その変形バイクにはトランスフォーマーの遺伝子が宿る。開発者が追い求めた、ロマンと実用性を融合させる道【フォーカス】

2024年7月18日

株式会社ICOMA代表取締役 プロダクトデザイナー

生駒タカミツ

1989年生まれ。長野県安曇野市出身。 タカラトミー社で玩具の試作や『トランスフォーマー』のロボットデザインなどを担当後、株式会社Cerevoに参画し、IoT家電製品の設計などを行う。2016年からはGROOVE X株式会社にて家族型ロボット「LOVOT」の開発に携わり、同時期に電動折りたたみバイク「タタメルバイク」の製作を始める。2021年に株式会社ICOMAを創業。
株式会社ICOMA
X

デスク下に収まる全高70cmサイズの箱。ユーザーが手を入れると、ハンドルとシート、ナンバープレートが飛び出し、1分弱で電動オートバイへと「変形」する。ワクワクするギミックが詰め込まれたこの乗り物「タタメルバイク」は、実際に原付として公道を走行可能で、すでに予約販売を開始しています。

▲タタメルバイクの走行映像。最高速度は40km/h。原付一種のため公道上では30km/hまで。

開発者の生駒タカミツさんは、過去にタカラトミー社にて、変形ロボットで知られる『トランスフォーマー』のおもちゃデザインを手がけたことでも知られます。その後身を置いたCerevo社では、プロジェクターを搭載した変形可能なロボット家電「Tipron」を企画から設計まで担当。続いてGROOVE X社では家族型ロボット「LOVOT」の開発に携わり、2017年から個人活動としてタタメルバイクに着手しはじめました。

そのキャリアを見るとロボットアニメに出てきそうなモノ、特に「変形」というテーマを追い続けてきたかのようにも見えます。そんなロマンと、商品としての価値を、生駒さんはどのように両立させてきたのでしょうか。

僕が好きなのは『変形する意味』を考えること」と話す彼に、変形へのこだわりと、新しいアイデアを「社会にとって価値あるもの」へと落とし込むことの難しさについて取材しました。

行き着いたのは「意味のある変形」

――改めて、ものづくりに興味を抱いた経緯を教えてください。

生駒:幼いころにテーマパーク「スペースワールド」(福岡県北九州市、2018年閉館)で実物大のスペースシャトルの模型を見て、宇宙やメカへの憧れを抱くようになったのがきっかけです。その流れで、『機動戦士ガンダム』シリーズはじめ、ロボットが出てくるSFアニメにどハマりするようになりました。

特に影響を受けた作品は『超時空要塞マクロス』シリーズ。戦闘機から人型へと変形するロボットが登場するのですが、その変形機構のかっこよさや、構造設定の精緻さに心惹かれたんです。同作品でメカデザインも務めた河森正治監督の設定画集を購入し、手垢がつくほどに何度も読み返し、中学校に入ってぐらいからはスケッチブックに何度もロボットを描き、自分なりにいろんな変形メカニズムを考案していました。

そのうち「いつか自分でロボットをつくるか、ロボットアニメのデザイナーをしてみたい」と思い、工業デザインについて深く学ぶため、高校卒業後にはデザイン専門学校に進学しました。

▲『マクロス』シリーズの設定資料集

――やはり、昔から「変形」が大好きなんですね。

生駒:もちろん「変形」そのものへの愛はありますが、僕が何より好きなのは「変形の意味」。つまり、「その変形が持つ目的と構造」について調べたり考えたりすることが好きなんです。

アニメのロボットの「変形」には、多くの場合「画的に映えるし、タイアップ玩具が売れやすくなるから変形させる」という意図が介在します。だから、必ずしも「変形」に合理的な目的やリアルな構造設定があるとは限りません。

ですが、「変形」は現実世界の機械にもありますよね。これらは、何らかの実用的な目的と、それを達成するための工夫の上で変形しているはずなのです。

飛行機を例にとると、「ランディングギア」(離着陸時に使う車輪や緩衝装置)もある種の「変形」です。あれは、飛行中は空気抵抗を減らすという目的のために機体内に格納し、着陸時には安全な接地という目的のために車輪を下ろしますよね。

こうした、「変形」の実用的な目的と仕組みについて知ったり、考察したり、自分で変形機構を思案してみるのが大好きなんです。

――「変形」自体よりは、何らかの目的を果たすために考案された「変形」のメカニズムへの愛が強いのですね。専門学校の卒業後はタカラトミー社で『トランスフォーマー』のおもちゃデザインを手がけていたそうですが、いつから実用的なロボットを手がけるようになったのでしょうか?

