【完全版】人事評価を攻略して給料アップする実践ガイド

2024年10月11日

Dain

古今東西のスゴ本(すごい本)を探しまくり、読みまくる書評ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人。自分のアンテナだけを頼りにした閉鎖的な読書から、本を介して人とつながるスタイルへの変化と発見を、ブログに書き続けて10年以上。書評家の傍ら、エンジニア・PMとしても活動している。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

はじめに

給料や昇進を決めるものは何だろうか?

同じくらいの力量で、仕事の出来も同程度なのに、給料に「差」がつくのはなぜだろうか?どんぐりの背比べだった同期の中で、より早く出世して、より多くの給料をもらえる人が出てくるのは、何か理由があるのだろうか?

あるいは、仕事はできるのに、出世しない人もいる。ITエンジニアとして優れた能力があり、しっかり結果を出しているにもかかわらず、役職も給料もぱっとしない。会社が社員の出す結果に報いなければ、他へ転職してしまうのに、なぜ給料を上げないのだろうか?

もちろん、上司に恵まれ、能力の開花を促してくれたり、引っ張り上げてくれたりする場合もある。あるいは、たまたま大きな仕事を成し遂げたり、周囲や顧客に気に入られたり、エコヒイキされたりといった「運」の要素もあるだろう。仕事の能力だけでなく、落ち着いたたたずまいや人当たりの良さ、カリスマ気質といった性格的なものもあるに違いない。

運や気質といったものは人それぞれなので、別の場で語ろう。ここでは、人事制度に着目して、上手く出世していく人は、どのように社内を渡っているのかを分析してみよう。

出世する当人は、意識していないかもしれないが、会社が社員を出世させるルールはある。このルールをハッキングすることで、「同じ仕事をしても出世しやすくなる」「結果が報いられやすくなる」行動が何か、見えてくるに違いない。

この記事では、以下の人を対象としている。

  • ・スキルアップしてるけど、給料アップにつながらない
  • ・自分のプレゼンテーションがヘタ
  • ・転職も考えたが、今いる場所で評価されたい(できるだけラクして)

ここで紹介するやり方は、実際に効果が現れるまで数年かかる(最短でも半期)。だが、そのために何か特別な資格を取るとか、新しい勉強を始めるといったことは不要だ。いまの仕事を着実に進めていけばいい。ただ「自分の仕事の評価のされ方」を変えるのだ

人事制度をハックする手がかりとして、『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』(西尾太、日本実業出版社)を参考にする。なお、この本について最初に出したまとめ記事に対して、はてなブックマークで様々なコメントをいただいた。いくつかのコメントについては、この記事で解説していくので、【完全版】と称している。

汎用的な人事制度をハックする

著者の西尾太氏は人材コンサルタント。400社、1万人以上をコンサルティングしてきた人事のプロフェッショナルというべき人で、豊富な実例とともに人事制度の設計から運用の仕方を紹介している。「汎用的で、普遍性があり、長持ちする」制度設計を目指したという。

もちろん、本書で示されていることが、そのまま今の勤務先に当てはまるとは限らない。理想的な姿を語っているところもあるし、型通りの運用しかできていない現場もあるだろう。

だが、(志のある)人事部ならば、本書に示される制度や運用を目指そうとするはずだ。だから、本書で開示される人事制度を普遍的なものとしてみなし、その脆弱性を探求することは、自分が所属する企業の人事制度の脆弱性を探すことにもつながるはずだ。

本書によると、上手くいっている企業の人事制度の構造は、ほぼ同じ形をしているという。

まず、「会社が社員に求めるもの」があり、それに対し、社員の個々人がどのような状態にあるのかを確認する、「評価とフィードバック」があり、その結果が「報酬や昇格」に反映される。「会社が社員に求めるもの」と「評価」で明らかになったギャップを埋めるものが「教育施策・育成」になる。

この「会社が社員に求めるもの」とは何か?これは様々な要素で構成されているが、機能している人事制度においては、全て開示されているはずだ。

  1. 1. 行動指針:会社の価値観(ビジョン・ミッション・バリュー)が示されている「経営理念」に共感し、会社と共に目指してもらうことを求めるために明文化したもの
  2. 2. 階層別に求められる行動:新人レベル、課長クラス、部長クラスなど、それぞれの階層で求められる行動を示した等級要件(キャリアステップ)のこと
  3. 3. 職種別に求められる知識・スキル:「営業職」「技術職」など、職種別に必要な能力的要素

