デグレと手戻りを減らす。今こそコンポーネントの話をしよう

2025年7月1日

実践!コンポーネント設計の勘所 概念 メリット アンチパターン[レバテックLAB]

執筆

中川 幸哉

有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表 山田祥寛)に所属するテクニカルライター。新潟県上越市出身。会津大学コンピュータ理工学部卒業後、現在は新潟市に在住。ReactやAndroidを軸に、モバイルアプリ開発やWebサイト制作、Webメディア編集部の業務改善や、プログラミング技術記事の執筆等に携わっている。著書に「たった1日で基本が身に付く! Androidアプリ開発超入門」(技術評論社)、「基礎から学ぶ React Native入門」(翔泳社)他。

監修

山田 祥寛

静岡県榛原町生まれ。一橋大学経済学部卒業後、NECにてシステム企画業務に携わるが、2003年4月に念願かなってフリーライターに転身。Microsoft MVP for Visual Studio and Development Technologies。執筆コミュニティ「WINGSプロジェクト」代表。
主な著書に「独習」シリーズ、「これからはじめるReact実践入門」、「改訂3版 JavaScript本格入門」他、著書多数

はじめに:現代のUI開発が抱える複雑さ

現代のWebアプリケーションやモバイルアプリケーションのUI(ユーザーインターフェース)は、数年前と比較して格段にリッチでインタラクティブになりました。ユーザーはより洗練されたデザイン、スムーズなアニメーション、そしてリアルタイムな情報更新を期待するようになっています。

このような要求に応えるため、フロントエンド開発の現場では、扱う情報量が増え、機能も多岐にわたるようになってきました。例えば、以下のような要素が複雑性を増大させています。

動的なコンテンツ:ユーザーの操作や外部データの変更に応じて、UIがリアルタイムに変化する。
多様な状態管理:ローディング中、エラー発生時、データの有無など、UIが取りうる状態が増加。
レスポンシブデザイン:PC、タブレット、スマートフォンなど、異なるデバイスや画面サイズへの対応。
アクセシビリティ:より多くの人が快適に利用できるよう、キーボード操作やスクリーンリーダーへの配慮。
国際化・地域化:多言語対応や、地域ごとの表示形式の違いへの対応。

これらの要素が絡み合い、コードベースは肥大化しやすく、見通しが悪くなりがちです。結果として、新しい機能の追加や既存機能の修正が困難になったり、意図しないバグ(デグレード)が発生しやすくなったり、開発スピードが低下したりといった問題に直面することが少なくありません。

このようなUI開発の複雑さに立ち向かうための強力なアプローチの一つが、「コンポーネントベース開発」であり、その中核をなすのが「コンポーネント設計」の考え方です。

本連載は、Reactなどコンポーネントベースのフレームワーク/ライブラリを使用しており、コンポーネント設計への理解を深めたいエンジニア、より保守性・再利用性の高いコードを目指したいエンジニアの方々を対象として進めていきます。

コンポーネントベース開発という解決策

前章で述べたような現代のUI開発の複雑性に立ち向かうための効果的なアプローチが「コンポーネントベース開発」です。これは、UIを独立した再利用可能な「部品」として捉え、それらを組み合わせてアプリケーションを構築していく開発手法です。

コンポーネントとは何か:「UIの部品」という考え方

コンポーネントとは、特定の機能や見た目を持つ、UIを構成する独立した単位です。ボタン、入力フォーム、ナビゲーションバー、カード表示など、Webページやアプリケーション画面を構成するあらゆる要素がコンポーネントになり得ます。

重要なのは、各コンポーネントが自身の責務(見た目や振る舞い)に対してのみ責任を持ち、他の部分から独立しているという点です。例えば、あるボタンコンポーネントは「クリックされたら特定の処理を実行する」という機能と「特定のデザインで表示される」という見た目に責任を持ちます。このボタンコンポーネントは、アプリケーションのどこで使用されても、基本的に同じように機能し、同じように表示されることが期待されます。