生駒:転機は2015年ごろ。当時、革新的なロボットや技術が相次いで発表され、「現実がSFに追いつきつつある」と感じたんです。特に、ソフトバンクグループの人型ロボット「Pepper」に衝撃を受けました。人間の言葉や感情を認識し、会話までできるだなんて、まるでSF作品のようでしたから。

ワクワクすると同時に、「このままおもちゃばかりつくっていては、技術の進歩に置いていかれる!?」と焦りを感じました。SFに憧れてものづくりの世界に入った自分としては、「いままでになかったものを発明してみたい」という思いが常にありましたから。

アニメで見たような人型ロボットが、そのうち完全に実現する時代になるかもしれない。自分は、ここで玩具をつくっていていいのか?」と悩みました。

生駒:そこからは実際にロボットづくりを学ぼうと思い、2回転職。IoT家電スタートアップの「Cerevo社」では実際に変形機構を備えたロボットを企画しつくってみて、部品設計や組み立てなど、ハードウェアづくりのノウハウを学びました。

次に、今後生活に浸透していくロボットはどんなものになるのかヒントを得るため、GROOVE X社で家族型ロボ「LOVOT」の開発に携わりました。ここで得た、「いままでにない新たなUXを生み出し、ユーザーに価値を提供する」という学びはかなり大きかったです。

LOVOTの新しさは、ロボットなのに人間が世話をしないといけない点です。手間がかかるからこそ、愛着が湧くし、結果的に癒されるんですよね。GROOVE Xはこうしたプロダクトとしての価値を提供できるUXをかなりつくりこむ会社で、自分の中にもこうした考えは根付いています。

以来、「今までになかった新しい価値を社会に示す」というのはプロダクトづくりにおいて常々こだわっている理念です。

▲左から、生駒さんが手がけた「Tipron」、家族型ロボット「LOVOT」(ぬいぐるみ)、「タタメルバイク」(ミニチュア)

――「変形」やハードウェアづくり、UXの学びといったこれまでの集大成が「タタメルバイク」だったのでしょうか。

生駒:はい。「タタメルバイク」は、さまざまなものづくりのノウハウを得た後、改めて自分なりに面白いプロダクトをつくれないか試行錯誤するなかで生まれました。

最初は、バイクが「変形」したら面白いという単純なアイデアがベースでした。2019年に「こういうものをつくろうとしています」と描き起こした3Dモデル画像をTwitter(現)に投稿したら、「欲しい!」との声が続出し、想定以上の反響を得たんです。

「変形」というだけでなんだかワクワク感があるし、折り畳むことで駐輪場がなくてもバイクを所有できるという実用性もある。「『変形』とバイクの組み合わせで、ユーザーにとっても新たな価値が提供できそうだ」と考え、本格的に開発を始めました。

▲変形で場所がなくとも置きやすく

1つのマシンに「乗り物」の楽しさと「コンテンツ」のワクワクを

――タタメルバイクを通して、生駒さんが目指しているものは何でしょうか。

生駒:ひと言にすると「乗り物とコンテンツの融合」です。『トランスフォーマー』はアニメや映画などメディアミックス作品が有名ですが、原作は「変形する玩具」です。「変形する」というギミック自体や、ロボットの造形が愛されて世界的に売れている。あれらは、玩具そのものがキャラクターというコンテンツなわけです。

「タタメルバイク」も、子ども心をくすぐる変形ギミックを搭載し、あまり類を見ない斬新なデザインでありながら、どこかかわいらしく、愛着が湧きやすい。

つまり、バイクでありながらも、そのコンセプトや見た目が『トランスフォーマー』のようにキャラクター的であり、「コンテンツ性」を有していると考えています。その、ロマンあふれるコンテンツ性を、コンパクトな乗り物であるという実用性と融合させて、新しい価値を有したバイクとしてユーザーに提供したいんです。

