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Next.js on Vercelを使うとなぜ速い?低レイヤ、配信技術、Web高速化の観点から理解できる3冊

2026年2月2日

Next.js on Vercelを使うとなぜ速い?低レイヤ、配信技術、Web高速化の観点から理解する3冊[レバテックLAB]

株式会社 REUNION SOFTWARE 代表取締役
Software Engineer

吉井 健文

2025年3月 までフロントエンドリードとして、数々のプロジェクトをNext.jsアプリケーションにリプレース。「フロントエンド開発のためのテスト入門(翔泳社)」など、3冊のフロントエンド関連書籍を執筆。2024年10月株式会社 REUNION SOFTWARE創立。
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Zenn:Takepepe
GitHub:takefumi-yoshii

Next.js を Vercel 上で運用すると、特別な設定を意識しなくても高いパフォーマンスが得られると感じる場面が多いでしょう。これは単にフレームワークが高速だからではなく、ネットワークパフォーマンス最適化のベストプラクティスが、プラットフォームレベルで実装されているためです。

Vercel は、ビルド成果物をグローバルなエッジネットワークに配置し、可能な限りユーザーに近い場所からレスポンスを返します。静的ファイルはもちろん、revalidate による段階的な再生成や Streaming Rendering の結果もキャッシュされ、HTTP キャッシュヘッダはフレームワークの意図に沿って自動的に付与されます。これにより、開発者が明示的な設計をしなくても、RTT の削減やオリジン負荷の低減といった恩恵を受けられます。

さらに、App Router による Server Components や Streaming は、HTML を一括で返すのではなく、ネットワーク越しに段階的にデータを届ける設計になっています。これは、帯域幅とレイテンシの制約を前提に、「どの情報を、いつ、どこから送るべきか」を最適化した結果です。Edge Functions を前提とした構成と、Vercel のグローバルエッジネットワークを組み合わせることで、このモデルは地理的に分散した実行が可能となり、ユーザー体感速度を改善しています。

しかし、これらの最適化がどこに施されているのか、なぜ最初のレスポンスが速いのか、どのリクエストがオリジンまで到達しているのかを理解していなければ、挙動の違いに戸惑ったり、意図しないパフォーマンス低下を招いたりすることもあります。

Next.js on Vercel が「うまくやってくれていること」を正しく理解し、必要な場面で自分で設計・改善できるようになるためには、HTTP、ネットワーク、配信構造といった基礎知識が不可欠です。以降では、この段階的な理解を支える3冊の書籍を紹介します。

書籍リスト
1. 『ハイパフォーマンス ブラウザネットワーキング― ネットワークアプリケーションのためのパフォーマンス最適化』Ilya Grigorik 著、和田 祐一郎 訳
2. 『Web 配信の技術― HTTP キャッシュ・リバースプロキシ・CDN を活用する』田中祥平 著
3. 『達人が教える Web パフォーマンスチューニング〜ISUCON から学ぶ高速化の実践』藤原 俊一郎、馬場 俊彰、中西 建登、長野 雅広、金子 達哉、草野 翔 著

推奨する3冊の読み進め方

Web パフォーマンス改善において重要なのは、「低レイヤの原理 → 配信設計 → 実装とチューニング」という段階的な理解です。この順序を飛ばしてしまうと、改善が再現性を持たず、属人的なノウハウに閉じてしまいます。そのため、まずは『ハイパフォーマンス ブラウザネットワーキング』から始めることをお勧めします。レイテンシと帯域幅の基礎、そして HTTP の章を重点的に読むと、ネットワークの基礎が固まります。次に『Web 配信の技術』で HTTP キャッシュと CDN の設計思想を学び、最後に『達人が教える Web パフォーマンスチューニング』で実践的な改善手法を身につけるという流れが効果的です。

