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個人でつくった「キャラガチャ無料」RPGが、大手ソシャゲひしめく市場で7年戦えている理由【モンスターカンパニー】

2025年11月25日

ゲーム開発者

パン

個人開発サークル「ブルークリエイター」代表。約20年間工場勤務の傍らで、趣味でゲーム制作に取り組む。2000年ごろからフリーゲームの公開を行うようになる。2018年にリリースした初のアプリ『モンスターカンパニー』のヒットを受け、2019年に専業開発者として独立。
モンスターカンパニー公式サイト

モンスターカンパニー』という、個人開発のスマートフォン向けゲームがあります。2018年にリリースされ、現在までに累計70万ダウンロード超。大手資本のゲームでも数年でサービスを終了することがさほど珍しくない市場において、多くのファンに支持され続けている「放置系」(遊んでいない間に『経験値』が溜まるなど、ゲーム状況に変動の起きるジャンル)RPGです。

大きな特徴のひとつは、一般的な、いわゆるソーシャルゲームの常識とは一線を画す「プレイヤーに優しい」収益モデル。キャラクターを入手する中核的な手段である「ガチャ」は完全に無料で提供されており、課金圧を徹底的に抑えています

開発者は、「“ひとりゲーム制作集団”ブルークリエイター」の屋号で活動している「パン」さん。約20年の工場勤務中に、独学でUnityを学び、本作を「初のスマートフォン向けアプリ」としてリリースしたといいます。

多くの開発者が「ガチャで短期的に稼ぐ」モデルを採用する中、なぜパンさんは真逆の戦略を選んだのか。そして、そのモデルでなぜ7年以上も「成功」し続けているのか?

そこには「練習のつもり」だったからこそ辿り着いた独自の収益構造、そして『モンスターカンパニー』に着手する以前からも、20年以上にわたりフリーゲームをつくり続けてきた日々に裏打ちされた開発哲学がありました。

収益性を追求した結果、気がつけば優しい収益モデルになっていた?

――本日はよろしくお願いいたします。まず、ゲームをつくるようになったきっかけについてお教えいただけますか。

パン:実のところ、僕は子供の頃から「ゲーム開発を仕事にしたい」という思いを漠然と持っていました。

なので幼少期は紙の上に『スーパーマリオ』シリーズのコースを描き「紙アクションゲーム」としてつくって遊んだりしていたのですが、親からは「ゲーム業界は難しいぞ」と言われてしまって。僕も僕で「そういうものか」と感じ、特にゲーム会社を目指すようなことはせず、高校卒業後は工場の社員として勤めていました。

ただ、ゲームづくり自体はやはり好きだったので、会社勤めをしながら、趣味で制作を続けていたんですね。最初は『RPGツクール』に始まり、2000年ごろからはPC向けフリーゲーム。特に、SRC(Windows向けのシミュレーションRPG作成ツール)に力を入れていました。合計で、70本以上はフリーゲームをつくっては公開したものです。つくって満足したり、ユーザーさんからの感想をいただいたりして、開発の糧にしていました。

▲パンさんがリリースしてきたフリーのシミュレーションゲームの例(パンさんの個人サイトから)

――そこから、なぜスマートフォンアプリの開発へと舵を切ったのでしょうか。

パン:結局、「いつかゲーム制作を仕事にできたらいいな」という思いもずっと根底にはあったので、2016年のある日、収益化を前提とした作品を開発したくなったんですね。

当時は『パズル&ドラゴンズ』にハマっていたこともあり、「スマホ向けアプリ」で勝負をしようと決めました。そうしてUnity公式のチュートリアルやC#の教本をこなしつつ、アプリ開発の独学に取り組んでいった。

そうして初めてのスマホアプリとして、「練習」を兼ねて2018年にリリースしたのが、『モンスターカンパニー』です。

――どのような形で、『モンスターカンパニー』のゲームコンセプトを決めていったのでしょうか。

パン:まず、どんなゲームジャンルにするかを考えました。スマホ向けアプリ開発は初めてなので、「簡単につくれそうなもの」にしよう、と。

あらゆるアプリを遊んでの市場調査を経て、「これなら初めてでもなんとかつくれそうだ」と目をつけたのが「放置ゲーム」と呼ばれるジャンルです。プレイヤーが操作していない間もゲームが自動で進行し、リソースが蓄積されていく仕組みが中心で、画面演出や、ゲームとしての仕組みにおいて、そこまで複雑につくり込む必要が無さそうだと考えたんですね。

そしてこの「放置」を出発点に、「モンスターをクエストに派遣し、放置している間に報酬を得るシステムにしよう」「それなら、会社(カンパニー)という要素を足そう」という発想で、ゲーム構想を膨らませていきました。

なおキャラクターとして「モンスター」を題材にしたのには深い理由はなく、当時「モンスターのフリー素材が沢山存在したから」という単純な事情からでした。

▲モンスターカンパニーのイメージ(公式サイトからスクリーンショット)