購買層としては「乗り物に興味があるけれど、置き場所がない」「大型バイクを買うほどのモチベーションはないけど、バイクという文化には興味がある」というライトな層を想定しています。折り畳み状態の大きさは全高と全長がそれぞれ69cm、幅26cm。大型トランクケース程度の大きさで、駐輪場がなくとも、自宅の玄関にも置いておけます。

――『トランスフォーマー』というコンテンツに関わって得た考えもいまにつながっているのですね。では、タタメルバイクの提供価値を高めるために心がけたポイントを教えてください。

生駒:最優先しているのは「安定した乗り心地」の提供です。

乗り心地がよく、運転していて楽しくなくては、そもそも乗り物として価値がないですし、そのうち「箱型」のまま埃を被ってしまうと思うんです。

仮に「コンパクトに折りたためる」というコンセプトを追求しすぎると、恐らくはマシンをより小さくし、部材を薄くし、乗り心地や強度を犠牲にする方向にシフトしていくんですよ。路面からの衝撃がガタガタと伝わり、しかもいつ壊れるかわからない。そんな状態での運転を強いられては、乗り物としての「楽しさ」が削がれると思ったんです。変形ギミックはキャッチーですが、あくまで乗り物なので、運転による体験価値を高めたい。

乗っていて安心だからこそ、楽しい運転体験につながるのです。これは当初から意識しています。なのでフロントタイヤは大きめにして安定性を高め、ボディは強度が十分な厚さにし、サスペンションは衝撃を大幅に緩和できる高性能なものを採用しています。

▲変形時にハンドルを固定するネジ部分ではより手軽なレバー式も検討したが、試行錯誤するうち最も安定しやすいネジ式を採用するとの結論になったそう

――安心感の上に楽しさがある、と考えているのですね。「変形」についてのこだわりがあれば教えてください。

生駒:特に「変形の気持ちよさ」を追求しました。玩具やプラモデルでも、触っていて楽しいものや、そうでないものがあるように、「変形」にも感触の良し悪しがあると思うんですよ。これは数値化が難しくほぼほぼ感覚の世界ですが、ガチャガチャと触っていること自体が面白く感じられるような「変形」をできる限り目指しました。

生駒:そこで開発にあたっては、まずは12分の1スケールのミニチュア模型をつくり、変形ギミックの動きを確かめました。ミニチュアをもとに、気持ちよく変形できるよう設計を磨き込み、どんな材質や部品を採用するかを考えてから、今度は実物大で試作する。この流れを繰り返しました。

ミニチュアの時は気にならなくても、実物大になると「なんだか変形が気持ちよくない」ということが多発しました。重量の影響でパーツ同士が干渉してしまいスムーズに動かなかったり、手順が「次はここを動かすんじゃないか?」という直感からズレていたり。

「このパーツの根本よりは、先端部分を引っ張って変形させるようにしたら直感的で気持ちがよいな」という具合で、何度も試行錯誤して「変形」の感触をブラッシュアップしました。

――他には、楽しく使ってもらうためにどんな工夫をしているのでしょうか。

生駒:ユーザーがひと手間加えることで、愛着を持ちやすくなる仕組みを取り入れています。具体的には、簡単に好みのデザインに交換できる「サイドパネル」のギミックがそうです。

バイクの愛好家って、自分でライトやマフラーなどを改造しますよね。こうしたカスタマイズ性が、愛着を持つことにつながるわけです。

ですがタタメルバイクのユーザーとして想定しているライト層には、こうした改造はハードルが高い。その点、サイドパネルの交換なら簡単に済むので、お手軽に「カスタマイズをした」という満足感を得られるようにしてあります。サイドパネルのデザインは現状、30種類以上を用意しており、バイクと併せて注文可能です。今後もイラストレーターや素材メーカーなどとコラボし、バリエーションを増やしていきます。

▲サイドパネルのバリエーション(ICOMA社公式サイトから

タタメルバイクはロボットの卵?

――もともと生駒さんは「ロボットをつくりたい」との思いを抱いていたとのことですが、今後はつくらないのでしょうか?