そして、これらの要素を実装しているものが「目標達成」になる。会社としての経営目標や事業計画があり、最終的には売上げや利益が全社目標になる。そこへ至るために組織としての目標があり、個々人の目標がある。

こうした人事制度の中で、いち社員ができることは限られている。1.の「行動指針」はあらかじめ定められたものであり、社風のようなものとして身についていくだろう。また、3.の「知識やスキル」を継続的に伸ばしていくことは当たり前で、評価に差がつきにくい。

そのため、ここでは「階層別に求められる行動」に着眼し、どのような行動を取ることで、評価されやすいかを紹介する。次に、どう工夫すれば「目標達成」ができているかを会社に対して示せるかも併せて解説する。

「階層別に求められる行動」とは何か

「新人には新人の、マネージャーにはマネージャーの仕事がある」と言えば分かるだろうか。

例えば、アポ取りや議事録を書くこと、稟議のスケジューリングは新人の仕事だろうし、新プロジェクトへのメンバーアサイン、トラブル発生時の対応、研修・育成計画と進捗管理はマネージャーの仕事だろう。

これらは一例にすぎず、部署や事業内容によって様々なパターンが出てくるはずだ。しかし、マネジメントの役割として求められるものが会社によって大きく違わない。いわゆる「汎用性」があるはずだ。では、何ができれば「その階層に求められる仕事ができた」ことになるのだろうか?

これらを明文化したものが「等級要件」になる。会社によって呼び方が異なり、「グレード要件」「資格要件」という場合もあるようだ。企業の規模や社員層により数は異なるが、本書では、違いを分かりやすくするため、6階層モデルで解説している。

等級            等級要件
6. 全社マネジメント
(役員クラス)
・全社のビジョンを示し、中長期戦略の立案を行い、戦略に基づく方針・財務的な背景を持った目標を明示する
・担当する組織のビジョンを描き、組織の力を最大限にするための舵取り・目配り・人材発掘・アサインを行う
・上位者が決断するための選択肢を 論理的に導き、必要な施策については反対や批判に怯まず説得を行う
5. 組織マネジメント
(部長クラス)
・担当する組織の戦略を示し、目標と計画を立て、組織業績の責任を持つ
・自分の考えをメンバーに語り、関連部門を巻き込み、人材をマネジメントしながら結果を出すまで進捗管理を怠らない
・上位者が決断するための判断材料と根拠を論理的に示す
・組織の責任者として、有用な人材を発掘し、適切な業務を適切なメンバーに任せながら組織全体の能力向上を図る
4. チームマネジメント
(課長クラス)
・目標に対する進捗管理を怠らず、問題の本質を捉え、適切に対処する
・新しい価値創造に敏感で、数値的背景を持ちつつ、現状を改革するアイデアを具現化する
・傾聴とフィードバックを行い、メンバーの能力向上を図り・教え・育てる
・社外の有力なネットワークを持ち、会社の価値向上を図る
3. 成果マネジメント
(チーフクラス)
・周囲を巻き込み、前向きな雰囲気を作りながら、困難な状況に怯まず目標を達成する
・仕事のクオリティに強いこだわりを持ち、情報収集を欠かさず、新たな企画を考え、相手に効果的に説明する
2. 自己完遂
(一人前クラス)
・組織や上長の指示を待つことなく、職場の目標に応じた成果を、高い品質を伴って、具体的に出す
・目標に対する課題を明らかにし、困難な場面でも臨機応変に対応し、緊張感の強い局面でも冷静に対処することで、目標を達成する
・専門分野を築くための自己研鑽を怠らない
1. 基礎力獲得
(育成期間)
・高い顧客志向に基づき、任された業務にまじめに取り組む
・自身の立場や主張に拘らず、周囲と連携し、担当外の業務も進んで手伝う
・自分の考えを的確に相手に伝えることができ、ひたむきに取り組むことで経験値を積み、スキルや知識の向上を図る

▲表1.「6階層モデルの策定」(p.101)より一部改変

言い換えるなら、課長なら等級要件の4が、「課長としての仕事をやっている」こととして求められる行動になる。

だが、抽象的なので、本書では巻末の付録で具体化させている。例えば課長クラスだとこうなっている。表の「コンピテンシー」とは成果を上げるために欠かせない行動の「型/モデル」のことを指す。

