2025年6月23日
アソビュー株式会社 CPO
新卒でガイアックスにエンジニアとして入社後、アウトドアレジャー予約サービス「そとあそび」の開発に携わり、M&Aを経てアカツキでプロダクトマネージャーに転身。その後、そとあそび代表取締役を務め、2021年にアソビューへ参画。「アソビュー!」の事業責任者を経て、現在は執行役員CPOとして、マルチプロダクト戦略の推進やプロダクト組織の強化に取り組み、プロダクト開発の体制づくりやスケールに注力している。
OKR、North Star Metric、RICE、狩野モデルなど、プロダクトマネジメントの現場で活用できるフレームワークは数多く存在します。しかし、せっかく学んだフレームワークを現場で使えないまま棚上げしてしまっていたり、使おうとしてもうまく整理できなかったり、周囲の理解が得られなかったりといった経験はないでしょうか。
私自身、現場で起きている事象を様々なフレームワークで整理、可視化する機会は多々あります。しかし、まだまだ使ってみたもののうまく整理できずに終わったり、良いアウトプットが出せたつもりでも周囲から反応が得られなかったことも少なくありません。
本記事ではなぜ「学んだのに使えない状態」に陥るのかを解きほぐしながら、現場で活用するためのポイントを紹介します。私自身の経験を交え、チームに周知・浸透させる方法や、フレームワークを真に活かすうえで欠かせない「問いの設定」「本質の理解」に焦点を当て、実践的なヒントをお伝えします。
「知ってるがどう使えばいいかわからない」という状態から卒業し、フレームワークを自分の引き出しに取り込むことで、プロダクトや事業の成長を加速させる。そんな一歩を踏み出したいプロダクトマネージャーの方はぜひ読み進めてください。
フレームワークを学んだものの、実際に使いこなせずに終わってしまう背景には、以下3つの要因があると考えられます。
1. PM自身がフレームワークの本質的な概念を理解していない
どのような理論に基づき、どんな場面で効果を発揮するのか、フレームワークの根本を理解できないと、表面的なアウトプットに留まりがちです。
2. 解決したい課題や、目指す姿が曖昧なままフレームワークを選んでしまう
まず解くべき課題は何なのかを明確にした上でフレームワークを選定する必要があります。「とりあえずNorth Starやってみよう」「RICEで優先順位は決まるはず!」などと先走ってしまうと、チーム全体に混乱を招きやすくなります。
3. 導入したフレームワークについてチームメンバーの納得が得られていない
フレームワークはPM個人が使えるだけでは十分な効果を発揮しません。チーム全員が共通認識を持ち、運用方法も含めて合意した上で推進されている状態が理想だと言えます。
これらを克服するためにも、「引き出しをつくる」「問い(課題)の曖昧さを解消する」「周囲の理解を得る」といった取り組みが必要です。次章以降でそれぞれのポイントを具体的に解説していきます。
フレームワークを使いこなすためには、まず多くの引き出しを持つことが重要です。
さまざまな情報源から「面白そうだ」と感じたフレームワークをインプットし、その背景や狙いを自分の引き出しにためていきましょう。
フレームワークを生み出しているのは人であり、誰かが何かの課題に対してこういう状態にしたい!という思いから生まれています。フレームワークの「形」や「具体的なアウトプット方法」を覚えるよりも、なぜそのフレームワークが生まれたのか、どんな問題を解決しようとしたのかといった背景を理解し、自分の頭の中に蓄積しておくことが重要です。
私自身も実際にフレームワークを使おうと思ったとき、詳細なステップやアウトプット例は改めて確認することが多いです。重要なのは、そのフレームワークがどのような状況下で生まれ、どういう意図を持って活用されるものかを理解し、どの課題にフィットするかを自分の中で判断できるようになることです。
このようなフレームワークの背景を理解していると、自チームの今の課題にフィットするかを判断できるようになります。「背景を知っているフレームワーク」の引き出しをたくさん持っていると、課題に直面したときに、「この課題どこかで聞いたことあるな」という感覚が生まれやすくなり、スムーズにアクションを起こしやすくなるはずです。
フレームワークの背景を理解し、引き出しとして蓄えても、現場で起きている課題を正しく捉えられないと活用には至りません。ここでは問いをどのように磨いていくか、そのステップを提示します。
プロダクトマネージャーが現場で感じている課題は多岐にわたると思います。例えば、以下は現場でよく聞く課題だと思います。
このような課題に直面したとき「自分軸で言い換える」をまず試してみてほしいです。「自分軸で言い換える」とは、自分のコントロールできる領域で物事を捉えるということです。
先ほどの課題を自分軸で捉え直すと、このように言い換えられると思います。
自分を軸にして何ができていないかを可視化すると、その課題に対する本質的な問いが生まれると思っています。
こうして出そろった課題を集約すると「優先度の選定基準が曖昧」という1つの課題に行きつきます。まずは情報を掘り下げ、問いを再構築してからフレームワークを選ぶ──この順序が、アウトカムを最大化する近道になります。
このように、多くの課題を書き出してグルーピングすると、たいていは1つの本質的な問いに収束するものです。そこに行き着いた問いこそ、あなたが「いま最優先で解きたいテーマ」のはずです。
