「ロールモデルがいない」と不安にならなくていい。スキルの掛け合わせで自分らしい道を切り拓く

2024年9月12日

ソフトウェアエンジニア/ライター・編集者

中薗昴

ソフトウェアエンジニアとライター・編集者を兼業するパラレルワーカー。現職のソフトウェアエンジニアとして培った知見を活かし、IT企業やエンジニアリングの魅力を引き出すコンテンツ制作・技術ブランディング支援を受託で行っている。

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みなさん、こんにちは。私は中薗昴(なかぞの・すばる)といいます。ソフトウェアエンジニアとライター・編集者を兼業する、いわゆるパラレルワーカー的な生き方をしています。ソフトウェアエンジニアとしてはWebアプリケーションのバックエンド開発、ライター・編集者としてはIT系のインタビュー・イベントレポート記事の受託制作を専門にしています。

ありがたいことに、周囲の方々から「IT系の記事なら中薗さんがトッププレイヤー」と言われることも増え、今回こうして機会をいただき「レバテックLAB」に寄稿することになりました。前編・後編の2回に分けて、私のキャリアを紹介します。

私は最初からこのワークスタイルを目指したわけではありません。いくつもの偶然や決断が重なった結果、このキャリアにたどり着きました。いまの働き方を続けるべきか悩んでいる方々に、私の生き方が参考になれば幸いです。後編では、仕事との向き合い方について自分なりの考えを書きます

「エンジニアリングかマネジメントか」の二元論で考えなくていい

前編では、自分のパラレルワーカーとしてのキャリアを消去法的に選び取ったことを説明しました。ですが、私の場合は行き当たりばったりというかあまりに無計画でしたので、読者の方々にはもっと戦略的に自分自身のキャリアを考えてほしいと思います。

ある領域だけに特化して、その道のスペシャリストになれる人はそれでもよいでしょう。そうでない人は「何かのスキルと何かのスキルを掛け合わせる」という選択肢を視野に入れてはいかがでしょうか。たとえば、「エンジニアリング×プロジェクトマネジメント」「エンジニアリング×事業ドメインの理解」「エンジニアリング×UI・UX」など、パターンはいくらでもあります。

世の中では「エンジニアリング1本でやっていくか、マネジメントの道に進むか」のように、キャリアが二元論で語られがちです。でも、たとえばいまの仕事の周辺の職種に手を伸ばすとか、私のようにソフトウェアエンジニアのどんなところが好きなのかを言語化・抽象化し、その要素を持つ別の仕事を探すなどの方法を視野に入れてもいいかもしれません。

もしかしたら、自分の目指すキャリアのロールモデルになる人は世の中にいないかもしれませんが、そうだとしてもそのキャリアは絶対に実現できないわけではないのです。「自分自身がロールモデルになるんだ」くらいの前向きな気持ちでやってみてはどうでしょうか。私はいま「ソフトウェアエンジニア兼ライター・編集者のロールモデルになりたい」と考えながら働いています。

そして多くの場合、自分の強みというのは自分よりも周りの人たちのほうが知っているものです。だからこそ、自分のキャリアについて考える場合は、上司との1on1ミーティングの会話であるとか、周囲の人たちからの評価などを真摯に聞いてほしいです。主観だけでキャリアを決めないほうがいいですね。

私もかつては、エンジニアリングのことを理解しつつ文章を書くことが強みになるなんて、全く思っていませんでした。自分にとっては当たり前のことだったので、そこに価値を感じていなかったのです。けれど、周囲の人たちから「すごいね」と言ってもらえて、ようやくその価値に気づけました。

目の前しか見えないと働くのは苦しい。でも、仕事が生み出す価値がわかると力が湧いてくる

編集プロダクションを辞めてからすぐに、ライター・編集者の仕事に前向きに取り組めるようになったわけではありませんでした。心が一度ダメージを受けると、それが回復するまでには時間がかかるものです。退職後の約1年間は「しんどい、やめたい……」と苦しみながら、コンテンツ制作の仕事を続けていました。

コンテンツ制作とポジティブに向き合えるようになったきっかけは、自分の記事を読んでくれた方々やクライアント企業の方々からの温かい言葉でした。「この記事を読んで、○○の仕事が楽しくなりました」とか「○○の会社に入社するとき、社員インタビューの記事を参考にしました」といった言葉を、いろいろな方からもらえるようになったのです。

自分が苦しかったのは、「原稿」とだけ向き合っていたからだと思います。目の前にある仕事が世の中に影響を与えていることや、自分のやった仕事が誰かの役に立っていることを、いつの間にか考えられなくなっていました。

人は、自分のためだけにはがんばれません。自分のための努力には限界があります。でも、他の誰かのためであれば、ものすごい力を発揮できるようになります。「世の中のために原稿を書こう」と気持ちを切り替えることで、仕事にポジティブに向き合えるようになりました

もちろん、いまでも仕事をしていて苦しいときはありますし、原稿をクライアント企業や取材対象者に提出するときは「この原稿は、果たして良いものになっているだろうか」と恐ろしく感じることもあります。この苦しさや恐怖心とは、これからも一生戦い続けるでしょう。しかし、それこそが「自分の職業と向き合い続ける」ということなのだと思います。

読者のみなさんのなかにも、仕事へのモチベーションが下がっているとか、あるいは何かの仕事と向き合うことがつらくなっている方もいるかもしれません。そういった場合、往々にして「目の前にある作業」だけを近視眼的に見てしまい、その先にある未来が見えなくなっています。その仕事が世の中にどのようなポジティブな影響をもたらすのかを、ぜひ考えてみてください

