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2025年12月22日
![DB設計から見直すNext.jsのパフォーマンス最適化。フロントエンドエンジニア必読の3冊[レバテックLAB]](https://levtech.jp/media/wp-content/uploads/2025/12/251218_LTlab.png)

株式会社 REUNION SOFTWARE 代表取締役
Software Engineer
2025年3月 までフロントエンドリードとして、数々のプロジェクトをNext.jsアプリケーションにリプレース。「フロントエンド開発のためのテスト入門(翔泳社)」など、3冊のフロントエンド関連書籍を執筆。2024年10月株式会社 REUNION SOFTWARE創立。
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Next.jsは単なるWEBフロントエンドフレームワークではなく「Webアプリケーションフレームワーク」としての地位を確立しました。特にApp Routerでは、Server ComponentsやServer Actionsを通じてバックエンドのコードに触れる機会が増えています。DBから直接データを取得・更新する場面も少なくありません。こうした変化により、フロントエンドエンジニアもDB設計やシステム設計に関わる機会が増えています。
WebアプリケーションでDBからデータを取得する際、ORM(Object-Relational Mapping)ライブラリを使うことがよくあります。TypeScriptプロジェクトに導入するORMライブラリとして、PrismaやDrizzleが人気です。これらを使えば直感的にDBクエリを発行でき、TypeScriptの型システムとの親和性も抜群です。
これらのORMライブラリは、従来のSQLベースのテーブル設計とは異なるアプローチを採用しています。従来はER図を描き、正規化理論に基づいてテーブル構造を設計してからSQLで実装する「データベースファースト」でした。
一方、PrismaではPrismaスキーマ=DSL(Domain-Specific Language)、Drizzleでは関数をチェーンし引数Objectでモデリングを行います。これらの定義からマイグレーションSQLを自動生成できます。TypeScriptの型システムと統合されているため、コンパイル時にエラーを検出でき、IDEの補完も効きます。リレーションもスキーマ内で宣言的に定義できます。この恩恵を受けるため、Next.jsにDBアクセス層を設けるプロジェクトも少なくないでしょう。
ただし、ORMライブラリを経由すると、パフォーマンスの悪いクエリが発行される可能性に注意が必要です。Prismaでは意図的に内部でJOIN句を生成していない点も気になるところです。公式ではJOIN句なしでも十分なパフォーマンスを担保していると明記されていますが、複雑な要件では$queryRawの検討やプラグインの追加など、通常とは異なるアプローチが必要になる場面もあります。
Next.jsが関わるDB設計は、パフォーマンスだけでなく、システム全体の拡張性や保守性に深く影響します。
まず、将来的な機能追加への対応力が挙げられます。適切に正規化されたテーブル設計は、新しい機能要件が発生した際に、既存のデータ構造を大きく変更せずに対応できます。一方、安易な非正規化や不適切なリレーション設計は、後からの変更コストを大幅に増大させます。
次に、データの整合性と信頼性の観点です。外部キー制約やチェック制約をDB側で適切に設定することで、アプリケーション側のバリデーションだけに頼らず、システム全体でデータの品質を保証できます。複数のアプリケーションやAPIからデータにアクセスする場合、この設計の重要性はさらに高まります。
チーム全体の認識共有も重要です。ER図や正規化の理論に基づいた設計は、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、インフラエンジニアが共通の言語で議論できる土台となります。これにより、システムの全体像を把握しやすくなり、コミュニケーションコストが削減されます。
さらに、技術選択の柔軟性も考慮すべき点です。適切なデータモデリングは、キャッシュ層の追加、リードレプリカの導入、NoSQLとの併用など、システムの成長に応じた技術スタックの拡張を容易にします。
