【スゴ本】エンジニアの採用をハッキングする3冊。人事の棚には宝が眠っている

2024年8月7日

Dain

古今東西のスゴ本(すごい本)を探しまくり、読みまくる書評ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人。自分のアンテナだけを頼りにした閉鎖的な読書から、本を介して人とつながるスタイルへの変化と発見を、ブログに書き続けて10年以上。書評家の傍ら、エンジニア・PMとしても活動している。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

ITエンジニアの評価は、大きく2つのタイミングで決まる。これを前編、後編に分けて紹介する。

前編では、採用するタイミングでの評価だ。新卒であれ転職であれ、応募して面接を受ける段階でどこが見られ、何を基準に評価されるかを見ていく。ただし、巷に数多にある就活本、就活のハウツー記事をアテにしないやり方だ。そうではなく、採用する側の立場から、面接担当者や人事部の人の弱点を見ていく。いわば採用のハッキングだ。

はじめに

ITエンジニアの評価は、いつ、どのように決まるのか?

そんなの技術力に決まってる!ソフトウェア開発にとって必須であるプログラミング言語を始め、カーネルやネットワークやデータベースの知識、クラウド構築やAIを利用するスキルは外せない。だから、技術力があるエンジニアは高く評価される―――はずだ。

もちろんその通りだし、そうあるべきなのだが、そうじゃない例ばかり見てきた。その分野を代表するくらいのスーパーエンジニアなら高給で優遇されるが、ごく少数だった。Pythonが書ける、PostgreSQLが使える、AWSで構築経験ありといったスキルセットは、それだけで評価されるというよりも、むしろアサインするプロジェクトへの判断要素として扱われる。

普通に技術力があり、普通に頑張っているエンジニアの場合、いつ、どのように評価されるのか?

例えば、炎上プロジェクトを鎮火したときだろうか?だが、独力で消し止められるような優秀なエンジニアなら最初から優遇されているだろうし、そもそもそんなタイミングでないと評価されないのはおかしい(むしろ、そもそもプロジェクトを炎上させないエンジニアの方を評価すべきだろう)。

あるいは、品質と納期を守り、大きなプロジェクトを完遂したときだろうか?そつなく役割を全うしたという時点で有能だと思うのだが、残念ながら「やるべきことをやった」というレベルでしか評価されない。そして目標達成の手柄は営業のものになる。

優秀な上司であるならば、あなたの仕事を普段から見ているだろうし、まともな人事システムなら、その成果がフィードバックされるはずだ。だが、そんな上司や人事は、鉦や太鼓で探しても見つからないってマクドの女子高生が言ってた。

ここでは、優秀な上司に恵まれない、けれども普通に仕事をこなしているITエンジニアが、いつ、どのように評価されているかを、前編・後編に渡って解説する。

前編は、採用するタイミングでの評価だ。新卒であれ転職であれ、応募して面接を受ける段階でどこが見られ、何を基準に評価されるかを見ていく。ただし、巷に数多ある就活本とはちょっと違うやり方だ。応募側ではなく、採用する側の立場から、面接担当者や人事部の人の弱点を見ていく。いわば採用のハッキングだ。

後編は、採用後の人事評価のタイミングだ(年に数回あるやつ)。面白いことに、「自分の人事評価を上げる方法」について書かれた本は所見の限り無い。「出世する方法」と銘打っている本やサイトはあるが、コミュニケーションを図れとか、仕事を効率化して上長に提言しろとか、通り一遍のことしか書いてない。だから後編では、人事制度をハッキングして、評価を上げる方法を紹介する。

書籍リスト
  1. 1. 『いい人財が集まる会社の採用の思考法』酒井利昌 著、坂本光司 監修
  2. 2. 『採用がうまくいく会社がやっていること』福留文治 児玉里美 著
  3. 3. 『採用側の本音を知れば就職面接は9割成功する』 渡部幸 著

採用で誰が評価するのか

ITエンジニアが中途採用の面接を受けるとき、相手は2人いる。

ひとりは、仕切り屋だ。あいさつの口火を切って、自己紹介と面接の目的を説明し、司会進行役となる。もう一人は質問屋だ。コーディングテストの感触を聞いた後、その結果から見た適性と、どんな風に働きたいか、エンジニアとしてどんな成長を望んでいるかを引き出す。

一人目は、人事担当であり、二人目は、現場の開発チームリーダーやエンジニアリングマネージャーだ。たとえ面接の場に3人以上いたとしても、役割はこの2種類になる。あるいは、両方の役割を1人でこなす場合もある。

「ITエンジニア」として応募しているのだから、技術的な話をするエンジニアリングマネージャに親近感が湧くかもしれない。だが、人事の判断が採用に大きく関わっている場合、エンジニアリングマネージャーとは別の視点でジャッジされることになる。

技術的なことは受け答えできるけれど、その「答え」が人事の視点をクリアするにはどうしたらいいか?

