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「真のランダム数字」生成できるシステムを開発 成功率99.7%の乱数生成器を一般公開中、Nature誌で発表【研究紹介】

2025年12月23日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

米コロラド大学と米NIST(アメリカ国立標準技術研究所)などに所属する研究者らがNatureで発表した論文「Traceable random numbers from a non-local quantum advantage」は、ランダム性を保証する乱数を生成できるシステムを開発したとする研究報告である。

▲数字群の中から1つの数字を掴み持ち上げようとしているイラスト(絵:おね

NISTが量子実験を、コロラド大がデータ分析と乱数抽出を

乱数は現代社会のあらゆる場面で使われている。インターネットの暗号化、宝くじの抽選、裁判の陪審員選びなど、公平さや安全性が求められる場面では“本当に予測できない数字”が必要。しかし従来の乱数生成には厄介な問題があった。

コンピュータでつくる乱数は、元になる数字(シード)を知っていれば予測できてしまう。量子力学を使えば原理的に予測不可能な乱数をつくれるが、その乱数を取り出す過程で不正が行われていないことを証明するのが難しかった。

研究チームは、この問題を解決するシステムを開発。量子力学の原理で予測不可能であることを保証しつつ、乱数がつくられる全過程を誰でも検証できるようにした。

実験は、約110メートル離れた2地点で行った。特殊な結晶で生成した量子もつれ状態の光子ペアを2地点に送り、それぞれで測定する。量子力学によれば、もつれた光子の測定結果は測定の瞬間まで決まっておらず、しかも光より速い通信は不可能なので、2地点の測定結果を事前に打ち合わせることもできない。この性質を利用して、誰にも予測できなかった乱数を生成する。

しかし乱数源が予測不可能でも、それを処理する過程で不正ができては意味がない。そこで研究チームは「Twine」というプロトコルを開発した。これは複数の独立した組織がそれぞれ記録を残し、互いの記録を暗号学的(ハッシュチェーン)に絡み合わせる仕組みだ。NISTが量子実験を担当し、コロラド大学がデータ分析と乱数抽出を行い、外部の乱数サービス(DRAND)が抽出器に独立したシードを提供する。どの組織も単独では結果を操作できず、もし改ざんしようとすれば他の組織のチェーンに記録されたハッシュと矛盾が生じて発覚する。

最初の40日間で7454回試行し、7434回成功した。成功率は99.7%である。1回の成功ごとに512ビットの乱数が出力され、その品質は数学的に保証されている。

このシステムは「CURBy」(Colorado University Randomness Beaconの意)として公開運用されている

Source and Image Credits: Kavuri, G.A., Palfree, J., Reddy, D.V. et al. Traceable random numbers from a non-local quantum advantage. Nature 642, 916–921 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09054-3

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