このように、DB設計はパフォーマンスだけでなく、システムの長期的な健全性と進化可能性を左右する重要な要素です。
フロントエンドエンジニアがバックエンド設計に本格的に関わるには、体系的な学習が不可欠です。「どのようにバックエンド設計に携わるべきか?」という問いに対する答えは、書籍を通じた段階的な学習にあります。
特に重要なのは、DB設計の理論とベストプラクティスを身につけることです。適切なDB設計は、将来的な機能拡張への対応力を左右します。ORMの便利さに頼るだけでなく、その背後にある設計思想を理解することで、長期的に保守しやすいシステムを構築できます。
本稿では、基礎から応用まで体系的に学べる3冊の書籍を紹介します。これらを順番に読み進めることで、RDBの基礎理論、実務での失敗パターンとその回避法、大規模システムにおけるデータ技術の全体像を段階的に習得できます。

▲『達人に学ぶDB設計徹底指南書』ミック 著、翔泳社
本書は、データベース論理設計の実践的な手法を体系的に解説した国内の定番書です。正規化の理論からER図の書き方、インデックス設計、パフォーマンスチューニングまで、実務で必要な知識が網羅されています。特に「なぜその設計が必要なのか」という理由が丁寧に説明されており、ORMライブラリを使う際にも適切なテーブル設計を意識できるようになります。
Prismaのスキーマは直感的で便利ですが、「なぜこのリレーションが必要なのか」「なぜこの正規化が適切なのか」という理論的な背景を理解しないまま設計すると、後々パフォーマンスやメンテナンス性の問題に直面することがあります。本書で学ぶER図や正規化の原理は、ORMライブラリの使い方に依存しないDB設計の基礎知識となるでしょう。
1. 「なぜ」を理解した設計思想
正規化の真の目的を深く理解し、データの冗長性を排除し更新異常を防ぐ方法を学びます。ER図の記法を覚えるだけでなく、エンティティとリレーションシップを正確にモデリングする能力、つまり現実世界を抽象化する力が身につきます。
2. 現場で役立つ実践的な判断力
理論的に正しい正規化が、必ずしも最高のパフォーマンスをもたらすわけではないことを学びます。非正規化を戦略的に適用する判断基準や、その際のリスク(データの不整合)をどう管理するかという現場のノウハウが得られます。WHERE句やJOIN句の利用頻度を考慮したインデックス設計の具体的な手法を習得し、クエリを改善する知見が得られます。
3. アンチパターンと問題回避能力
「やってはいけない」アンチパターン(例:一つのカラムに複数の意味を持たせる「ダブルミーニング」など)を体系的に学びます。これにより、将来的にシステムの問題を引き起こす設計ミスを事前に回避する能力が身につきます。賛否両論ありますが、現場では効率のために使われる実用的な設計テクニックを知ることで、設計の引き出しが増え、より柔軟に対応できるようになります。
4. RDBが苦手とする構造への対応
通常のRDBが得意としない階層構造(木構造)やタグ付けなどのデータを、RDBの制約の中で効率的に表現・操作するための高度な設計パターンを学べます。

▲『SQLアンチパターン』ビル・カーウィン 著、 和田卓人、和田省二 監訳、児島修 訳、オライリー・ジャパン
本書は、データベース設計における典型的な失敗パターンとその解決策を体系的に解説した名著です。ジョイテーブルの誤用、マルチカラムアトリビュート、ポリモーフィック関連など、実務で頻出するアンチパターンが取り上げられています。各パターンについて「なぜ問題なのか」「どう解決すべきか」が具体例とともに示されており、ORMを使用する場合でも適切なDB設計を意識できるようになります。
例えば、Server Actionsで Prismaを使ってユーザーのタグ付けを実装する際、「カンマ区切りの文字列で複数のタグを1つのカラムに押し込む」といった多値属性の誤用(Jaywalking)を避け、適切な中間テーブル(UserTag)を設計できます。また、Server Componentsでデータを取得する場合にも、正規化されたスキーマから必要なデータのみを効率的に取得する設計思想を自然に身につけられます。さらに、外部キー制約やチェック制約を活用することで、アプリケーション側のバリデーションだけに頼らず、データベースレベルでデータの整合性を保証できるようになります。