コンピテンシー          解説
理念浸透会社の理念に共感し、理念に則った行動を行い、周囲に理念を浸透させる
変革力現状への危機意識を持ち、これまでの慣例に囚われない新たな取り組みを行う
目標設定業績を向上させ、組織効率を高める適切な目標を、達成基準を明確にした上で、設定する。組織目標を明示し、個人目標にブレイクダウンし、個々の適切な目標を設定させる
計画立案リスクを想定した現実的な計画を立案する。リスク発生別のプランも用意する
進捗管理目標達成に向け、計画の進捗管理を行う。マイルストーン時点での達成状況を確認し、実行の優先順位を明確にする。進捗に問題があるときは修正を行い、達成に向けて管理する
計数管理組織のPLやBSを把握・活用し、売上げを伸ばし経費を抑える施策を行う
人材育成メンバーそれぞれの能力向上を行う。個別の目標・課題設定を促し、評価し、よい点・改善点のフィードバックを行い、気づきを与え、成長させる
解決案の提示適切な状況判断を行い、解決のための複数の選択肢を案出する。各案のメリデメを整理し、合理的な決断を促す
傾聴力相手が「分かってくれた」と思うまで話をよく聞き、理解する。相手に理解していることを示し、信頼を得る
人的ネットワーキング社内外の人的ネットワークを構築・活用する。企画を通すための根回しや理解を得て、実現への組織的合意を形成する。多面的な人材ネットワークを持ち、協力・協業することで、新しいビジネスの可能性を高める
スペシャリティ業務に必要な専門知識や技術を有し、実際の業務において活かす。自らの専門性を常にブラッシュアップし、他の専門性との連携を行う

▲表2.「コンピテンシーモデルの基づく等級要件書:課長クラス」(p.286)より一部改変

本書では、さらに各コンピテンシーモデルが掘り下げられて解説されている。同じ「目標設定」でも、課長と部長では違っていたり、役員だけに求められるコンピテンシーモデルが記載されている(コンピテンシーモデルは、全部で45あって詳しくは書籍を読んでほしいためここでは割愛する)。

つまり、上の表の行動が取れているのであれば、課長クラスに相応しいということになる。あなたの知っている課長像とは違うかもしれないが、あくまでも参考だ。自分の会社の等級要件書をチェックしてみよう。もし、等級要件書が無い、またはアバウトなやつなら、本書の巻末の付録が参考になる。これは、いわば採点表みたいなものだから、カンペとして利用できる。

まずは、6階層モデルのうち、自分が今いるクラスを特定しよう。そして、等級要件書をチェックすれば、自分ができている行動が何で、どのコンピテンシーが足りないかは容易に分かるはずだ。足りないものを補ったり、できているコンピテンシーを強化しよう。

「卒業型」と「入学型」

ただし、注意すべきはクラス昇格の条件だ。大きく分けている「卒業型」と「入学型」の2種類あり、どちらになるかは会社によって異なっている(ひょっとすると、事業部や部門、部署によって違っていたりもする)。

まず卒業型。これは、いまの等級にて十分な評価が得られている場合、上位に上がることになる。そのグレードを十分に修めたので卒業するというニュアンスで、転職したり離任するときにも「卒業」と呼ぶのは、ここから来ているのだろう。この場合は、自分がいるグレードのコンピテンシーを十分発揮しているかをチェックしよう。

次に入学型。いまのグレードで評価されているだけでは不十分で、上位の等級が「十分できるであろう」と判定された場合にのみ上がる。所定の課程を修了するだけでは不十分で、受験をパスしないと入学できないのと一緒だ。

入学型の場合、この受験に相当するものが、アセスメントセンター方式になる。面接やレポート、筆記テスト、グループディスカッションなど、複数の評価者による客観的な指標を用いた判定だ。自分の企業・部門が入学型の場合、上位グレードのコンピテンシーを「予習」したり、面接や試験対策を行っておこう。

年功序列的な人事だと、卒業型がメインになる。面接や試験みたいなものはあるにはあるが、形式的なもので、受ければ通るという運用がなされていた。その結果、ピーターの法則と呼ばれるリスクが顕在化することが多かったという。

ピーターの法則とは、「あるポジションでは有能だが、昇格させると無能かもしれない。もしそこで能力を発揮すれば、さらに上のポジションに行けるが、そこでは無能かもしれない。これを繰り返していくと、すべてのポジションが無能な人で占められることになる」というものだ。かつてよく目にしていたが、今では少なくなった(と思いたい)。

もし、「どうしてこんな人が上位にいるのだろう?」と疑問を持っていたら、ピーターの法則が適用されたのだとして、生温かい目で見守ってあげよう。

会社に自分を評価させる

自分がいるグレードは分かった。どういう行動が求められているのかも分かった。さらに、上位に行くためにどういうコンピテンシーが必要なのかも分かった。

でも、評価されなければ意味ないじゃん?