これは、採用側の事情を知ることで、探ることができる。

採用側の事情を知る『採用の思考法』

評価される最初のタイミングは、採用の時点だ。

就職を控えている大学生や、転職を考えているエンジニアは、希望のポジションを目指すべく、こうした評価基準が知りたいに違いない。そして、エントリーシートや面接対策の準備を進めるだろう。

就活シーズンに書店に行くと、就活専用棚ができあがり、そうした対策の書籍が数多く平積みされている。

そこで物色している人を見るたびに思う、「就活棚じゃなく、右斜め後ろの棚を探せばいいのに」とね。なぜなら、就活コーナーの近くにある「人事・労務」の棚に並んでいる本の方が、役に立つから。

そこでは、採用が上手くいかない人事担当の苦労話や、せっかく登用しても長くは続かず、止めていってしまうミスマッチが語られている。そうした状況で、どうすれば望んだ人材が集まってくるのか、あるいは集まった人たちから、自社に最も合った人をどうやって選べばよいのかが解説されている。

中でも、『採用の思考法』は、いい人材を集めて見抜いて離さないノウハウが語られている。中小企業向けの採用コンサルタントが、自らの経験を元に赤裸々に語っている。

▲『増補改訂版 いい人財が集まる会社の採用の思考法』酒井利昌 著、坂本光司 監修、フォレスト出版

本書では、ヒューマンリソースのことを「人財」と表現しているが、この記事では「人材」で統一している。人を貴重な財産とみなし、潜在的な価値や人間性にも焦点を当てたニュアンスを込めて「人財」と呼びたがる経営層がいることは知っている。だが現実は、「財産」と持ち上げておきながら、単なる労働力として扱われるのがオチだ。企業のイメージ戦略としての欺瞞を感じるので、「人材」にした。この「人財」という表現からも分かるように、本書は、「採用する側」=経営層や人事部をターゲットに書かれている。

これを「採用される側」から読み解くならば、ここで語られる「いい人材」であることをアピールすればいい。もちろん就活コーナーに並んでいる本にも、似たようなことが書かれている。だが、「なぜそれがいい人材なのか」とか、「そもそもその『いい人材』とは何か」まで書いてあるのは、『採用の思考法』になる。

本書によると、「いい人材」の「いい」とは、採用基準に合致すること。そして、この採用基準は、絶対に妥協せず、一緒に働きたい人の特性や条件を徹底的に言語化しろとアドバイスする(ここを妥協すると、最悪の展開である「間違った人を採用してしまう」ことになるらしい)。

採用基準の言語化は、人事担当や経営層の仕事になる。「結局のところ、どういう人間がこの会社に必要なのか?」という問いに答えられる人は、経営層だからだ。

そして、いったん言語化した採用基準は簡単には下げるなと釘を刺しつつ、「完璧な人材なんていないから、採用基準となるスキルは絞り込め」と説く。

では、何を取捨選択すればよいのか?

まず、後から伸ばしやすいか、伸ばしにくいかで判断せよという。採用後のトレーニングで、比較的短期間に伸ばせるスキルと、時間をかけて育成するスキルがある。そして、いつまでにどの程度活躍する人材を採用するのかといった時間軸を持って基準となるスキルを選べという。

以下に、比較的簡単に伸ばせる能力と、伸ばすのに時間がかかる能力、さらには伸ばすのがとても難しい能力の例を挙げる。

比較的簡単に伸ばせる能力時間を要するが伸ばせる能力伸ばすのがとても難しい能力
口頭/文章でコミュニケーションをする自律的である困難や挫折に対して粘り強く立ち向かう
ミーティングを進行するあらゆる行動に高い基準を持つ自信に満ちた態度や行動をする
顧客志向で考えるストレスを管理し、バランスのとれた生活をする活動的でエネルギッシュである
第一印象をよくするチームをまとめ、変革を推進するリーダーの右腕となる
自己認識する機転を利かせる誠実で正直な態度や行動をする
コーチング/トレーニングする傾聴する新しいアイデアや概念を生み出す
社内外の調整をする交渉/説得し、対立を建設的に解消する情熱的で野心がある
業績管理をする戦略的能力がある複雑な情報や問題を分析する
計画を立て、目標設定する多様性を尊重し、順応性がある概念を構造化する
リスクを取る判断力がある答えのない問いの答えを探し続ける

