのかわからない。どうやって動いているのか理解するための努力が必要になる。そして、新しい機能を追加するにはどうしたらいいのかを理解する必要があった。その繰り返しです。最初はコードを見ても何がなんだかさっぱりわからなかった。しかし、何回も眺めて考えて手を加えていくうちに、少しずつわかるようになっていきました。
おそらく、私の技術水準はそんなに高くありません。しかし、誰かに依頼して有償で開発してもらったとしたら、とんでもない費用になることは想像できます。しかも実現したいことが毎回新しく生まれてくるので、その都度お願いしていたら気が遠くなるような金額になるでしょう。ですからこれはDIYです。動かない時は困ったなと思いますけれど、なんとか動くようにし、前に進むことができているので、そういう意味では楽しく開発できています。
そして、どうしてここまで使えるツールを増やそうと思ったか? その答えは単純です。
かつて私が愛用していたBBSNoteでは、PictureBBSやPaintBBSをはじめ複数のペイントツールをプルダウンから切り替え可能でした。それを、新しいHTML5+JavaScriptのペイントツールでも実現したかったのです。
さとぴあ:例えば2021年には、動作の軽量化と多機能化を実現した新しいPHPスクリプト「Petit Note」を自作して、現在運営している自分の掲示板に実装しました。お話したように、海外製のペイントツールがいくつも存在しています。英語圏でのお絵かき掲示板の需要が高いこともわかったので、Petit Noteには最初から日本語と英語の自動切り替え機能をつけました。
また、SNS時代に合わせた機能として、分散型SNS「Misskey」との連携機能も開発して、掲示板からMisskeyのアカウントに直接画像とテキストを投稿できるようにしました。そして、この機能を使った「Misskey専用お絵かき掲示板」を設置してMisskeyのユーザーのみなさんに使っていただいています。MisskeyのAPIを応用しました。
なかなかお絵かき掲示板の存在自体が広まりにくい時代ですから、いくつもあるそれぞれのSNSに投稿をシェアする機能もつくりました。
ペイントツールの更新も行っています。PaintBBS NEOのリポジトリのCollaborators権限をfunigeさんから2023年に付与していただいたので、NEO本体の保守も行っています。お絵かき掲示板ではブラウザのトラブルで描いた絵が消えてしまうリスクがあるため、ver1.6.5で10ストロークごとにブラウザのローカルストレージへ自動保存するようにしたりと、細かな部分を進化させています。
他にも「ChickenPaint」の派生版、「litaChix(リタチックス)」を開発しています。「全レイヤー込みの左右反転」「全レイヤーを参照するバケツ塗り」の実装に丸2年かかりました。このような機能が使えないペイントツールでは、日本人が好むコミック調イラストを描くことが困難なため、どうしても必要な機能でした。トライアンドエラーを繰り返しながらの手探りでの開発でしたが、2025年9月にやっと実装に成功しました。
さとぴあ:そもそも、「お絵かき掲示板」はお絵かき掲示板というひとつのアートカテゴリなのだと思います。例えばPaintBBS特有のジャギーが出る1pxの線で描く人気イラストレーターの方が何名かいらっしゃいます。PaintBBS特有のあの線でなければ表現できないイラストレーターの方々が存在しているのです。
一方で、litaChixやKlecksといった高機能なお絵かき掲示板のペイントツールには筆圧感知や手ブレ補正、水彩ブラシもありますが、「お絵かき掲示板なのに高機能すぎる」と言われてしまうこともあります。また、とても写実的な絵を描くユーザーの方にPC用のペイントツールを勧めたところ「機能が多すぎてわからない」と言われてしまい「ああ、お絵かき掲示板の機能の少なさがちょうどいいのか」と思ったこともありました。
加えていうと、今ならではの価値のひとつは「人間が描いたことの証明」がしやすい点でしょうか。AIによる画像生成が氾濫する中、お絵かき掲示板では、最初の一筆から完成までの描画工程を「動画」として掲示板上で再生できます。これは、自分で描いた絵だということを証明し得る手段になります。
さとぴあ:まずもちろん、ユーザーの存在は大きいです。例えば、litaChixがあまり使われず悩んでいたとき、ユーザーから「タブレット端末ではパレットのスライダに手が当たってしまい誤動作する」という意見が出ました。
そこでモバイルモードへの切り替えボタンを実装したところ、それまで以上に使ってもらえるようになりました。このようにフィードバックがあり、改善すると反応が返ってくる、というのはモチベーションになります。また、英語圏のみならずスペイン語圏など多くの海外のサイトで使ってもらうことができている、というのもモチベーションになっています。
しかし同時に大きいのは、結局ここが「自分にとっての居場所」だからかもしれません。
さとぴあ:巨大な投稿サイトやSNSなどでは、しばしばユーザーは管理される側になり、運営方針に振り回されたり、突然ガイドライン違反といった身に覚えのない警告がきたりすることがあります。また、私はブログサービスに絵を投稿していたこともありましたが、サービス終了などにより、画像データが消えてしまったり、過去ログが追えなくなったりもしました。
さまざまなものを無くしたあと、気がついたらお絵かき掲示板だけが残っていました。
自分で設置した自分のお絵かき掲示板のデータは、自分で管理でき、FTPでダウンロードして手元に残すことができます。実際、私は2000年代初頭に描いた自分の絵や、いただいたコメントを今でも見返すことができます。BBSNoteのログファイルを、POTI-boardやPetit Noteの形式に変換するコンバータも自作しました(※6)。おかげで、ほぼ四半世紀が経過した今でもかつての自分の投稿を見ることができます。
結局のところ、私はお絵かき掲示板のエンドユーザーです。そして、お絵かき掲示板交流サイトの運営者です。その交流サイトに集ってくれる人たちのために、そして自分のために、これからもお絵かき掲示板の開発を続けていくのだと思います。
(※6)このログコンバータは公開されており、ユーザーがBBSNoteのログファイルを変換し、新しく設置したPOTI-boardやPetit NoteでBBSNoteのログを活かして使うこともできる。
取材・執筆・編集:田村 今人
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