その通り。あなたは能力があり、十分に上位をやっていけるコンピテンシーがあるとしても、認められなければ評価されない。たとえ昇格方式が入学型で、面接や試験があるとしても、「面接や試験を受ける候補たりうる」と認められなければ、そもそも受験するチャンスすらない。

仕事の結果を通じて上司に認めてもらうことはあるだろう。プロジェクトの成功に貢献した、トラブルに適切に対処した、チーム全体の効率を底上げしたなど、いい仕事をすれば、いい評価が得られるかもしれない。けれどそれは、「かもしれない」という仮定に過ぎない。

部下がいい仕事をしたらちゃんと見て、きちんと報いてくれる上司に恵まれたら問題ない。だが、そういう上司は少ない。ゼロとは言わないが、とても少ない。上司には上司の仕事がある。「部下の仕事を見る」のも上司の仕事の一つだけど、沢山いる部下を、いつも見ているわけにもいかない。なので、「いい仕事をしたら自動的にいい評価が得られる」というのは幻想だと考えよう。

ではどうすればよいか?

どんなに部下を見ていない上司であっても、会社としてあなたの成果や行動を評価するタイミングがあるはずだ。年に数回、1 on 1 という形で面談があり、掲げた目標がどれくらい実現できたかをレポートする場があるはずだ。

そのレポートは「目標管理シート」とか「MBOシート」などと呼ばれているだろう。「MBO」とは、Management by Objectives and Self Control の略で、「目標管理」と訳されることがある。P.F.ドラッカーが『現代の経営』の中で紹介した、目標と自己統制によるマネジメントだ。

他にもBSC(Balanced Score Card)とか OKR(OKRはObjectives and Key Results)などあるが、本質は一緒。人事部がどのコンサル会社に発注しているかという程度の違いに過ぎない。

なお、財務目標に対し、どれくらい貢献しているかを強調するBSCは、最近ではほとんど見かけなくなった。おそらく、直接収益を生み出さないコストセンターである人事部の仕事が、BSCだと低く見積もられてしまうため、嫌われたのだろうと推測する。

人事システムに脆弱性があるならば、この目標管理シートになる。

制度として定められている箇所(等級要件やコンピテンシーモデル)は変えようがない。だが、あなたがその等級要件やコンピテンシーモデルに対し、どこまでフィットしている/ギャップがあるかを判定するモノサシが目標管理シートだ。

どんな人事制度であれ、最終的に判定をするのは人だ。

上司の多くはバイアスまみれで正当に評価できないかもしれない。だが、その判断のインプットの一つが目標管理シートだ。だから、このシートを攻略することで、否が応でも評価せざるを得ない状態にすることは可能だ。このシートを一種のエビデンスとして上司ひいては会社に認めさせることで、人事評価を上げるのだ。

ここでは、目標管理シートを攻略して、評価される方法を考える。

「目標管理シート」のチート

目標管理シートは期首に作成し、期中ないし期末に達成状況を確認し、上司からフィードバックを受ける。どのように評価するかの証拠となる。

目標管理シートでは、最初の目標を作るところが肝心だ。かけるパワーとしては、期首の作成時点で90%、いや100%かけてもいい。というか、適切な目標が作成できたら、もう評価されたも同然といっていいくらい。

それにもかかわらず、目標設定に手を抜いていないだろうか?昨年のコピペを使うなどして、テキトーな目標設定をしていなかっただろうか?

例えば、「今年度の全社目標」→「事業部や部門の目標」→「部課の目標」とカスケードダウンされる。そして、複数ある部課の目標のうち、細分化された項目の一つが、そのまま自分の目標としてコピペする(その方が楽だからだ)とかだ。

そして期末ではそれが「できた/できなかった」で判定される。部課の成果(の一部)が、そのまま自分の評価と連動するような仕組みだ。

しかし、このやり方だと、自分の努力や工夫よりも、部課で出した結果に左右されてしまう。売上が好調だったり、プロジェクトが上手く回っていれば良いが、そうでない場合のとばっちりを喰らってしまう。

