Zホールディングス藤門千明氏に聞く「CTOとしての技術選定、人材採用、育成の考え方」【#ThanksGivingDay2022】

2023年1月30日

Zホールディングス株式会社 専務執行役員 Co-GCTO/AI CPO

藤門 千明

静岡県生まれ。2005年に筑波大学大学院を卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。 エンジニアとして「Yahoo! JAPAN ID」や「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」の決済システム構築などに携わる。決済金融部門のテクニカルディレクターや「Yahoo! JAPAN」を支えるプラットフォームの責任者を経て、2015年にヤフー株式会社CTOに就任。 2019年10月にZホールディングス株式会社 常務執行役員 CTO、ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員CTOに就任。2022年4月より現職。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 Head of Startup Solutions Architect, Japan

塚田 朗弘

金融系SE、生放送系ウェブサービスのサーバーサイドエンジニアを経験した後、2013年よりスタートアップ企業にジョイン。CTOとして開発全般、および採用やチームマネジメントを行う。2015年8月よりアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のソリューションアーキテクト(SA)として従事。現在は日本のスタートアップ SA チームをリードしている。

2022年12月17日に日本CTO協会主催で開催された「#ThanksGivingDay2022」。AWSのスタートアップソリューションアーキテクト 塚田朗弘氏をモデレーターに、日本CTO協会の理事を務める、Zホールディングス株式会社 専務執行役員 Co-GCTO 藤門千明氏が「CTOとしての技術選定・人材採用・育成」について語りました。

ビッグテックカンパニーのCTOとしての技術選定とは

塚田:藤門さんといえばZホールディングスのCTOであり、2022年までは「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフー株式会社(以下、ヤフー)のCTOも務めていました。ビッグテックカンパニーのCTOとして、技術選定や人材採用、人材育成についてどう考えているのかを、ぜひ伺っていきたいと思います。本日はよろしくお願いします。

藤門:よろしくお願いします。

塚田:ではまず、藤門さんの技術選定に関するこだわりをお聞かせください。ビッグテックカンパニーのCTOとして、技術選定をする際に気をつけていることはなにかありますでしょうか?

藤門:実はCTOでなくても、エンジニアであればプロダクトの課題を解決するために技術選定をしなければならない瞬間は必ずあると思います。CTOがする技術選定も結局、そのプロダクトを開発する上でもっとも合理的なテクノロジーであるかどうかを判断しているだけです。CTOだからこう考えている、CTOだからこの技術を選択したということはほとんどありません。

そんな中、技術選定においてCTOの果たすべき役割というと、私は3つあると思っています。

1つはエンジニアの開発者体験(Developer Experience)と事業戦略の達成の両方を叶えること。これはCTOとしてもっとも大事な役目です。なぜならば、CTOはおそらくその会社でもっとも事業戦略を知っている技術者だからです。技術選定において、エンジニアの開発者体験を向上させることはもちろん大事ですが、CTOにしかできない、技術を通して事業を成功に導いていくことが最も求められていると思います。

2つ目は、技術選定の理由を問われた際に、説明責任を負えるような回答をすること。もちろん、チームメンバーの立場でも、なぜその技術を選んだのかと聞かれたら答える場面はありますが、CTOの場合、それは会社の経営層や株主、サービスを使ってくださっているユーザーに対して説明しなければいけない。その説明責任を問われた際に、クリアに話せる技術選定ができていることが求められます。

3つ目はビッグカンパニーのCTOならではのことですが、CTOとしてできる技術選定の範囲を決めること。組織が大きいゆえに、CTOひとりが全ての技術選定をすることはほぼ不可能です。そこで、技術選定のどこまでをCTOがチェックして、どこから現場に任せるかはすごく大事なポイントです。

技術選定は一発で成功することはほとんどなく、選択して失敗して、その繰り返しの経験が必要。どこまで技術選定を移譲できるのかを明確、かつ大事にしないといけないのがCTOの役割です。

塚田:ありがとうございます。藤門さんが関わってきた中でインフラの技術選定の実例をひとつ教えていただけますでしょうか。

藤門:例えばZホールディングスでいうと、LINEもヤフーも、インフラにクラウドをあまり使っていなくて、あえてオンプレミスのサーバーをメインで運用しているんです。なぜそうしているかというと、LINEもヤフーも広告収益が主要な収益モデルであるため、1ページビューを生み出すコストをどこまで下げられるかが、事業の成功を左右する要因となるからです。そのため、データセンターを建てる土地をどこにするかというところから、ユーザーの目に触れるインターフェースをどう構築するかまで、全部自分たちでこだわってやっています。

