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株式会社LayerX Ai Workforce事業部
FDE部 部長

白井 英

2001年にSIerにて電力会社・大学などの基幹システム開発を経験後、仙台のベンチャーでモバイルコンテンツ制作に携わる。2010年よりCyberXでCTOとしてソーシャルゲーム開発を統括。2014年以降、サイバーエージェントでは複数子会社のCTOを兼務し、技術組織の育成と大型タイトルの品質向上を牽引。2022年、ペイミーに参画。CTOとして、前払いサービス運用やAIを活用した新規SaaS開発を推進。2025年10月、LayerXに参画。現在はAi Workforce事業部FDE部の部長を務める。

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自社プロダクトを携えて顧客の現場に入り込み、課題の発見から解決までに深く関わるFDE(Forward Deployed Engineer)。生成AIの普及につれ、米Palantirが先駆けて整備したこの職種の名前を耳にする機会が増えました。

そんなFDEの採用について、日本でいち早く乗り出した企業のひとつが、LayerXです。2025年7月にジョブディスクリプション(JD)を公開してから、約1年が経ちました。

とはいえ、国内ではまだまだ新しい概念であり、キャリアの選択肢として考えるにあたり「大まかにどんな職種かはわかるが、具体的にはどのような働き方やスキルが求められるのか」「SIerや受託開発と何が違うのか」と疑問を浮かべる人もいるかもしれません。

この1年間、LayerXの実際のプロジェクトでは、どのようなバックグラウンドを持つ人材がFDEとして力を発揮してきたのでしょうか。また、多様な強みを持つエンジニアたちを、組織としてどう育成してきたのでしょうか。

JD公開からの歩みで見えてきた「FDEの実像」について、エンタープライズ向け生成AIプラットフォーム「Ai Workforce」(※)のFDE部を率いる白井英さんに伺いました。

(※)「Ai Workforce」:LayerXが提供するエンタープライズ向けの生成AIプラットフォーム。企業内に蓄積されたPDFやOffice文書などの非構造化データを読み込み、情報の抽出や文書処理の自動化を行う。
同社のFDEは、顧客から実際の業務で使われている資料を預かり、現場の暗黙知を把握したうえで、このプラットフォーム上に顧客専用の業務自動化ワークフローを構築している。また、現場の要件に対してプラットフォームの標準機能だけでは足りない部分を実装で補い、そこで得た知見や汎用的なロジックを自社プロダクトの機能改善として還元する役割も担う。

常駐とは言っても週に1度? FDEの1週間

――FDEのJDが公開されてから1年が経ちました。この間に、チームの規模はどう変わりましたか。

白井:去年8月の時点で3名、10月に私が入って4名だったのが、今年の8月1日時点で14名です。 白井さん

――FDEといえば顧客の業務理解、AIを用いた実装、運用フェーズの改善まで幅広い役割が求められるポジションですが、それでもメンバーが4倍以上に増えたのですね。

白井:自分も当初、採用計画の目標人数「半年でプラス6名」と見たときは「かなりチャレンジングな目標だ」と思いましたが(笑)、結果的には達成できました。

今年に入り印象的だったのは、FDEという職種の認知が広がったためか、自主応募が増えたことです。去年はスカウトなどを通してこちらからお声がけすることが多かったところ、LayerXのサイトを見て直接応募してくださる方が明らかに増加しました。

――どういったバックグラウンドの方からの応募が多いのでしょうか。

白井:どちらかというと、自社で事業を展開する企業出身の方が多いですね。よく見られるのは、「PoCで終わらせたくない」という思いです。つくったものが検証で止まってばかりで、実際に価値を届けていることが実感できないことが多いという歯がゆさを感じ、「お客様の現場まで価値をしっかり届けたい」とFDEを選ぶケースが目立ちます。

一方で、SIerや大手ベンダーからの応募はまだ少数です。LayerXのFDEは主にエンタープライズ企業と向き合うため、大規模組織の論理や商習慣を熟知したSIer出身者にとって非常に相性の良いポジションのはずなので、今後興味を持っていただけたら嬉しいと思っています。