だから、リスクを分散させよう。部課の目標にも繋がるような個人の目標を立てるんだ。

目標設定のキモはSMARTだ。

  • ・Specific 具体的で、
  • ・Measurable 測定可能で、
  • ・Attainable 実現可能で、
  • ・Relevant 組織目標にリンクしており、
  • ・Time limited 期限が明確である

書き方としては、「何を、いつまでに、どのようにして」を明記する。例えば、組織目標が、「2024年12月リリース予定のプロジェクトの完遂」の中堅エンジニアなら、こうなる。

目標1: 2024年12月リリース予定のAプロジェクトの完遂

内容:
2024年12月のリリースを堅守するため、担当する機能の設計と実装を2024年10月末までに完了させる。その後、2024年11月中に全機能の単体テストを完了し、バグ修正および最終調整を行う。

測定基準:

  • ・2024年10月末までにコーディングが完了していること
  • ・2024年11月末までに単体テストが完了していること
  • ・リリース前のコードレビューで指摘される後続タスクの進行に影響を与える可能

・リリース前のコードレビューで指摘される後続タスクの進行に影響を与える可能性がある重大なバグが3件以下であること

組織目標とのリンク:
リリース遅延を回避し、組織全体のプロジェクトスケジュールに貢献する。

期限: 
2024年12月末まで

目標2: コードの品質向上

内容:
掛け持ちしているBプロジェクトにおいて、リファクタリングを2024年9月末までに実施し、コードの可読性と保守性を向上させる。特に、コードの重複を20%以上削減する。

測定基準:

  • コードレビューで「可読性が向上した」とのフィードバックを得ること
  • コードの重複が20%以上削減されていること
  • リファクタリング前と比較してバグ発生率が5%以下であること

組織目標とのリンク:
高品質なコードを維持し、チームの生産性向上に寄与する。

期限: 
2024年9月末まで

目標3: チームの技術力向上の支援

内容:
2024年11月末までに、各メンバーが自立して新技術を導入できるようになることを目指す。具体的には、毎月1回の勉強会を開催し、新技術に関する知識を共有する。

測定基準:

  • 2024年11月末までに計3回の勉強会を開催すること
  • 勉強会の参加者から60%以上の満足度評価を得ること
  • チームメンバーが新技術を使用したプロトタイプを作成し、成功例を発表すること

組織目標とのリンク:
チーム全体のスキルレベルを向上させ、プロジェクトの成功率を高める。

期限:
 2024年11月末まで

え?「面倒くさい」って?そんなときこそAIに任せよう。ちなみに上記の例は、GPT-4oさんに書いてもらった。そのプロンプトは以下の通り。

プロンプト例

「目標管理シート」や「MBOシート」の記述例を考えてください。「MBO」とは、Management by Objectives and Self Control のことです。

以下の条件で考えてください。

  • ・ITエンジニアのMBOシート
  • ・中堅レベル
  • ・複数のプロジェクトを掛け持ちしている
  • ・そのうちの一つは、2024年12月にリリース予定

MBOの例は、箇条書きで、文章にしてください。

  • ・具体的であること
  • ・測定可能な目標であること
  • ・実現可能な目標であること
  • ・組織目標にリンクしていること(2024年12月リリースを堅守)
  • ・期限が明確であること

書き方としては、「何を、いつまでに、どのようにして」を明記してください。

どんなバックグラウンドに基づいているかは、できるだけ丁寧に説明しよう。例えば、自分がどんな立場で、どのような技術(言語やフレームワークなど)を用いるか、会社で使っているツールや製品名は何か、期限つきのタスクやプロジェクトは何かといった、固有名詞や日付・数字を記載しよう。

そして、出てきた回答をもとに、期限や数値を実現可能なレベルで手直しすることで、目標管理シートは(いったんは)出来上がる。

ただし、この記事を読んでいる方には、もう一工夫を紹介する。

「目標管理シート」の改善

GPTさんのおかげで、それっぽい目標設定はできたであろう。これに2つの方向から改善する。

一つ目は、「測定可能(Measurable)」の精緻化だ。

目標管理シートは作って終わりではない。人事システムとして、振り返る時期が必ずある。会社によって異なるが、上期の評価を中期で振り返ったり、上期+下期の総合評価を期末で振り返ったりする。

その時に見られるのは、「できたか、できなかったか」の2択になる。

外部要因によりプロジェクトが頓挫したり、本人にはどうしようもない突発的な事情が発生したりといったことがあるかもしれない。そうした事情は加味されるかもしれないが、あくまで上司次第だ。上司の上司、あるいは人事部は、「できたか、できなかったか」だけしか見ない。