一方で同じZホールディングスの中でも、例えば一休のような、ユーザーから直接お金をいただいて成立するサービスもあります。これらのサービスに関しては、オンプレミスにこだわるよりは、ビジネスロジックの改善に注力したほうが事業の最大化につながるので、よりスピーディーにトライ&エラーをしてユーザーの体験をよくするためにクラウドを多く取り入れています。

つまり、サービスの収益モデルに合わせて、使う技術を最適化しているのがベースとなる考え方です。そのため、オンプレがメインといいつつも、LINEやヤフーでは、クラウドの力を借りたほうが良い部分はマネージドサービスなどを積極的に取り入れています。

例えば、機械学習でいうとAWSさんの「Amazon SageMaker」を使わせていただいています。AIサービスをつくっていく上で、自分たちでつくりたいのはAIモデルであって、そのプラットフォームをつくるのはお任せした方が良いという判断です。ソフトウェア開発リソースは有限なので、どこに自分たちのコストをかけるのか、ひたすら頭を悩ませています。

個別の技術選定は現場に任せる。ただ、どの技術を使っているかは必ず把握する

塚田:ちなみに、藤門さんからして、ZホールディングスのCo-GCTOと2022年3月まで務めたヤフーのCTOでは、どのような違いと共通性があるのでしょうか。

藤門:Zホールディングスもヤフーも、サービス規模が大きいため、膨大な数の技術選定が必要です。ただ、ヤフーのCTOとしては、ヤフーのためだけに、個別最適した技術選定をすることができました。一方、ZホールディングスのCTOとしては、ヤフーやLINE、PayPayなどの子会社がそれぞれ生産性高くプロダクトを開発できるかどうかが最も重要です。なので、個別の技術選定に対しては基本的に口出ししないようにしています。

ただ、どの会社がどんなプロダクトや機能をつくるときに、どのような技術やツールを使っているのかは全部把握するようにしています。クラウドは何を使っているのか、どういう選定理由だったのか、どのようなソフトウェアを使っているのかなどは、大体頭の中に入っていますね。

なぜそうするかというと、実際企業間で協働で事業をつくろう、シナジーを生もうとしたときに、それぞれどんな技術を使っているのかをわかっていないと、判断ができないからです。仮にある会社がサーバートラブルを起こして大変なときに、例えばAWSの同じ技術を使っているとわかっていたら、支援してあげようという采配ができたりします。

あとはどれだけ対策していても、セキュリティ問題は必ず出てきてしまうので、その子会社がセキュリティリスクの高いものを使っているから今すぐ対応するべきという判断が早急にできる。そのために、全ての技術を頭に入れておくのはCTOの大事な仕事だと思っています。

採用面談で重視するのは「技術を選ぶ力」

塚田:次は「人材採用」について。CTOとして組織づくりや人材採用は大きなミッションだと思います。藤門さんは人材採用に関して、どのようにCTOとして振舞い、何を重視しているのか教えてください。

藤門:中途採用では、応募者に書いていただいた職務経歴書をもとに、いつも開発を担当したプロジェクトについて最新のものから時系列に聞くようにしています。

そこでプロジェクトそのものより、その方がプロジェクトにおいてどんな役割を果たしたかを重点的に聞くようにしています。

  • ・そのプロジェクトに関わって、あなたは何を感じましたか
  • ・もしもう1回同じプロジェクトやるとしたら、どこを改善しますか

これらの質問を通して、その応募者の考え方や働き方が見えてくるので、会社にカルチャーフィットするかどうかを測ることができます。

一方で、採用面談で応募者のスキルを判断する場合は、携わってきたプロダクト・プロジェクトで実際に手を動かした経験を可能な限り深掘りするようにしています。

  • ・なぜその機能をつくりましたか
  • ・なぜその技術を選びましたか
  • ・その技術を使ったことでプロダクトにどのような価値や効果があったと思いますか、など

なぜここまで深掘るかというと、ソフトウェアを開発する上で武器が何もなかった時代、それこそAWSがまだなかった頃は、全部自分たちで一からツールもつくっていたんですね。

それはそれで、すごくおもしろかったのですが、今はほとんどの技術や機能がクラウドで提供されていたり、オープンソースであったりするんです。この時代の採用において、こんな膨大なリソースの中で、その人がテクノロジーのどこに関心があるのか、課題を解決するために適切な技術を選ぶ力があるのか、どのような開発体験を重要視しているのかを見極めることが、非常に重要になっていると思います。それらを知るために、いつも細かく質問をするようにしています。