生駒:そもそも僕はタタメルバイクを「ロボット的な製品」だと思ってつくっていますよ。さすがにロボットそのものではないですが、その入口には立っている。

電動バイクでありつつ、いずれはロボットを目指す」というのは、実はタタメルバイクの裏テーマでもあります。

――どういうことでしょうか?

生駒:まず「ロボット」と聞いて皆さんが求めるものは、バラバラだと思うんです。それは産業用ロボットアームかもしれないし、SFアニメに登場するようなロボットかもしれないし、ルンバのように実用的なロボットかもしれない。あらゆるものが、ロボットと呼ばれ得る。でも「これこそがロボットです」という明確な定義は、まだ存在しないと思います

特に、「未来ではこういうロボットが人々の生活に定着していくはず」という問いに対し、断言できる人はあまりいないのではないでしょうか。

僕も答えを持っていません。一方で、「こういうロボットなんじゃないか?」という漠然とした予感はあります。抽象的ですが、未来のロボットとはスマートフォンのように生活から切り離せない、「人間のパートナー」的な立ち位置になる気がしているんです。

だけれど、この感覚をうまく、具体的に言語化することはできない。ならばプロダクトデザイナーらしく、モノとしてつくり、アイデアを形に示そう。そんな思いもタタメルバイクの開発背景にはあります。

――生駒さんが思う「ロボット」と「タタメルバイク」は、どのように関係してくるのでしょうか?

生駒:そもそも「電動バイク」自体が、多くの方が抱いている「未来のロボット像」に近い要素を持っているんじゃないかと思うんです。電気駆動し、モーターを内蔵し、動き、走り、人の役に立つという点において、そう感じています。

「とはいえバイクだから乗り物でしょ」という先入観があると、僕の言っていることがわかりづらいかもしれません。では、タタメルバイクが自動で「変形」するようになったらどうでしょうか。あるいは、自律走行するようになったら?AIを搭載し、ユーザーと会話しながら「旅先はこちらがおすすめ」とナビをしてくれるようになったら?…このように進化させていくと、多くの方が漠然と抱く「未来のロボット像」の平均的な姿にどんどん重なっていくと思うのです。

そうした未来のロボット像へと進化していくよう、現在では自動変形機能やカメラ機能の搭載など、高機能化の試作にも取り組んでいるところです。

――SFアニメにいかにも登場しそうな、人型の2足歩行ロボットをつくろうとは思わなかったんですか?

生駒:いきなり2足歩行ロボットをつくれたとしても、「そのロボットが何をしてくれるのか」が伝わらないと、人々の生活に定着しないと思うんですよ。

ただ単に2足歩行できるだとか、デザインがアニメっぽいというだけでは売れないでしょう。きっと、何らかの実用性がなくてはいけない

一方で、皆さんがロボットに抱く感情って「便利だから好き!」だけじゃないと思うんです。多分、「ロマン」があるからロボットが好きっていう人も多いはず。この、「便利」と「ロマン」を両方備えたものって、まだto C向け産業では登場していない気がしています。

その点でバイクって、ちょうど「便利」と「ロマン」が同居している乗り物だと思うんです。乗り物としての機能性と、カスタムできる玩具のような趣味性を備えている面白いマシンです。利便性とロマンを兼ね備えたこのバイクというジャンルならば、未来的なロボットを実現しやすいと感じています。

だからこそ、「変形」要素もかっこいい、楽しいというだけでなく、ちゃんとコンパクトにできるという実用的な意味合いが際立つようこだわっています。

――バイクだからこそ、ロマンと実用性を両立させたロボットになり得るというのは面白い視点ですね。

生駒:その方向へと進化させていくと、先ほど言ったように、「乗り物」と、ロボットというロマンあふれる「コンテンツ」がまさしく融合していくんじゃないかと考えています。

いずれは自動で「変形」し、人間についてきたり、乗せてくれたり、荷物を運んでくれたりといった、より便利で未来的なプロダクトへと進化させていきたい。その挑戦をずっと、この会社でやっていきたいです。

取材・執筆:田村今人
編集・撮影:光松瞳

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