これを避けるため、自分でコントロールできない要素を減らそう。目標の数そのものを増やしてリスクを分散させるというやり方が浮かぶが、多すぎると大変になる。この場合は、測定基準を刻んだり、達成条件に前提を入れよう。目標1の達成基準を例に、改善してみよう。

改善前

  • ・2024年10月末までにコーディングが完了していること
    ・2024年11月末までに単体テストが完了していること
    ・リリース前のコードレビューで指摘される重大なバグが3件以下であること

改善後

外部要因によりプロジェクトが遅延していないことを前提とする。
(1)2024年10月末までにコードが完成していること
(2)2024年11月末までに単体テストが完了していること
(3)リリース前のコードレビューで指摘される重大なバグが3件以下であること

S判定:上記(1)~(3)が全て達成されている
A判定:上記の(1)および(2)が達成されている
B判定:上記の(1)が達成されている
C判定:上記のいずれも未達成

適用する条件を厳密にしたり、達成条件を細かく刻むことで、「できたか、できなかったか」でモメるリスクを減らせる。実際、偉い人になればなるほど、「結局できたの?できなかったの?結果だけ教えてね」的に迫ってくるので、保険として精緻化しておこう。

二つ目の改善ポイントは、コンピテンシーの追加だ。自分がアピールしたいコンピテンシーを、目標に混ぜ込んでおこう。

まず、自分がいる会社・部門が、「卒業型」か「入学型」かを確認する。もし「入学型」であるならば、そのクラスに求められるコンピテンシーを調べ上げ、自分がその域に達していることをアピールするのだ。

例えば、あなたが表1.における「3成果マネジメント(チーフクラス)」としよう。目指すは「4チームマネジメント(課長クラス)」だ。課長にあってチーフにないコンピテンシーの一つに、「人材育成」がある(表2. 参照)。

人材育成は、「メンバーの能力向上に向けて、目標を設定し、よい点・改善点のフィードバックを行い、成長させる」ことだ。混ぜ込みやすいのは、目標3「チーム技術力向上の支援」だろう。

改善前

2024年11月末までに、各メンバーが自立して新技術を導入できるようになることを目指す。具体的には、毎月1回の勉強会を開催し、新技術に関する知識を共有する。

改善後

チームメンバーへの技術指導を行うことで、メンバーの育成を図る。2024年11月末までに、各メンバーが自立して新技術を導入できるようになることを目指す。具体的には、毎月1回の勉強会を開催し、トレーニングを通じて新技術に関する知識とスキルの成長を促す

上記の例のように、技術指導、育成、トレーニング、成長といったキーワードを散りばめればよい。

「そんな細かいところ、うちの上司は見やしないよ」というツッコミが出てくるかもしれない。ごもっともだ。

本来であれば、上司が一緒になって1on1をくり返し、頭を悩ませながら目標設定シートを見直し、部下の成長とともに、部下の評価を高める努力をすべきだろう。だが、そういう上司は少ない。ゼロとは言わないが、とても少ない。

それにもかかわらず、目標管理シートに力をかけるべきだ。なぜなら、そのうち人事部でAIが導入されるだろうから。

例えば、1人の人間が1000人を公平に評価することは難しいが、AIなら可能だ。全方位的に見ることは困難だとしても、ある基準に則ってスキミングしたりフィルタリングするのはお手のものだろう。

目標管理シートを食わせて、「結局この社員は、目標を達成できたのか、できなかったのか」と問わせる未来は来るだろう(というか、もう始めている企業もある)。今年書いたシートが期末に判定されるだけでなく、今まで書いてきたシートをAIに全部食わせて、「結局この社員は、どのクラスなのか」を判別し、その中から適切なものを人手で選別するのが普通になるだろう(←ここが未来の脆弱性ポイント)。

そうなると、人事のメガネにかなう以前に、AIに選んでもらう必要がある。AIに選ばれやすいワードを散りばめる必要がある。あれだ、Googleなどの検索エンジンに引っ掛かりやすくするSEO(Search Engine Optimization)対策のAI版だ。

SEOでは、サイトにキーワードを散りばめたり、上位の外部リンクを貼るといった対策が一般的だが、AIに選ばれやすくするためには、AIの判定基準―――すなわち、表1の等級要件や表2のコンピテンシーモデル―――のキーワードを混ぜ込んでやればいい。