▲『採用の思考法』「第3章 いい採用を実現させるために案外やっていないこと」より引用

ちょっと面白いのは、「コミュニケーション能力」の位置づけだ。

このスキルは、面接対策でも重要なポイントとされている。実際、経団連の新卒採用のアンケート調査で、「採用にあたって特に重視したスキル」で、16年連続で1位なのが、コミュニケーション能力だ。

しかし、著者によると、入社時に必要となる能力ではないという。確かに、受け答えがしっかりしており、自分の言葉で話ができる人の評価は高くなるだろうが、「コミュ力がある」というだけで選ぶのは危うい。ソツなく喋って書けるけれど、単なるその場限りの口だけで、粘り強く問題に取り組むのは不得手かもしれない(ITエンジニアにとっては致命的だ)。

これが、コンサルティング・ファームだと逆で、その場の即興で言い逃れたり、言いつくろったりする能力が求められる。「言い逃れる」とかいうのはあまり良い言い方ではないが、コンサルタントには必須かつ超重要なスキルだ。「とっさの一言」が瞬発的に出てくる人が求められる。

もちろんあるに越したことはないが、コミュニケーション能力は後から伸ばすことができる。だから、コミュ力だけを重視するなと説く。

では、「伸ばすのがとても難しい能力」をどうやって見極めるか?第5章に大量に紹介されているが、ここでは「困難や挫折に粘り強く立ち向かう能力」に絞って説明する。

面接に応募する人たちは、質問されることを予想して準備してくる。まずは答えやすい質問から入り、それを受けた回答から掘り下げていけという。

例えば、過去のエピソード(全国大会に出たとか、大きなプロジェクトに携わったとか)を色々と聞いてみる。そして、そのときの行動について、こう掘り下げよという。

「その結果を得るために、どんな行動をしたのですか?」
「そのとき、そんな行動をしたのは、なぜですか?」

この質問のキモは、「過去の結果」を問うていない点にある。県大会出場よりも全国大会出場の方が結果としては優れている。しかし、その結果までのプロセスがどうだったかを掘り下げていく必要がある。

なぜプロセスが重要か?

それは、「再現性が求められるから」になる。成果を出し続けるためには、自ら考え、行動する必要がある。壁にぶつかったら粘り強く行動し、諦めずに結果を出すことが求められる。その再現性があるかどうかの見極めが、「なぜその行動を採ったのか」の返答に隠されている。

面接者はその行動の中に、「あきらめず粘り強く取り組む」「周りを巻き込んで問題解決する」「様々な角度から解決の糸口を探す」といった姿勢を、具体的に見ようとする。

もちろん、志望者が入社後に全国大会をもう一度目指すことはない。けれども、全国大会と同じくらい困難なことは、仕事の上でぶつかるはずだ。そのとき、同じように粘り強く立ち向かえるかどうかが再現性のキモなのだ。

この再現性について、『ブルーロック』に同じことが描かれている。ワールドカップ優勝を目指す、史上最もイカれたサッカー漫画だ。

サッカーにおいて秘めた才能を持つ若者たちがブルーロック(青い牢獄)に集められ、苛烈な試練が繰り広げられる。そこで、とてつもない能力を開花させ、奇跡のようなスーパープレイをする人が出てくるのだが、あまり評価されない。

奇跡のようなスーパープレイは、「たまたま」「偶然」が重なってできたものだ。そんなものは求めていない。

では、ブルーロックで何が求められているのか?

ブルーロック第4感第24話の絵心は「成功の”再現性”だ」と語った。成功を再現するには成功(ゴール)を生み出す方程式であり、自分が最も輝ける己だけの方程式を体現しろという。

同じように、ITエンジニアにとっての「粘り強さ」「あきらめの悪さ」「周りを巻き込む力」をこの会社で再現してやろうじゃないか、と語ればいい。

具体的には、「困難をどう工夫して乗り越えたか」を伝えた後で、「だからこそ御社では、この粘り強さと巻き込み力を再現することで、目標達成に尽力していきます」云々とまとめる(再現性という言葉は、面接者が最も聞きたいワードなので、最後に入れよう)。