――「キャラクターのガチャが無料」という、いわば「優しい収益モデル」も、当初から固まっていたのでしょうか。

パン:いいえ。まず当初は、「練習のつもり」だったからです。

「練習で出すアプリに、そんなにお金をいただくわけにはいかない……」という気持ちが強かった。ちょっと収益が出たらいいな、というつもりで公開したんですね。

なので最初期の収益モデルは、当初からユーザーさんが動画を再生するとゲーム内の報酬が発生する「リワード広告」をメインに据えました。一方、直接の課金要素については、「買い切り」型のアイテム課金と「支援課金」の2種類、合計640円分だけを設定していました。これ以上はユーザーさんがお金を出したくても出せない、という建付けだったんですね。

その後は少しずつ課金商品を増やしていったのですが「課金がプレイにおいて必須にならない」ラインになるよう、常に気をつけてきました。「無課金でもやっていけるけど、課金していたら便利だよね」というバランスを狙うイメ―ジです。

またもしもここで欲張って課金額を高くしたり、課金を必須にしたりしたら、無課金ユーザーさんは早々に離れていくかもしれません。すると、リワード広告の収入の方も無くなってしまう。それを避けたかったのです。

つまり、収益をしっかり出そうとした結果として、おっしゃるような「優しい収益モデル」になっていった、というのが実情に近いかもしれません。

しかし大変幸運なことに、公開してからすぐ、会社でのお給料を超えるくらいの売り上げが出ました。結果的にリリースから1年半後、2019年に独立し、ゲーム開発に専念することができるようになったんですね。

「課金による格差」はつくりたくなかった

――リリースから独立までの経緯を教えてください。

パン:まず、当初は練習のつもりでしたので「1回だけ大きめのアップデートをしたら、いずれ運営を終了する」心持ちでいました。ですが、予想外に伸びゆく売上を見て「これを終わらせるのはもったいないな」と考えを改めて、長期運営へと方針を切り替えました。

ただ「この収益が安定して続くとは限らない」とも感じていたため、独立に対しては当初慎重だったんですね。

転機になったのは、「広告出稿」です。

――広告、ですか。

パン:はい。まず、リリースから1年が経過する頃には、アップデートを重ねていくうち、アプリの継続率や収益性も日に日に上がっていくような状況にあったのですが、大きな悩みもありました。

「新規インストール数」が全く伸びていなかったことです。アプリは改善しているつもりなのに、新しいユーザーさんが入ってこない。1日のインストール数が1桁になることも珍しくなくなっていました。

そんなときに、知り合いのアプリ開発者が「広告出稿をしたところ売上が大きく伸びた」とWeb上の記事で発信していたのを思い出したんです。個人開発者がいきなり広告を出すのはハードルが高いと感じていましたが、思い切って広告代理店に動画コンテンツの制作と広告出稿をお願いしてみたんですね。これが、本当に「大正解」でした。

結果として、微減傾向だったインストール数が嘘のように回復し、安定を見せたんです。そして計算したところ、アプリの1インストールあたりの平均売上が広告流入の費用を上回っているとわかり「これなら専業でやっていけそうだ」と独立する決心がつきました。まさかゲームそのもののつくり込みだけでなく、広告戦略が独立への決め手になるとは。

ただ、課金要素については圧が強くなりすぎないよう、本当に少しずつ、ユーザーの反応を見ながら調整していたため、ちょうどDL単価が広告獲得単価を上回る収益構造を、結果的に構築できていたというのも大きかったと思います。

――そこなのですが、当初の課金要素は買い切り課金、支援課金のみで、徐々に課金商品を増やしていったという話もありました。「優しい」モデルを維持しつつ、どのようにして課金要素を拡大させていったのでしょうか。

パン:ひとつの大きな転換点となったのが、リリースから3年目ごろに導入した「ダイヤガチャ」という有料のガチャでした。

――有料ガチャ。

パン:もちろん『モンスターカンパニー』は無料でキャラクター用のガチャをたくさん引くことができる、というのもウリのひとつです。そこに有料ガチャを乱暴に追加するようなことがあっては、ユーザーさんに対しての「裏切り」のようなものです……!

ですので、このダイヤガチャで入手できるものは、あくまで「オマケ程度」にとどめよう、と固く決めていました。

具体的には、通常キャラクターは引き続き無料ガチャで入手できることにしつつ、ダイヤガチャでは、無料プレイでも手に入る便利アイテムの他に、ゲーム性への直接の影響が少ない「特別看板スキン」が手に入るようにしたんです。

このスキンは、ゲーム内のホーム画面上に設定できる1枚絵のイラストです。少しだけゲーム進行に役立つおまけのような効果もありますが、基本的には飾って楽しむだけのもの。

つまり課金・無課金の間で、ゲーム攻略上の格差がほとんど発生しないようにしたんですね。ダイヤガチャについては、あくまでイラストを気に入ってくださったユーザーさんにチャレンジしていただければ、という「コレクション要素」の強いものとしてとどめておいたんです。

初の有料ガチャ実装なので当初は不安だらけでしたし、「大ブーイングが起きてモンスターカンパニーが終わってしまう可能性もあるかも……」とすら思っていましたが、こちらも幸いなことに、不満の声はほとんどなく受け入れていただけました。結果的に、課金格差をつくらないよう気をつけたのが奏功したのかもしれません。

▲コラボキャラも含め、いずれのキャラクターも無料プレイで入手できる(画像は公式サイトから)

フリーゲーム開発に打ち込んだ日々の「教え」

――7年以上の運営で、最も苦労したのはどのようなことでしたか?