1. 問題の発見と診断
既存のデータベースやアプリケーションコードに潜む技術的負債を発見するのに役立ちます。「ジェイウォーク」「ナイーブツリー」などの共通言語をチーム内で共有でき、問題の特定と議論がスムーズになります。今まで「なんとなく動いている」で済ませていた設計が、将来的なパフォーマンス低下や保守性悪化の原因であることに気づけます。各アンチパターンに対して具体的なリファクタリング手法が示されているため、改善の方向性に迷いません。
2. 堅牢で高性能な設計スキル
最初から高品質なデータベースを設計するための知識とベストプラクティスが身につきます。RBAR(行単位処理)やEAVのような拡張性の低い設計を避け、集合指向の効率的なSQLを書けるようになります。また、外部キーやチェック制約を正しく利用し、アプリケーションではなくDB側でデータの信頼性を担保する方法も学べます。ツリー構造の適切な表現方法など、将来の変更に強い柔軟なデータモデルも習得できます。
3. セキュリティと信頼性の確保
データセキュリティと安定運用に必要な知識を補強できます。SQLインジェクションのリスクとその防止策(プリペアドステートメントの使用)を正しく理解し、セキュリティホールを未然に防げます。また、トランザクション管理の誤用を防ぎ、データの永続性(Durability)と一貫性(Consistency)を確保する方法を学べます。

▲『データ指向アプリケーションデザイン』Martin Kleppmann 著、斉藤太郎 監訳、玉川竜司 訳、オライリー・ジャパン
本書は、大規模データシステムの設計と実装における本質的な課題を深く掘り下げた技術書です。データの保存・取得・処理における信頼性、スケーラビリティ、保守性のトレードオフを、分散システムの観点から体系的に解説しています。
RDB、NoSQL、メッセージキュー、キャッシュなど、さまざまなデータ技術の特性と使い分けを理解することで、Next.js アプリケーションのバックエンド設計においても最適な技術選択が行えるようになります。Next.js はあくまでアプリケーション層の一部であり、実際のシステムはデータベース、キャッシュ、メッセージキュー、外部 API など複数のコンポーネントが連携して動作します。
本書を通じてシステム全体を俯瞰し、各コンポーネントの役割と相互作用を理解することで、Next.js アプリケーションをより堅牢でスケーラブルなシステムの一部として設計できるようになります。
1. 分散システムの本質的な理解
システムアーキテクチャ全体における信頼性・スケーラビリティ・保守性のトレードオフを深く理解できます。単なるRDBの知識にとどまらず、大規模データシステムの設計原理を学べます。
2. 適切な技術選択の能力
RDB、NoSQL、メッセージキュー、キャッシュなど、各種データ技術の特徴と適用場面を理解し、Next.jsアプリケーションのバックエンド設計においても適切な技術判断ができるようになります。
3. データの保存・取得・処理の深い洞察
データの永続化、クエリ処理、バッチ処理、ストリーム処理など、データライフサイクル全体にわたる課題と解決策を体系的に学べます。
4. 分散システムの課題への対応
ネットワーク障害、レプリケーション、パーティショニング、トランザクション、整合性など、分散環境特有の問題とその対処方法を理解できます。
5. 「なぜそう設計するのか」という原理の理解
表面的なノウハウではなく、各設計選択の背後にある原理や理論を深く掘り下げることで、状況に応じて適切な判断ができるようになります。
本稿でご紹介した3冊は、データとデータベースを扱うエンジニアにとって非常に有用な書籍ですが、カバーするスコープ(範囲)と深さが大きく異なります。それぞれの書籍がどの領域に焦点を当てているかを理解すると、読者が得られる学びが明確になります。
これらの書籍を通じて、普段意識することの少ないデータベース設計の本質や、システム全体のアーキテクチャについて深く理解することができます。Next.jsでフロントエンド開発を行う際も、こうしたバックエンドの知識は必ず活きてきます。ぜひ、これらの書籍を手に取り、より堅牢で保守性の高いアプリケーション開発に挑戦してみてください。
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