採用コストは50万円/人『採用がうまくいく会社がやっていること』

採用ハッキングの2冊目としては、『採用がうまくいく会社がやっていること』を推したい。

▲『採用がうまくいく会社がやっていること』福留文治 児玉里美 著、かんき出版

求める人材とのアンマッチ、早期離職、そもそも集まらない―――採用がうまくいかない企業が何に悩み、どう取り組んでいるかを生々しく開陳し、「どうすればうまくいくか」を具体的に解説している。第3章「採ってはいけない人を見極める」は採用担当必読だろう。

これを読むと、採用活動とは、企業の屋台骨に長期的に影響するぐらい重要なプロジェクトであることが分かる。にもかかわらず、いい加減にやっている企業がけっこう多いことも語られている。言い換えるなら、本書で紹介されているような採用活動を行っている企業なら、それだけきちんと人事や育成に向き合っていることが判別できる。

本書は中小企業(社員数100人ぐらい)を想定しているが、1人を中途採用するのにかかる諸々のコストはおよそ50万円になるという。人材サービスにかかるお金だけでなく、面接するにあたって社員や役員の人件費だってバカにならない。そういった諸々込みで一人あたり50万円だ(大きな企業だともっとかかる)。

もちろん、人ひとり雇うとなる場合、社会保険料や給与からすると50万円は額としては小さいかもしれぬ。

だが、人に対する投資としては失敗になる。さらには、その投資をすると判断した責任問題にまで発展する。新卒で入った社員が集団で辞めてしまった例などは、(マネジメント層も含めた会社全体の問題であるにもかかわらず)まず、採用に携わった担当の責にさせられる。採用担当からすると「すぐに辞められる」ことは恐怖以外の何物でもないのだ

だから、自分のスキルを人質にして、「ここがダメでも他社でやっていける」というセリフは、思うのは勝手だが面接では匂わせすらダメだ。採用担当が「この人、他に行くかも」と少しでも思ったら、採用の芽は無いと思ったほうがいい。(本心は別にして)「御社でずっとやっていきます」と言い切って、キャリアプランの一つでも語るのが吉。

採用する側からすると、「自社を選んでもらう」メリットを考える必要がある。そして、そんなものがあるのか?と自問することになる。

同業他社の中から自社が秀でており、応募者が魅力を感じるようなもの―――その作り出し方は第1章「採用の強みの成功法則」にある。これを応募者目線で考えると、「採用側は、自社のどこを見てもらいたいか」になる。

まず、給与や待遇など、募集概要に載せるやつ。ここでメリットを出せるなら良いのだが、そう簡単にはゆかぬ。本書では、とにかく給与だけは「他社より1円でも高く」と説く(さもないと他社に行ってしまう)。では、どうやって給与を上げるか?裏技がいくつか紹介されているが、これは「募集概要に掲載する給与額を上げる方法」だろう。

次に、「自社の強み」だ。ここが採用担当の弱点になる。業界No.1みたいな分かりやすい強みがあれば良いのだが、普通はそんなものはない。だから本書では、「いまの従業員にヒアリングせよ」とアドバイスする。

うちを選んだ理由は何ですか?何でもいいから3つ教えてください

すると、こんな答えが返ってくるという。

  • ・自分のやりたい仕事だった
  • ・通勤が便利
  • ・給与がいい
  • ・土休日の休みがきちんと取れる

この質問は想定通りなので、その後に、「それ以外であえてもう一つ挙げるとしたら?」と踏み込んで聞けという。すると、意外な答えが出てくる。

  • ・一緒に働く人たちが、癖がなさそうだった
  • ・従業員目線で考えてくれて、嘘っぽくなかった
  • ・もう転職したくなかったので、ずっと働けるところを探していた

この、一歩踏み込んで出てきた答えが「自社の魅力」になるという。そして、それを求人原稿に活かしていけとアドバイスする。

「その会社の魅力(=応募者に見てほしい強み)」は、募集案内のサイトの「従業員の声」「社員インタビュー」に見える。給与とか待遇も書いてあるだろうが、そこは応募者も採用側も折り込み済みの話だ。それ以外の「声」こそが、採用担当にとって聞いてほしい「強み」になる。

例えば、某IT企業における中途採用の社員の「声」のこんな箇所。

「ずっとプログラマーとしてやってきたのですが、ネットワークやインフラ系については、「勉強」だけで経験はありませんでした。でも、サーバーサイドのエンジニアとしての経験の無い私に、「やってみて覚えていけばいい」と上司が任せてくれました。そんな社員の成長を第一に考えるカルチャーに支えられて、できることが短期間に増えていきました。」

