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2026年1月19日

キャディ株式会社 プロダクトマーケティングマネージャー
笹口 直哉
慶應義塾大学を卒業後、SIerにてエンジニアとして4年間勤務。ミスミ、ヤフーを経て2019年キャディ入社。プロダクトマネージャーとして原価計算システム、発注先選定システムなど複数のプロダクト開発を担当し、2023年よりCADDi Drawer事業部へ異動。プロダクトマーケティング・プロダクトオペレーションの2組織を立ち上げ、現在はプロダクトマーケティング部のマネージャーを担当。
「プロダクトマネージャー(PdM)は、スーパーマンであるべきか」
この問に対して、キャディ株式会社プロダクトマーケティングマネージャーの笹口直哉氏は明確に「YES」と答えつつも、一人に依存する体制の限界を指摘します。
本記事は、2025年12月4日に開催された「pmconf 2025 東京」でのセッション「『スーパーマンの限界』は組織で突破! PdM認知負荷を最適化する戦略的役割分担とProduct Ops活用事例」の内容を再構成したものです。プロダクトの複雑化に伴うPdMの「認知負荷」の増大をどう乗り越えるか。キャディが「プロダクトマネジメントが機能し続ける組織」をつくるための具体的なアプローチと、その根底にある「プロダクトマネジメントは『全員』で成し遂げるもの」という考え方をお届けします。
顧客の課題を深く理解し、自社のビジネスをグロースさせ、技術的な不確実性をコントロールしながら、データに基づいた意思決定を下す。PdMのバイブル『INSPIRED』でも、PdMは「深い知識(顧客・ビジネス・データ・市場)」と「特性(知性・創造性・粘り強さ)」を兼ね備えた人物であるべきだと記されています 。それはまさに「スーパーマン」ですね。
では、PdMは本当にスーパーマンであるべきか。
私のスタンスは、明確に「YES」です。
一人のPdMがすべての情報を把握し、ビジネス・技術・デザインのトレードオフに対して単独で最適解を出せる状態が、意思決定のスピードと質において最も効率的だからです 。
しかし現実では、一人のPdMにできる限界がすぐに訪れます。初期でプロダクトはまだ小さく、展開するマーケットがまだ限定的だった頃、PdMが1人ですべての状況を把握し意思決定することは可能でした。ところが、事業のフェーズが進み、プロダクトが複数のマーケットでPMFを迎え、機能をどんどん増やしていくなかで、プロダクトマネジメントでやるべきことは爆発的に増えていきます。マルチプロダクト化していく過程で、一人の人間がすべてを把握し続けることには「認知負荷の限界」 が訪れます。
ここでは、一人のPdMがすべてを意思決定することではなく、プロダクトマネジメントの機能を組織全体で最大化するためにどうすれば良いかを模索するという発想の転換が不可欠です
キャディが向き合う製造業ドメインは極めて複雑です。図面データの構造化といった高度な技術的理解、グローバルな規格(ISO)と各国の商習慣のバランス、そして経営アジェンダへの紐付けなど、PdMが扱うべき変数は爆発的に増え続けています 。
この高い認知負荷を組織で突破するために、キャディは専門組織「Product Ops(プロダクトオプス)」を立ち上げました。組織のミッションは「PdMの生産性最大化」です。「PdMの生産性」を以下の数式で定義しました。
生産性=プロダクトのアウトカム/PdMの総投下時間
Product Opsは、この数式の「分子(アウトカム)の最大化」と「分母(投下時間)の最小化」の双方に貢献する責務を負います。
本来集中すべきコア業務に時間を最大限に割けるように、Product OpsはPdMのタスクを代わりに遂行、もしくは省力化することを目指します。また、PdMが自身で何に時間を割くべきか意思決定できたとしても、トレードオフを最小化して自ら切り出し、他組織に切り出す労力が残されていない場合が多いです。この場合、Product Opsはタスクの遂行のみならず、PdMに変わってこれまで担っていたタスクを抽出し、以下の4象限に整理して役割を分割・移譲していきました。