パン:トラブルといえば、正直、ゲーム企画や収益構造といった部分よりも、ゲーム内に表示する「広告」周りが圧倒的に多かったです。

広告プラットフォーム側のアップデートは頻繁ですし、ゲームの挙動と干渉することも多々ありました。「広告内の終了ボタンを押しても閉じることができない」というお問い合わせもよくいただきましたし、アプリの起動後、タイトル画面から先に進めなくなるという致命的な事例もありました。ゲーム側ですぐに対応できる不具合ばかりではありませんでしたし、気苦労は絶えなかったですね。

広告マネタイズは、無課金ユーザーさんから収益をいただけるという点でありがたい存在ですが、こうした管理上の問題もあるのが悩ましいところです。

実をいうと、現在は新作ゲームアプリも開発中なのですが、こうした経験から、広告マネタイズは実装しない予定でいます。今後の運営上必要になった場合、ひょっとしたら考えは変わるかもしれないのですが、少なくとも初回リリース時点では広告は未実装になります。

――奇しくも、苦労した点もまた「広告」だったのですね。その「次回作」の収益モデルは、どのようにお考えですか?

パン:『モンスターカンパニー』のダイヤガチャで十分な成果が得られたので、今のところは、その知見を活かせたらと思っています。

ただ、次回作ではゲーム攻略にも関わる「キャラクター入手」に関する課金要素も導入する予定なので、プレイ上の体験を損なわないよう、十分注意していきたいと思ってます。「無課金でも継続的にプレイをして頑張れば、ほぼ『コンプ』できる」くらいの優しい設計になる予定です。

――新作を開発するとなると、『モンスターカンパニー』の運営は今後どうなっていくのでしょうか。

パン:今は新作アプリ開発に注力しており、必然、『モンスターカンパニー』に割ける時間は少なくなってしまっています。

ただ、度重なるアップデートにより、この作品のゲーム内容は一定成熟してきたと思っています。

アプリを運営するにあたって「飽きられないように新しい要素を追加しなきゃ」と焦る開発者の方は少なくないと思うのですが、意外と「ユーザー側が新しい要素を求めていない」ということも、珍しくないと思うのです。むしろ、ゲームサイクルの根幹に関わるような新システムが「余計な要素」と捉えられてしまうこともあるでしょう。

なら、新しい要素を無理に追うよりは、キャラクターの追加や攻略ステージの追加など、地道なアップデートに限られた時間を充てるのがよいのかな、と思っています。

もちろん、悲しいことではありますが、長く続けてくださっている方がプレイを辞めてしまうのは、完全には避けられないとも思っています。そこはもう「今まで本当にありがとうございました」と送り出すしかないかな、と。それでもなお、無理をすることなく、今後も堅実に運営していけたらと考えています。

――最後になりますが、結果的に、幼少からの夢だったゲームづくりがお仕事となりました。今すべてを振り返った時に「あれがあったからこそ、今がある」と感じる最大の要因は、何だったと思いますか?

パン:いろいろあるとは思うのですが、ひとつ大きかったのは「完璧を目指さない」というところでしょうか。

ゲーム開発者は、どうしても「完璧なものになるまでリリースしたくない」と考えてしまいがちです。しかし、全部の要素を全力でこなそうと思ったら、特に個人では、時間がいくらあっても足りません。

何より、リリースして世に出さないことには「わからない」ことが多いと思うのです。

例えば、ゲームバランスの調整。自分にとって「面白い」と思ったバランスが、ユーザーさんにとっても同じとは限りません。やはり、ユーザーさんの視点に立って考えていくことが大事かな、と。こうした感覚は、フィードバックを通して養っていくしかないのだと思います。

そうした点で、僕にとっての誇りを申し上げるとしたら、「つくったゲームは必ず全て完成させて公開してきた」というのは、ひとつ自慢できることかもしれません。フリーゲーム時代から、ゲームの本質となる部分をつくり込めたと感じたら、細部をあまり追いすぎるようにはせず、とりあえずリリースするということを70回以上繰り返してきました

『モンスターカンパニー』も、僕にとって初めてのアプリ開発でしたし、お話した通り当初は「練習のつもり」でつくっていた。それはフリーゲーム時代と同じ「とにかく1本出してみて、フィードバックを得て、成長していけたら」という考えからくるものです。

振り返ってみれば、常に「勉強のつもり」で挑戦してきたあらゆることが、今につながっているように思います。僕のスマホ向けアプリの開発歴も年月だけ見るとそれなりに長くなってきましたが、まだまだ発展途上だな、と感じます。次回作以降に関しても同じような思いで、挑戦を続けていければ、と考えています。

取材・執筆・編集:田村 今人

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