これを元に、応募する側として逆算すればいい。

  • ・プログラミングには自信があるものの、それに加え、新しい技術や分野を積極的に学ぼうとしている
  • ・社員の成長を支援するカルチャーに魅力を感じており、自分の学ぼうとする姿勢と一致している
  • ・プログラミングに加え、インフラ系のスキルアップを図ることでオールラウンドなエンジニアを目指している自分にぴったり

つまり、面接担当が聞いて欲しい「自社の強み」を、逆アセンブルして自分のアピールポイントにするんだ

面倒くさい?募集サイトの「社員の声」を全部読んで考えるのが大変だし、そもそも応募先も沢山あるのでやってられないって?

そんなときのためにChatGPTがある。上記の逆アセンブルも、GPTにお願いしている。面倒くさいことは全てAIに任せよう。

▲面接担当が聞いて欲しい「自社の強み」を、逆アセンブルして自分のアピールポイントにする方法をChatGPTに聞いてみた

ただし、注意しなければならないのは、GPTは一般的な解答であること。「私は学習意欲があります」なんてセリフ、面と向かって言ったら嘘くさくなる。

だから、「私はコレコレの技術書を読んでシカジカの設計技法を学び、こんな風に使ってきました」などと具体的に述べる。すると、面接担当は「この人は学習意欲があるぞ」と思ってもらえる。そう思ってもらうために何をしゃべればいいか―――そこだけは自分のオリジナルとして考えるけれど、その他はGPTに任せよう。

質問と建前から本音を知る『採用側の本音を知れば就職面接は9割成功する』

採用担当の事情からの逆アセンブルは有効だが、めんどうかもしれない。こういう作業は、誰か一人がやってまとめ動画をUPすればいい。

だが、私の探し方が下手なのか、youtubeは「5ちゃんのカキコを読み上げただけ」「誰かの講演の録画」「人事コンサルタント(自称)の独り語り」が並んでおり、「まとめ動画」に程遠い。

さらに、ポイントを説明している箇所まで辿り着いて初めて、見るだけの価値があったかどうか分かるものだ(←ここが動画の勿体ない点)。

これが書籍だと違う。1つのトピックを見開き1ページで紹介する形式なら、ページを開いて数秒で、見出しとキーセンテンスを理解できる。それが分かれば、「そのページをいま読む必要があるかどうか」は即判断できる。

もっと手早くするなら、目次を読めばいい。目次には「そこに何が書いてあるか」というエッセンスが詰まっているからだ。ざっと目次を見て、読むべき箇所をピックアップしていけばいい。

もちろん動画でも同じものはある。冒頭にアジェンダを用意して、「このトピックは〇分〇秒から」と編集しているものもあるが、採用関連でそこまで丁寧につくってあるものは少ない。「まとめ動画」と銘打っておきながら、まとまっていないのが大部分だ。

就職活動や面接に向けて情報を集めている人は、もっと素早く網羅的に押さえたいはずだ。明日が本番なんだから、まだるっこしく再生しているヒマはない。ぶっちゃけ正解だけ教えろ、という気分だろう。

そういう人に朗報なのが、『採用側の本音を知れば就職面接は9割成功する』だ。正解だけ書いてある。

▲『採用側の本音を知れば就職面接は9割成功する』 渡部幸 著、KADOKAWA

面接担当が聞いてくる質問は、いわばタテマエだという。そんなタテマエに馬鹿正直に答えていると、「こいつ、分かっていない」と判断されてしまう。

最初からホンネで質問しろよツッコミたくなるのだが、面接の基本的な考えとして、「この人は自社の社員としてのロール(役割)を果たせるのか」という大前提が横たわっている。そもそも「面接に臨む応募者」というロールを全うできないのであれば、その時点でアウトと判断されるだろう。

そのため、本書ではタテマエ質問をホンネに翻訳したものになる。その上で、その本音の質問にどのように答えればいいかを、パターン別に紹介している。本書が類書と違うのは、アンチパターン、つまりダメな返答例も記載している点だ。

例えばこれ。

タテマエ質問:なぜ弊社を志望したのですか?
ぶっちゃけ質問:弊社で何がしたくて、何ができますか?