人材育成はまず技術アップデートの発信から

塚田:3つ目のテーマは「人材育成」です。近年はフロントエンドからバックエンドまで、技術革新のスピードが加速している中で、CTOとして組織の技術力を保つことや、人材育成の必要性が増していると思います。藤門さんは人材育成に関して、どのような施策をとっているのでしょうか。

藤門:ヤフー時代に、新しい技術のリリースイベントや製品・サービスの導入事例、開発者向け制度に関する最新情報などをウォッチする専門部隊を自分の直下となるCTO室につくっていました。

常に技術や制度の最新動向にアンテナを張り、それらにどういう意味合いがあるのかを自分たちで咀嚼し、CTO室にとどめることなく、全社に向けて広報しています。「こんな技術が出てきたから、こういうことに使えるのでは」といった発信は、エンジニアだけではなく、ビジネスサイド、当時の社長である川邉(健太郎氏)に対しても行っていました。

「この技術はすごい」「これはあまりインパクトはない」の認識を、経営層やビジネスサイドにも浸透させることで、マネジメントや業務の質を上げるように意識しています。機能の数が膨大なゆえに、ひたすらアンラーニングし続けないと技術の刷新に追いつかないし、スピーディーにサービスリリースができない。CTO自ら今までの古い価値観を捨てるだけでなく、全社にも同じような意識を持ってもらうことに注力しています。

そのほかに、クラウドを使う上で関連知識や使い方を身に付ける必要性があるので、AWSさんにご協力いただいて研修制度も設けています。研修内容については、Zホールディングスで最も使えそうな技術をAWSの技術群からピックアップしていただいて、研修プログラムを一緒に組んでいただいています。

塚田:テクノロジーだけでなく、そういったところでも協力させていただけるのは、大変ありがたいと思っているので、今後もよろしくお願いします。もちろん、Zホールディングスさんだけではなく会場の皆さんも、人材育成や採用などで「こういうことをやってくれないか」といったお困りごとがあればご相談に乗りますので、皆さんお気軽にお声がけくださいね。

「AWS re:Invent 2022」で気になったトピックは?

塚田:せっかくなので最後に、先日行われた「AWS re:Invent2022」で藤門さんが気になったアップデートを3つ挙げていただいてもよろしいでしょうか。

藤門:今回私が気になったのは、まず「Amazon OpenSearch Serverless」というOpenSearch(検索のワークロード)をサーバーレスで実行できるサービスです。2つ目は、「Amazon Aurora zero-ETL integration with Redshift」。Auroraのトランザクションでほぼリアルタイムにデータウェアハウスをつくれてしまう機能ですね。

3つ目が、「AWS Lambda SnapStart」。Lambdaは様々な言語で動かせますけど、例えばJavaだとスタートまで5秒くらいかかることがあったんですね。それをかなり短縮できるところはいいなと思いました。

ちなみに塚田さんがソリューションアーキテクトとして、今回よかったと思ったのは何ですか。

塚田:個人的に実は私も「Amazon OpenSearch Serverless」と、「Aurora zero-ETL integration with Redshift」を挙げたいですね。ずっとこんな機能が欲しいと思っていました。

あとは、KafkaからAmazon Athenaにリアルタイムにデータを流し込めるようになった「Amazon Managed Streaming for Kafka (MSK) and Apache Kafka」や、AWS AppSyncの「JavaScript resolverサポート」など、他にも注目している機能はいっぱいあります。

藤門:あと、機能のアップデートの話ではないのですが、re:InventのKeynoteで、CEOが自社の話をするだけではなく、いろいろなクライアントの事例をクライアント自身の言葉で話してもらうところがとてもいいですね。特に登壇するときの雰囲気、熱量、あの発表をずっと続けているAWSが好きです。

一方で、新しい機能が毎年どんどんリリースされ続けているので、アンラーニングやキャッチアップがものすごく大変なんですよね。いつくらいに何を出すのか、もっと早く言ってほしいとも思っています。

塚田:私もソリューションアーキテクトとして技術支援をするために、常にAWSの最新技術をキャッチアップしつつづけていますし、エンジニアの皆さん、CTOの皆さんとお話しながら、アーキテクチャをレビューさせていただくので、大変だというお気持ちはすごくわかります。藤門さんの話を聞いた会場の方々が、ほぼ100%頷いているのを見て、もっと技術情報をしっかりお届けできるよう頑張りたいと思いました(笑)。

文:馬場 美由紀
撮影:Qiuyu Jin

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