適切に設計されたコンポーネントは、それ自体で完結しており、他のコンポーネントと疎結合であるため、まるでレゴブロックのように自由に組み合わせることが可能です。

なぜコンポーネント化が必要なのか

では、なぜUIをこのようにコンポーネントとして分割し、管理する必要があるのでしょうか。主な理由は、UI開発が直面する「複雑さ」を効果的に低減できるからです。

大規模で複雑な一枚岩のシステムを一度に理解し、修正するのは困難です。しかし、それをより小さく、管理しやすい単位(コンポーネント)に分割することで、以下のことが可能になります。

関心の分離:各コンポーネントは特定の機能や見た目に集中できるため、開発者は一度に考えるべき範囲を限定できます。これにより、コードの可読性や理解しやすさが向上します。
問題の局所化:バグが発生した場合でも、問題のあるコンポーネントを特定しやすくなり、修正の影響範囲も限定的になります。
並行開発の促進:異なるコンポーネントを複数の開発者が同時に開発しやすくなり、チーム全体の開発効率が向上します。

コンポーネントという抽象化レイヤーを導入することで、私たちは複雑なUIシステムをより扱いやすい単位で捉え、設計し、構築していくことができるのです。これは、ソフトウェア工学における「分割統治」の思想をUI開発に適用したものと言えるでしょう。

コンポーネント化による主なメリット

コンポーネントベースでUIを開発することは、単にコードを分割する以上の多くの恩恵をもたらします。ここでは、その代表的なメリットを4つの観点から見ていきましょう。

▲コンポーネント化による主なメリット

1. コードの再利用性向上と開発効率化

一度適切に設計・実装されたコンポーネントは、アプリケーション内の様々な場所で再利用できます。例えば、あるプロジェクトで作成した「ユーザープロフィールカード」コンポーネントは、別のページや、極端な場合は別のプロジェクトでも、少しの調整で再利用できるかもしれません。

これにより、同じようなUI部品を何度も一から作る手間が省け、開発全体の効率が大幅に向上します。車輪の再発明を避け、より本質的な機能開発に集中できるようになるのです。また、共通のコンポーネントライブラリをチームで共有すれば、デザインの一貫性を保ちつつ、個々の開発スピードを上げることも可能です。

2. 保守性の向上と変更への強さ

後述するようなアンチパターンはいくつかあるものの、各コンポーネントが独立して機能するため、あるコンポーネントの修正が他の部分に意図せず影響を与える(デグレードを引き起こす)リスクを低減できます。例えば、ボタンコンポーネントのデザインを変更したい場合、そのコンポーネントのコードだけを修正すればよく、アプリケーション全体の他の機能について心配する必要は少なくなります。

この「関心の分離」は、コードの見通しを良くし、将来的な仕様変更や機能追加にも柔軟に対応できる、変化に強いシステムを構築する上で非常に重要です。問題が発生した場合のデバッグも、問題箇所が特定のコンポーネントに限定されやすいため、原因究明と修正が迅速に行えます。普通のシステム開発におけるプログラミングのベストプラクティスと同様に、インターフェースを安定させ、共通処理をまとめてカプセル化することで、安心してコンポーネントベースの開発できるようになるのです。

3. テスト容易性の向上と品質担保

コンポーネントは独立した単位であるため、それぞれを個別にテストすることが容易になります。特定の入力(Propsと呼ばれることが多い)に対して期待通りの出力(表示やイベント)を返すか、といった観点で単体テストを作成し、コンポーネントの品質を担保できます。

例えば、検索窓コンポーネントであれば、「特定のキーワードを入力したら、検索実行イベントが発生する」といった振る舞いを、他のUI要素から切り離してテストできます。このように、小さな単位でテストを積み重ねていくことで、アプリケーション全体の信頼性を高めることができます。

4. チーム開発における分業と共通認識の促進

コンポーネントという明確な境界があると、チームメンバーがそれぞれ異なるコンポーネントを並行して開発しやすくなります。各々が担当する範囲が明確になるため、コンフリクトを避けやすくなり、大規模なプロジェクトでも効率的に作業を進めることができます。