ライター・編集者を経験したことで、エンジニアの仕事の楽しさに気づいた

前編の記事で「かつてはソフトウェアエンジニアの仕事のモチベーションを失っていた」と書きました。しかし、ライター・編集者の経験をしたことで、ソフトウェアエンジニアの仕事がものすごく楽しくなったのです。なぜなら、ライター・編集者としてテクノロジーについて調べて企画を立てたり、多くの著名人にインタビューしたり、文章を書いたりするなかで、エンジニアリングの世界の素晴らしさを知ることができたからです。

Rubyについて詳しくなると、ソフトウェアエンジニアの仕事でRubyのコードを書いていて「この機能はコミッターの○○さんが関わっているんだ」とわかるので楽しくなります。AWSについて理解を深めると、技術選定をしているときに「先日に学んだ○○というサービスがフィットするかもしれない」と思い付きます。こうした「これ知っている!」と感じる瞬間が増えると、仕事は面白くなります。

人間は「知らないこと」に対しては興味を持ちにくいものです。ソフトウェアエンジニアの仕事へのモチベーションを失っていた頃の私は、新しい知識を得ようとする努力を怠っていたのだと思います。世の中には、偉大なエンジニアや素晴らしいツール、優れた設計・実装手法などが数多く存在します。それらを知るための努力が、エンジニアとしてのモチベーション向上につながるのです。

私の働き方は「ライター・編集者の仕事で新しい知識が身に付く→その知識でソフトウェアエンジニアの仕事がもっと楽しくなる→ソフトウェアエンジニアとしての経験をライター・編集者の仕事に活かせる」という好循環を生み出しました。

技術的な情報のキャッチアップ方法としておすすめなのは、単に技術の概要や使い方を学ぶだけでなく、その裏側にある「人やコミュニティ」についても学ぶことです。かつてモチベーションが低かった頃の私は、特定の技術の表面的な部分しか理解しておらず、その技術をどのような人々が支えているのか、コミュニティでどのような活動が行われているのかさえ知ろうとしていませんでした。

しかし、技術の裏側には必ず人やコミュニティがあり、その活動の結果としてあらゆる技術が成立しています。ライターの仕事を通してこの営みを肌で理解してから、エンジニアリングがとても楽しくなりました。

勝つことではなく、負け戦でも前を向き続けること

ここまで書いてきたように、ソフトウェアエンジニア兼ライター・編集者というキャリアは、決して戦略的につかみ取ったものではありません。どちらかと言えば、消去法的にキャリアを選択し、その選択を失敗にしないためになんとか泥臭くやってきたというほうが実態に近いです。

途中で仕事が嫌になった時期もあるわけで、業界内の他の優秀な方々と比べたら、私のキャリアなんて誇れるようなものではありません。才能なんてない、凡人でした。

けれど、人生を送ってきて改めて思うのは「キャリアを歩むうえで大事なのは、勝つことではなく、負け戦でも前を向き続けること」だということです。仕事を続ける過程では、楽しい時期だけではなく必ず苦しい時期が訪れます。それは、私がそうだったように仕事がつらくて仕方がなくて退職することかもしれません。会社の業績が急激に悪化して事業の危機に陥るとか、人間関係のトラブルに巻き込まれることもあり得ます。

ある意味では、そうした出来事は人生における「負け戦」です。自分に自信が持てず、考えが卑屈になったりすべてが嫌になったりするかもしれません。でも、そんな負け戦のときこそ、前を向いて仕事と向き合い続けることが大事です。どのような人であっても、人生のさまざまな局面で毎回勝ち続けられるわけではありません。だからこそ、負け戦とどう向き合うかに、その人の本質が表れるのだと思います

コンテンツを通じて、日本のITコミュニティを支えたい

そうして、いろいろなことがあった私のキャリアですが、現在はソフトウェアエンジニアの仕事もライター・編集者の仕事も、どちらも前向きな気持ちで取り組めています。十分なお金もいただけるようになりました。ありがたいことに、ITコミュニティのなかで「IT系の記事なら中薗さん」と名前を挙げていただくことも多くなりました。

客観的に見れば、ある程度は「成功した」と言っていいキャリアかもしれません。でも、このキャリアを歩めたのは、日本のITコミュニティのおかげだと思っています。私の記事を読んで「いいね!」と思ってくださった方々や、私に仕事を依頼してくださった方々、そして私と一緒に切磋琢磨して働いてくださった方々がいたからこそ、私は良いキャリアを歩むことができています。

私は「特定の料理がすごく有名な、個人経営のおいしいレストラン」のようなキャリアを送りたいと思っています。個人経営の名店が常連から「この店はオムライスが絶品だよね」とか「この店はしゃぶしゃぶが日本一うまいよ」と足しげく通ってもらえるかのように、「ソフトウェアエンジニア×ライター・編集者といえば中薗さんだよ」と言ってもらえるような存在になりたいです。

名店が名店であり続けるには、日々の改善を続けなければなりません。精進するのみです。ものづくりが好きで今後も手を動かし続けたいので、業務委託の方々に仕事を手伝ってもらうことはあっても、自分が現場から離れることはないでしょう。自分の手の届く範囲で、目いっぱいおいしい料理をつくっていきたいです。

そして、今後は日本のITコミュニティに恩返しをしたいです。コンテンツの力でコミュニティを盛り上げたいですし、日本のエンジニアリングが世界で戦うための、一助になれたらいい。志を同じくするみなさん、がんばりましょう。

もしこの記事を読んで「私も文章を書く仕事がしたい」と思われた方がいるならば、遠慮なく中薗に声を掛けてください。私もいつか、誰かにとっての「すご腕編集者」になれたらと思っています。かつての私が、彼と出会って人生を変えてもらったように。

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