非常によく聞かれる質問だけど、これを建前通りに受け止めて、「御社の理念を伺い、私もそのような夢を与える仕事がしたいと思い」なんて答えてはいけない。ましてや「大手だから」とか「待遇がよさそうだから」なんて本音で答えてもいけないという。

どうすればよいか?ぶっちゃけ質問に答える上で踏まえるべきポイントはこれらになる。

  • ・なぜこの企業なのか、仕事の内容も交えて答える
  • ・自分がやりたいことを伝える
  • ・自分がこの企業で活かせる強みに結び付ける

その上で、お手本としてこうある。

御社の説明会で、目標に向かってチームで工夫していくことや、商品に誇りを持っているお話を伺いました。私も御社で自分の目標を立て、成長しながらよい商品を提供し続ける仕事をしていきたいです。」

「もし御社に入社できたなら、サークル活動で培ってきた工夫しながら行動する力を生かし、営業の仕事に携わりたいと思っています。」

これは営業職の回答なので、ITエンジニアとしてはこのお手本を元に改変しよう。

あるいはこれ。

タテマエ質問:挫折や失敗の経験を教えてください
ぶっちゃけ質問:大変だった状況をどう乗り越えましたか?

これも、タテマエ質問の言葉通りに失敗談を長々と語りだすと、「コイツ分かっていない」と判断されてしまう。失敗談だけで終わってしまうと、「この人は失敗から何も学んでいない人」という烙印を押されてしまう。

だから、大変だったことは簡潔に述べて、それをどう工夫して乗り越えたかを具体的に伝え、そこから何を学んだかで締めろという。

お手本はこれになる。

「大学入試に失敗した経験があります。気持ちを切り替え、大学では目標を持とうと、希望する経済学のゼミに入れるように努力しつつ、簿記の資格を取ることを決意しました。自分で決意して目標を持つことの大切さと、努力を続ければ結果はついてくることを実感しました。」

新卒向けのQA本なので、転職を考えているITエンジニアには物足りない点もあるかもしれぬ。そこは自分のキャリアをGPTに伝えてカスタマイズしてもらおう

本書がちょっと面白かったのは、就活コーナーと人事・労務コーナーの両方に並んでいたこと(ふつう、人事・労務関連の本は就活コーナーには置かれない)。おそらくこれ、就活本として普通に読まれているだけでなく、採用担当が「その質問から何を引き出せるか」のアンチョコとして使っているのだろう。

「ぶっちゃけ質問」に自分なら何と答えるか?を考えるだけで、面接対策の最も大変な山はクリアできるだろう。

おわりに

ここでは、採用側の事情から、採用する人にとっての弱点をハッキングできる種本を紹介した。「〇〇の資格を持っている」「〇〇言語の経験が〇年ある」といったITスキルの他に、どんな言葉を返せば、面接担当にとって「いい人材」と響くかの方法を解説した。

『採用の思考法』は、採用コンサルタントの赤裸々な事情を元に、採用ノウハウを逆アセンブルする方法を紹介した。自分はPythonがただ書けるだけでなく、プログラミングでぶつかってきた壁と、粘り強く立ち向かうことで乗り越えてきたこと、さらにはこの粘り強さを転職先でも再現することを示せれば、面接担当に響くだろう。

『採用がうまくいく会社がやっていること』は、採用担当の弱点から攻略する方法を紹介した。「早期に辞めてしまう」ような人ではないことをアピールしよう(本心はともかくとして)。そして、採用側が見て欲しい「我が社の強み」を抽出して、それと自分の目標や能力が合致していることを強調しよう。

時間がない人は『採用側の本音を知れば就職面接は9割成功する』が役立つはずだ。「ぶっちゃけ質問」で何を訊かれているか分かれば、向こうが聞きたい回答を思いつくだろう。文章にするのがめんどい?大丈夫、自分のキャリアとスキル、相手に伝えたい方針さえ決めて、後はGPTに任せよう。

大丈夫、面接はハッキングできる。最初にお伝えしたように、「就活コーナー」ではなく、そのちょっと離れたところにある、人事・労務の棚にヒントがある。

そして後編の予告。

出世する人は、①スキルが非常に高く、②仕事の成果を出しており、③会社に認められるような人―――というのは、③だけが正しい。もちろんあなたは、スキルはそんなになくて、成果もそれほどなのに、「会社に認められる」人を知っている。でも、その人は特殊な「何か」があったのだろうか?

後編では、人事制度からこの「何か」を分析し、人事評価を上げる方法を紹介する。これに加えて、この「何か」を直接上げていく方法も、合わせて説明する。

お楽しみに!

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