ノンコア業務に対しては
・代替: PdMでなくても遂行可能な顧客サポート、マーケットに対する一次的なリサーチなどの業務を代わりに遂行する
・削減・省力化: 無駄なプロセスの廃止や自動化
コア業務に対しては
・効率化・支援:リリースプロセスの整備や情報流通の自動化といった基盤整備
・一部代替:複雑なデータ分析など高度な専門スキルが必要な業務を専門チームに一部切り出す
役割を分割・移譲するときのポイントとしては、プロダクトやマーケットの状況によっては、切り出すべき業務が違うし、PdMの強みを持ったドメインによっても、得意とする作業、詳しい領域が異なり、どういった役割分担をすれば最適なのかはプロダクトごとに異なります。
また、Product OpsによるPdMの機能分割はプロダクトのフェーズに合わせるべきだと思います。立ち上げフェーズの新プロダクトにおいては、あえて役割を分割せず、一つのチームがワンストップで動く方が圧倒的に早いのです。役割を分けることによるコミュニケーションコストがメリットを上回る場合が多いです。
さらに、プロダクトマネジメントの役割を分割した結果、組織が弱体化することはもっとも警戒し、回避するべきです。PdMがスーパーマンとして機能していたのは、その人自身の「思考の強度」と「行動の強度」が高かったからです。機能を分割し、権限を委譲した先の組織が単なる実行組織になってしまったら、プロダクトマネジメント全体の質は低下します。
PdMがミニCEOであるならば、プロダクトマネジメントを分割した先の組織も、それぞれがミニCEOとしての強度を持つべきである。この原則を忘れてはいけません。
キャディでは、3つのステップに分けて、1Qごとに1ステップずつ、段階的に領域を広げていきました。
第1ステップ:足元の負荷軽減とリサーチ支援
最初に手をつけたのは、PdMが中長期戦略を考える時間を確保するための「足元の切り出し」です。
・顧客サポート機能の切り出し:問い合わせ対応などの顧客サポート機能をPdMの代わりに行う
・中長期に向けた市場調査・分析:PdMがやりたくても手が回っていなかった調査タスク
・リリースプロセスの整備:これまでバラバラだったリリース手順を標準化しPdMの余計なコミュニケーションコストを削減
第2ステップ:意思決定の質向上と基盤整備
次に、組織が拡大しても意思決定の精度が落ちないための仕組みづくりを行いました。
・要求管理フローの整備:膨大な要望を整理し、優先順位付けの型を構築
・AIツール活用の基盤整備:AIツールを安全・迅速に導入できるよう、セキュリティチェックなどのプロセス構築・運用
・データ分析や調査の一部代替:数値に基づく示唆をProduct Opsが提示することで、PdMの思考時間を短縮
第3ステップ:情報流通の促進と戦略実行の移譲
直近では、組織間の「情報の壁」を壊すことに注力しています。
・情報流通とコンテンツの作成・管理: ビジネス側に開発の情報を伝えるためのコンテンツ制作や情報流通経路の整備
・GTM機能の移譲:つくられたプロダクトの市場投入(Go-to-Market)戦略の策定・実行機能をProduct Ops組織に完全移譲
私は現在、PdMという肩書きではありませんが、今でも自分はプロダクトマネジメントをしているという自負を持って仕事をしています。
プロダクトマネジメントは特定の職種だけが担うものではありません。事業が成長し、課題が複雑化する中で、プロダクトマネジメントという機能を組織全体で達成していくべきです。
一人のスーパーマンに頼る時代から、組織の力でプロダクトを成功に導く時代へ。常に「プロダクトマネジメントが最高レベルで機能し続けるために、今何が必要か」を問い続けることが、スーパーマンの限界を突破する唯一の道なのです。
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