また、「この機能は〇〇コンポーネントが担当する」「この表示は△△コンポーネントを使う」といったように、コンポーネントを単位としたコミュニケーションは、チーム内での共通認識を形成しやすくします。デザイナーとエンジニア間、あるいはエンジニア同士での認識の齟齬を減らし、よりスムーズな連携を促進する効果も期待できるでしょう。

優れたコンポーネント設計がもたらすもの

これまで見てきたように、コンポーネントベースで開発を進めること自体に多くのメリットがありますが、「優れた」コンポーネント設計を追求することで、その効果はさらに大きくなります。

適切に設計されたコンポーネントは、まるでよくできた道具のように、開発者の思考を妨げることなく、直感的に扱うことができます。API(Propsの設計など)が分かりやすく、内部の実装を意識しなくても期待通りに動作してくれるコンポーネントは、使う側の負担を大きく減らします。

▲優れたコンポーネント設計がもたらすもの

具体的には、次のような恩恵が期待できます。

1. 開発体験の向上

優れたコンポーネント設計は、開発者の日々の作業をよりスムーズで快適なものにします。コンポーネントの振る舞いが予測しやすいため、安心して利用したり改修したりすることができます。新しいチームメンバーがプロジェクトに参加した際も、コンポーネントの使われ方や役割が明確であれば、学習コストを低く抑えられます。また、問題が発生した場合には、原因箇所が特定のコンポーネントに絞り込みやすくなるため、デバッグの効率も向上します。そして何より、各コンポーネントが持つべき責務がはっきりしていると、コード全体の見通しが良くなり、可読性の高いメンテナンスしやすいコードベースを維持することに繋がります。

2. プロダクト品質の向上

ユーザーが直接触れるUIの一貫性は、プロダクトの品質を左右する重要な要素です。共通のコンポーネントライブラリを利用することで、アプリケーション全体でUIのルック&フィールや操作感に統一性を持たせやすくなります。また、一つ一つのコンポーネントが十分にテストされ、安定した品質を持っていれば、それらを組み合わせることで新たなバグが混入するリスクを減らすことができます。

さらに、個々のコンポーネントレベルでパフォーマンスを意識した設計や実装を心掛けることは、アプリケーション全体のパフォーマンス最適化にも貢献します。もちろん、コンポーネント設計だけですべてのパフォーマンス問題が解決するわけではありませんが、重要な基盤となることは間違いありません。

3. 開発プロセスの改善

適切に分割されたコンポーネントは、開発のサイクルを早める効果があります。まるでレゴブロックのように、既存の小さな部品を組み合わせて新しい機能や画面を素早く構築できるようになるため、より迅速なイテレーションが可能になります。これは、特にアジャイルな開発環境において大きなメリットとなるでしょう。

優れたコンポーネント設計は、単に「動くコード」を書くこと以上の価値をもたらします。それは、開発チーム全体の生産性を高め、プロダクトの品質を継続的に向上させ、そして何よりも、開発という行為そのものをより創造的で楽しいものにしてくれる可能性を秘めているのです。

コンポーネント化のアンチパターン

ここまで解説してきた通り、再利用性があるコンポーネントには多くのメリットがあります。しかしながら、コンポーネントによって共通化すれば必ず再利用性がついてくるわけではないのです。これから紹介する、2つのアンチパターンを通して、コンポーネントとの上手な付き合い方を学びましょう。

1. ユースケースを無視した共通化

まずは、見た目だけに着目すると痛い目を見る話をしましょう。まず、フォームの送信ボタン(button要素のtype属性がsubmitなもの)を美しくデザインしたとしましょう。近年では、リンクをボタンのように見せるデザインも増えてきていますよね。デザイン上はリンクのボタンも送信ボタンと同じボタンにすることになったので、「ボタン」という共通コンポーネントにまとめることにしました。どちらのケースにも対応できる素晴らしいコンポーネントが生まれたかのように見えます。