通信の物理的制約から逆算する、Web高速化の仕組み

『ハイパフォーマンス ブラウザネットワーキング― ネットワークアプリケーションのためのパフォーマンス最適化』
▲『ハイパフォーマンス ブラウザネットワーキング― ネットワークアプリケーションのためのパフォーマンス最適化』Ilya Grigorik 著、和田 祐一郎 訳、オライリー・ジャパン

本書は、Web パフォーマンスを語る上での最下層、すなわちネットワークとプロトコルの原理を徹底的に解説した書籍です。TCP の制御、RTT や帯域幅の制約、TLS ハンドシェイク、HTTP の進化といった要素が、どのようにレイテンシを生み出し、どのように最適化されてきたのかを理論的に説明します。

キャッシュや CDN、HTTP/2 といった技術を単に「設定すれば速くなる便利な仕組み」としてではなく、通信の物理的制約に対する合理的な解として理解できる点が最大の価値です。本書を通じて、Web パフォーマンス低下に関わる要因を俯瞰して理解することができます。

本書で得られる知識とスキル

1. レイテンシと帯域幅の理解
光の速度には物理的な限界があり、東京とサンフランシスコ間の往復だけでもおおむね 100ms (ミリセカンド)以上かかります。この「どうしようもない遅延」を前提に、いかに往復回数を減らすかが Web 高速化の核心であることを学べます。

2. TCP/TLS/HTTP がパフォーマンスに与える影響
TCP のスロースタートがなぜ存在するのか、TLS ハンドシェイクで何往復しているのかを理解することで、「なぜ初回接続が遅いのか」「なぜ Keep-Alive が重要なのか」といった疑問に答えられるようになります。

3. HTTP/2・プロトコル最適化の背景理解
HTTP/1.1 の制約(アプリケーション層での Head-of-Line Blocking、同時接続数制限)がどのような問題を引き起こし、HTTP/2 の多重化やヘッダ圧縮がそれをどう緩和したのかを体系的に理解できます。

4. キャッシュや CDN を正しく評価するための視点
「CDN を入れれば速くなる」という漠然とした理解ではなく、RTT 削減とオリジン負荷軽減という 2 つの効果を分離して考えられるようになります。

Web配信のアーキテクチャを教材に、設計思考を身に付ける

『Web 配信の技術― HTTP キャッシュ・リバースプロキシ・CDN を活用する』
▲『Web 配信の技術― HTTP キャッシュ・リバースプロキシ・CDN を活用する』田中祥平 著、技術評論社

本書は、Web アプリケーションを「どう処理するか」ではなく「どう配信するか」という視点で捉え直す一冊です。HTTP キャッシュ、リバースプロキシ、CDN をどのように組み合わせ、どこでレスポンスを返すべきかを、仕様と実運用の両面から解説しています。

Cache-ControlETag といったヘッダの意味を理解し、オリジンとエッジの責務を分離することで、スケーラブルかつ安定した配信構成を設計できるようになります。単なる設定集ではなく、「なぜその構成になるのか」を説明できる設計思考を身につけられる点が特徴です。

本書で得られる知識とスキル

1. HTTP キャッシュの正しい理解と設計
Cache-ControlETagVary といったヘッダの意味と使い分けを正確に理解できます。「キャッシュが効かない」「意図せず古いコンテンツが返る」といったトラブルの原因を特定し、適切に設計する力が身につきます。

2. リバースプロキシ/CDN の役割分担
オリジンサーバ、リバースプロキシ、CDN エッジの3層構造において、どこで何をキャッシュし、どこでレスポンスを生成すべきかを設計できるようになります。Vercel のエッジキャッシュが何をしているのかも、この知識があれば理解できます。

3. 配信構成におけるボトルネックの見極め
レスポンスが遅いとき、それがオリジンの処理時間なのか、ネットワーク転送なのか、キャッシュミスなのかを切り分けて考える視点が得られます。

4. 実運用を前提とした Web 配信設計力
理論だけでなく、キャッシュパージの戦略や、動的コンテンツと静的コンテンツの混在をどう扱うかなど、実務で直面する課題への対処法も学べます