キーワードを生々しく入れてもいいけれど、私なら類義語をAIに問うね。「人材育成」と同じような意味を持つ言葉や文章を教えて、という風に。先に例示した「技術指導」「育成」「トレーニング」「成長」といったワードはGPTに教わった。

近い将来、人事評価システムのエンジンにGPTが導入されるかもしれない。その場合、GPTは未来に自らが評価する基準となるキーワードを、現時点であなたに教えてくれるわけだ。

等級を上げることに注力する

「等級要件」と「コンピテンシーモデル」が手に入った。「目標管理シート」をチートして攻略する方法も分かった。面倒くさいことをAIに任せるアイデアも把握できた。あとはシートを書くだけだ。

ここで「マネージャーになりたいわけじゃなく、給料を上げてほしいんだ」というツッコミが出てくるかもしれない。ですよねー!!!マネージャーになったところで責任ばっっっかり負わされ、給料は大したことがないどころか、残業代を考えると手取りダウンすることだってある。

そんなあなたに、「等級」を上げることに注力することをお薦めする。

会社内で、人を格付けする仕組みがある。会社によって差異があるが、「等級」と「職位」と、大きく2つに分かれている。両者の特徴は次の通り。

等級(人事上の格付け):その人の「投資価値」を示す。現在の影響力を表し、社内における期待の大きさ、成果創出の期待値を示す。一般に「基本給」の根拠になる。

職位(組織上の格付け):その人に課せられる組織上の責任と権限を示す。そのときの組織における位置づけや役割を表し、組織編成により任免が行われる。

例えば、等級だと「1等級」とか「2等級」と呼ばれることがある。レベルみたいなもので、条件を満たせば昇格したり、必要なものを失えば降格させられたりする。一方で職位だと「課長」や「部長」が思い浮かぶ。これは「課」や「部」といった組織に応じて作られるポジションで、任命したり解任させられたりする。

等級と職位、概念としては明確に区別されているのだが、表3.の「等級と職位(まとめ)」に見える通り、ゆるやかに連動している。

▲表3.「等級と職位(まとめ)」(p.122)より一部改変

表をよく見て欲しい。「等級が上がること」と「課長になること」とは別物だ。もちろん課長になるための最低限となる等級は決まっているだろう。だが、その等級になれば課長になれるとは限らない。

そして、この2つのうち、「等級」を上げることに注力するんだ。自社の人事制度をチェックして、等級を上げる条件を満たすように注力するのだ。先に述べた、目標管理シートのチート技が役に立つだろう。

ダメな人事制度の場合、両者が入り混じることになる。「課長」と言っても、等級のことなのか職位のことなのか、曖昧なケースが多々あるというのだ。もし、課のない課長、部のない部長がいるとしたら、その人事制度は問題ありだろう。自分の会社がどのような仕組みになっているのか、確認してみよう。

もし「等級が上がること」と「課長になること」が厳密に同一であるならば、あなたの会社の人事制度は職務主義(ジョブ型)ということになる。等級と職位を完全に同期させているため、明解で合理的である一方、組織変更での抵抗が強く現れるかもしれない。

例えば、ある年度で組織が再編され、「営業課」と「販売課」が「営業販売課」になったとしよう。すると課長が一人余ることになる。このとき、課長を解任された人は、等級が下がり、結果、基本給が下がる。

組織の変更は会社の都合であるにも関わらず、「たまたま」課長のポストを外れた方の給料が下がる。基本給の急激な上下は、社員にとって受け入れがたいものだろう。

すると会社としてはどう対応するか?本人の意思や能力と関係の無いところで給料が下がるのは「しのびない」として、給料の据え置きという措置をとることになる。あるいは、課の無い課長が誕生することになる。人事制度の形骸化の始まりだ。

「等級」の本質は、会社が自分に投資する資産価値のレベルだ。自社の制度がジョブ型でないのなら、自分の価値を上げることに尽力するのが最善手だろう。

人事評価とニーバーの祈り

GPTに目標管理シートを任せることで、より高い評価が得られやすくなる。「考える」という自分のリソースも、より有効に活用できるだろう。

ぜひ実践してほしいのだが、「こういうのをちゃんとやっても、昇給やボーナスの原資が無いんだよね」という人がいる。

確かに、自分がいくら努力して結果を出しても、会社側が業績不振であるならば、給与アップに結びつかないだろう。ない袖は振れぬのは世の常だ。

だからといって、ちゃんとやらなくてもいいという話にはならない。会社に原資があるかどうかなんて、その時になってみないと分からない。きちんと評価を積み上げておかないと、会社に原資ができたとき、その報酬にあずかれるチャンスを失うことになってしまうから。