しかし、これはアンチパターンなのです。リンクのためのボタンには、リンク先を示すプロパティが必要ですが、フォームのためのボタンにはそんなものは必要ありません。プロパティの指定内容に応じて内部の処理を切り替える条件分岐を実装する必要がありますね。最終的にレンダリングされる要素も、button要素とa要素に分かれるので、要素にスタイルを適用する処理が共通化できるわけでもありません。

インプットもアウトプットもまったく違う、用途=ユースケースがそもそも違うものは共通化しても旨みがないのです。別々のコンポーネントとして実装して、唯一の共通点であるスタイルだけを何らかの方法で共通の変数として扱うのが良い方法でしょう。

2. 無理なカスタマイズによるデグレード

ユースケースがスッキリしているコンポーネントを使う際にも落とし穴はあります。

ここからは一例ですが、リンク用の共通ボタンを作成したので、あらゆる場所のボタン状のリンクにこのコンポーネントを使うことにしました。標準デザインとして青い背景色と白い文字色が設定されているとしますが、外部からスタイルを注入することで、多少のカスタマイズも行うことができます。

さて、画面によってはリンクに特別な色をつけることもあるということで、緑色の背景のリンクボタンが必要になりました。ある画面限定で、共通のリンクボタンをカスタマイズして、背景を緑色にしました。これはその場では問題ないのですが、数ヶ月後に困る時限爆弾となります。

何ヶ月か経って、Webサイトをダークモードに対応させることになりました。共通コンポーネントを直すだけで済むだろうということで、リンクボタンの標準デザインを変更して、ダークモードのときは色を反転して白い背景色と青い文字色になるようにしました。ここで問題が起きます。カスタマイズした画面では背景色が緑色固定なので、緑の背景色と青い文字色の、かなり見づらいボタンが生まれてしまいました。

▲リンクボタンのイメージ

これらのボタンはユースケースとしては近いので、共通コンポーネントを使い回して済ませたくなるのですが、大胆な色の変更となると、別のコンポーネントとして実装することも検討したいところです。

おわりに:コンポーネント設計を学ぶ意義

本稿では、「なぜ今コンポーネント設計なのか?」という問いから始め、現代のUI開発が直面する複雑さと、その解決策としてのコンポーネントベース開発の基本的な考え方を見てきました。そして、コンポーネント化がもたらす具体的なメリットや、優れた設計が開発体験やプロダクト品質に与える好影響について解説しました。

改めて強調したいのは、コンポーネント設計は単なる技術的なテクニックの一つではなく、複雑な問題を管理しやすく、変化に対応しやすいシステムを構築するための普遍的な思考法であるという点です。

この思考法を身につけることは、以下のような価値をもたらします。

より良いコードを書くための指針:再利用性、保守性、テスト容易性といった品質特性を意識したコードを書くための具体的な指針を得られます。
チーム開発を円滑にする共通言語:設計について議論する際の共通認識が生まれ、より建設的なコミュニケーションを促進します。
変化への対応力向上:新しい技術やフレームワークが登場しても、コンポーネント設計の原則は応用が効きやすく、変化への適応を助けます。
開発者としての成長:より複雑なUIを効率的に構築・管理する能力は、フロントエンドエンジニアとしての市場価値を高めます。

もちろん、優れたコンポーネント設計への道は一朝一夕に達成できるものではありません。プロジェクトの特性、チームのスキル、そして扱うUIの複雑さなど、多くの要因を考慮しながら、試行錯誤を繰り返していく必要があります。

本連載では、今後、より具体的なコンポーネントの分割戦略、命名規則、Propsや状態の扱い方といった実践的なトピックを掘り下げていく予定です。例示が必要な場合はReactを使いますが、他のライブラリにもある概念を中心に扱うつもりでいます。

この記事が、皆さんがコンポーネント設計の重要性を再認識し、その奥深い世界へ一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。そして、日々のフロントエンド開発において、より質の高い、より効率的な開発を実現するための一助となることを願っています。

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