現場で使えるパフォーマンスチューニングの実践力を養う

『達人が教える Web パフォーマンスチューニング〜ISUCON から学ぶ高速化の実践』
▲『達人が教える Web パフォーマンスチューニング〜ISUCON から学ぶ高速化の実践』藤原 俊一郎、馬場 俊彰、中西 建登、長野 雅広、金子 達哉、草野 翔 著、技術評論社

本書は、理論や設計を踏まえた上で、実際に Web アプリケーションを速くするための実践的な知識を提供します。ISUCON を題材に、計測、ボトルネック特定、改善という一連の流れを具体的なコードとともに解説しています。

SQL の最適化、インデックス設計、N+1 問題、キャッシュ導入など、即効性のある手法が多く、現場で直面する問題にそのまま応用できます。一方で、闇雲に手を入れるのではなく、どこから改善すべきかという優先順位の付け方が示されている点が魅力です。

本書で得られる知識とスキル

1. 計測に基づくボトルネック特定能力
「遅い」という曖昧な状態から、プロファイラやログ解析を用いて具体的なボトルネックを特定する手法を学べます。推測ではなくデータに基づいて改善箇所を決定する習慣が身につきます。

2. 実務に直結するチューニング手法
SQL のインデックス設計、N+1 問題の解消、アプリケーションレベルのキャッシュ導入など、即座に効果が出る改善手法が具体的なコード例とともに解説されています。

3. 改善効果を最大化する優先順位付け
限られた時間でどこから手をつけるべきかという考え方を学べます。全体の 90%を占めるボトルネックを 10%改善する方が、1%の処理を 50%改善するより効果的という判断ができるようになります。

4. 理論と実装をつなぐ実戦レベルの高速サイクル
ISUCON という競技形式を通じて、「計測 → 仮説 → 実装 → 検証」のサイクルを高速に回す感覚が身につきます。実務でのパフォーマンス改善でも同じアプローチが有効です。

まとめ

改めて俯瞰すると、近年の Web アプリケーションは、単なる HTML を返す仕組みから、より複雑で分散したシステムへと進化しています。SSR や Streaming、API ベースのデータ取得、CDN の活用が一般化し、Web アプリはもはや「ブラウザで動く UI」ではなく、「ネットワーク越しに構成された分散システム」として捉える必要が出てきました。

ユーザーが体感するパフォーマンスは、JavaScript の実行速度だけで決まるものではありません。DNS 解決、TCP/TLS ハンドシェイク、HTTP リクエスト、キャッシュヒット率、オリジンサーバの応答時間など、複数のレイヤが積み重なった結果として現れます。

Web パフォーマンスの議論では、キャッシュを入れる、CDN を使う、HTTP/2 を有効にする、といった手法がよく語られます。しかし、それらはあくまで手段であり、本質は「なぜそれが効くのか」「どの条件で効かなくなるのか」を理解することにあります。例えば、キャッシュが効くのは RTT を削減できるからであり、CDN が有効なのは地理的距離と「回線の混雑(同じ経路にアクセスが集中して遅くなること)」の影響を減らせるからです。こうした背景を理解せずに設定だけを真似すると、期待した効果が得られないどころか、デバッグ不能な複雑さを生むこともあります。

Next.js on Vercel は、CDN、HTTP キャッシュ、エッジ配信といったネットワークパフォーマンス最適化を、開発者が強く意識しなくても成立させる強力な基盤を提供しています。しかしそれは「何も考えなくてよい」ことを意味しません。Server Components や Streaming、revalidate によるキャッシュの再生成タイミング制御などを正しく理解し、意図通りに使い分けるには、ネットワークと配信の基礎知識が不可欠です。

本稿で紹介した3冊は、Next.js が裏側で行っている最適化について、なぜ速いのか/どこまで任せてよいのかを判断するための土台を与えてくれます。

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