逆に、バラバラに見える課題がどうしてもまとまらないときは、①課題の粒度が粗く整理不足か、②解決しても十分なインパクトが見込めないテーマが混在している可能性が高いと認識しましょう。その段階で無理にフレームワークを当てはめても、期待した成果は得にくいです。
また、そもそも課題を他人事のように捉えてしまうときに、フレームワークが生まれた背景と一致することはまずないです。自分ごとと捉え「自分は何ができていないのか」を認識できると、自然とストーリーの引き出しとつながり、一歩先に進むためのアクションにつながると思います。
課題が明確になり、フレームワークで整理できたとしてもそれを軸にチームの活動を改善していかなければプロダクト、事業、ひいては社会にインパクトを与えることは難しくなります。
ここでは整理したフレームワークをいかにチームに浸透させていくかのtipsをお伝えします。
まずは課題を共通認識とすることが大切です。
チームが抱える課題は多岐に渡ります。メンバーの視点によって、感じている課題感は様々でしょう。「たくさんある課題の中で今なぜその課題が最優先なのか」「それを解決すると、メンバーそれぞれ何がうれしいのか」を明示する必要があります。
1. ヒアリングで “痛み” を把握する
まずはエンジニア個々に 1on1 やインフォーマルな雑談でヒアリングを行い、次に挙げるような “生々しい課題” を本人の言葉で棚卸しします。
ここで重要なのは評価や解決策を提示せず、徹底的に共感して聴くことです。
2. チーム全体に可視化し、共通言語へ落とし込む
収集した声を「開発フローのムダ」「技術的負債」「ユーザーストレスに直結」のようにカテゴリ化し、スプリントレビューや Slack で共有します。
例:「“差し込みタスクで作業が中断される” は今スプリントで8件ありました。」
具体的な“痛みの量”を示すことで、課題の優先度を 感覚ではなく事実ベース で揃えます。
3. 自分が提案する施策と “痛み” の対応表を示す
たとえば RICE で優先順位を決める運用を提案する場合、あなたのフラストレーションを、このフレームワークでこう減らせると対応付けることで、自分の取り組みがメンバーの課題解決に直結していることを示します。
4. 小さな成功体験を最速で届ける
まずは Effort が最小の改善(例:入力フォームのバリデーション修正)を 1 週間以内にリリースし、「中断せずに終わった!」「ユーザーから即ポジティブな声が出た!」といったフィードバックをチームで共有。体験価値を実感できると、以降の施策も自発的に協力を得やすくなります。
5. 継続モニタリングと感謝のフィードバック
週次で「割込み件数」「未リリースブランチ数」「Quick Win 完了数」をダッシュボード共有し、改善の軌跡を可視化。数字が動いたタイミングで、Slack や朝会で 具体的に誰がどう貢献したかを言語化して称賛します。
例:「タスク整理の自動化スクリプトを作ってくれた○○さんのおかげで、今週の中断は 2 件に激減しました!」
この①共感 → ②可視化 → ③対応表 → ④小さな成功 → ⑤称賛という流れを回すことで、メンバーは「PMが自分の課題をちゃんと理解し、解決してくれる」と感じることができ、さらにPM は「信頼される存在」として、より大きな変革にも巻き込みやすくなるでしょう。
結果として、フレームワークは“押しつけ”ではなく、“自分たちの課題を解決する道具”として機能し始めます。
フレームワークを導入することは、あくまで「課題を解決するための1つの手段」にすぎません。最も大切なのは、自分自身が感じる課題を正しく言語化し、チームメンバーが同じ課題意識を共有できるように導くことです。そうした土台があって初めて、フレームワークは「使えないまま終わる道具」ではなく、「チームの行動を変え、成果を生み出す力」へと進化していきます。
もちろん、課題の根本解決には時間と労力がかかります。私自身、「こんなに丁寧にフレームワークを説明し、運用ルールを定めたのに、なぜ思うように回らないのか?」と葛藤したことは数えきれません。時には、効果が見えずに自分のやり方に疑問を感じたり、チームからも「本当にこの取り組みが意味あるの?」と疑問をぶつけられることもありました。それでも粘り強く続けられたのは、「この課題さえ乗り越えれば、プロダクトがもっと良くなる」という確信と、少しずつでも前進している実感があったからです。
フレームワークの導入効果がすぐに見えるケースは多くありません。しかし、だからこそ粘り強い取り組みが大きな差を生み出すのだと思います。プロダクトマネージャーは事業や顧客の未来を見据えながら、常に「いま何がボトルネックなのか?」と問い続け、そのうえで最適なフレームワークやアプローチを選択していく存在です。その道は決して楽ではありませんが、だからこそやりがいも大きいはずです。
もし道に迷ったときは、改めて自分の課題感を自分軸で言い換えてみてください。そして、ストーリーを理解しながら習得したフレームワークの“引き出し”を思い出してみる。どんなに小さな一歩でも、“前に進み続ける”という積み重ねが、プロダクトとチームを着実に成長させてくれるはずです。
最後に、同じように試行錯誤を重ねているすべてのプロダクトマネージャーへ。遠回りに見える道のりでも、その経験が必ずあなたの糧になると信じています。ぜひ今回ご紹介した考え方やフレームワークの使い方を参考に、自分ならではのやり方で課題を解決し、プロダクトと事業の成長を加速させていってください。
関連記事
人気記事