目標管理シートを改善することと、会社に原資があることは、別物だ。目標管理シートをきちんと書くことは自分の努力で何とかなることだ。一方、会社に原資があるかどうかは、自分ではどうしようもないことだ。

自分ではどうしようもない要因があったとしても、今できる努力は続けよう(GPTに書いてもらうなんて、そんなに大変なことじゃないし)。

他にも、様々なツッコミが出てくるかもしれぬ。「どうせ、他の社員も頑張ったからと言われて評価されない」とか「そもそもウチ会社の人事制度がダメだから、まともに評価されない」というやつ。だから、ちゃんとやっても無駄だというツッコミだ。それは事実かもしれないが、自分ではどうしようもないことだ。一方で、目標管理シートを改善することは、自分で変えられることだ。

「ちゃんとやっても無駄」という人には、ニーバーの祈りを捧げる。

神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、
そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。

Wikipedia:「ニーバーの祈り」より(一部)

「やっても無駄」という人は、変えられないものと変えるべきものを区別できない人だと言える。そんな人に耳を貸す必要はない。自分のやれる努力を続けよう。

「転職する方が早い」という人に

「ちんたら目標管理シートを書くよりも、転職する方が早い」という人がいる。

これについては、その通りと言うほかない。

たとえ目標管理シートを改善しても、それが実際の評価となるのは、早くて半期、普通は一年後になる。さらに、100%評価されるかどうかは不確実だ。

だが、自分のスキルや経験を最も高く評価してくれる会社に転職することで、キャリアの成長や給与アップに繋がると言える。いまいる会社よりも、自分のスキルセットを高く評価してくれる会社は少なくないだろう。

さらに、人事評価制度そのものから見ても、転職市場の方が客観的であると言える。

企業内の人事評価制度は、その会社独自の基準や文化に基づいて「会社が社員に求めるもの」が決まっており、それが反映されたものだ。その結果、特定のスキルやパフォーマンスが過小評価されたり、逆に過大評価されることがある。

一方で、転職市場での評価は、複数の企業や業界全体の需要やトレンドに基づいており、競争にさらされた結果、客観性が保たれているといえる。企業内での社内政治や内部事情に汚染されていない尺度でもって、あなたのスキルや経験を測定してくれる。

あなたのスキルが会社で評価されないとしても、転職市場で高評価を得るのは、こうした背景があるからだといえる。

だから、転職する方が、より客観的に評価され、より早く給与を上げることができる。

では、転職した先の会社には、人事評価制度は存在しないのだろうか?そんなことは無いだろう。どんな企業であれ、それぞれの「会社が社員に求めるもの」が存在し、それをシステムとして具現化した評価制度があるはずだ。

だから、行った先での評価制度を研究して、そこで高い評価を得るための工夫をしたほうが、より良いと考える。もし転職先で目標管理シートが使われているのなら、ここで紹介した手法が役立つだろう。

「客観的な評価ができるのは転職市場だけだから、転職市場だけで評価してもらう。自社の人事制度は無視する」という考え方は、非常にもったいない。自分を評価してもらうチャンスを増やすためにも、目標管理シートを活用しよう。

おわりに

『この1冊ですべてわかる 人事制度の基本』をベースとし、汎用的な人事制度を分析することで、「自分の評価のされ方」を変える方法を紹介した。

まず、会社から求められる行動や態度を、各クラスごとに「等級要件」として洗い出し、それを実現するためのモデルを「コンピテンシーモデル」として紹介した。

次に、これらを元に、会社がどのように評価しているかを分析し、汎用的な人事制度であるならば実施している「目標管理」に焦点を当て、作文のチートの仕方、さらには評価されやすい内容への推敲のやり方を説明した。

もちろん、ここで紹介するやり方が全ての会社で通用するとは思わない。

けれども、上司に恵まれなかったり、外部要因で結果が出なかったり、アピールの仕方がまずかったりといったことが原因で、あなたが正当に評価されないというリスクは、かなり避けられるはずだ。

今回は、人事評価制度のハッキングだが、次回は、上司や同僚が持つバイアスに着目して攻略するやり方を紹介する。お楽しみに。

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