――実際のプロジェクトは、どういった体制で進められているのでしょうか。

白井:基本的に、深いドメイン知識を持つDS(デプロイメント・ストラテジスト)と、技術面を担うFDEがペアになって動きます。

DSはいわばプロジェクトマネージャー兼「戦略家」です。お客様の業界や業務フローの解像度が圧倒的に高いため、「どの業務から改善を仕掛けるべきか」といったプロジェクト全体の戦略はDSが主導します。

対して、FDEの役割は「技術的な実現可能性」の担保です。たとえばお客様から「この課題を100%解決してほしい」と要望されても、現在のAIの技術水準では80%までしか届かないケースがあります。

その際、FDEは「今の技術ならここまで可能です」と現実的なラインを引き、残りの20%はプロダクトやAI自体がさらに進化した段階で改めて提案する、といった判断を下します。素早くデモを作成し、お客様の反応を見ながら実装アプローチを柔軟に変えていくのです。

もうひとつ重要な役割が、「プロダクトへのフィードバック」です。「Ai Workforce」の標準機能で手が届かないラストワンマイルをFDEが実装で埋めつつ、その個別要件を「他社にも展開できる汎用機能」として開発側へ還元するのです。

現場での課題解決と、プラットフォームの進化を直結させるサイクルを回しているというのは、一般的な受託開発との大きな違いです。

――では実際、取引先の企業にはどの程度常駐するのでしょうか。

白井:弊社でも便宜上「常駐」と呼ぶことがありますが、実態は週に1回お邪魔する程度です。

対面でお会いすることのメリットは、プロジェクトの「周辺」の話を聞けることです。Webミーティングだと、どうしても「大事な話」がメインになります。しかし、雑談の中でふと出てくる内容が、業務フローの解像度を上げてくれることも少なくありません。

なのでキックオフの時にもなるべくお客様のオフィスへ伺い、どういう方がどう働いていらっしゃるのかを見せていただいています。一方で、対面で伺ってもお客様と我々とで互いにメリットがない場合は、常駐を行わないとの判断も選択肢としてはあり得ます。あくまで手段に過ぎないので、何を目的にお客様のもとへ伺うのか、というのは常に意識しています。

――より具体的にイメージをつかみたいのですが、FDEの典型的な1週間の流れを教えていただけますか。

白井:日によって大きく2つのパターンに分かれます。

まず「お客様先にお伺いする日」ですが、この日は朝からお客様のオフィスに出社し、丸一日、お客様との対話を中心に過ごします。

午前中はAi Workforceを自社で使いこなしていただくための内製化支援を行い、午後は営業との商談に同席したり、現場の方から直接ご要望をヒアリングしたりします。もちろん、ミーティングの合間を縫って進行中の案件の実装作業も進めます。

一方、「社内で稼働する日」は、朝会からスタートします。午前中は案件チームでのミーティングで進捗やタスクを確認し、午後はまとまった時間をとって自身の開発や技術検証のタスクに集中します。

また、FDE組織全体の動きとしては、毎週月曜の午前に全社や事業部の定例があり、金曜にはプロダクトのアップデート共有、AI業界のニュース共有、FDE部内の共有会などを行ってインプットと目線合わせをしています。

――ではこの1年間、実際にFDE組織を運用してみて「予想外だったこと」はありましたか。

白井:LLMの進化と、それに伴う競合環境の変化スピードが予想以上でした。

半年前ならばお客様から反応の良かったデモや成果物でも、今お見せするとあまり興味を得られなくなっているような状況です。競合製品も急速に進化しており、同等のことが当たり前にできるようになりつつあるからです。

お客様の要求レベルも日々上がっています。そのためFDEとしては過去の成功体験に固執せず、常に最新のLLMの進化をキャッチアップし、お客様の期待値を超える解決策を提案・構築し続ける必要が出てきています。 白井さん

活躍するFDEに共通する「力」

――改めて、LayerXがFDEに求めている基本スキルについて教えてください。

白井:対話から本質的な課題を見つける「クライアントワーク力」と、それを自らの手で実装する「開発力」の2つです。もともとどちらかに強みがあり、もう一方にも本気で踏み込む意思がある……。FDEに向いているのは、そういう方だと捉えています。

――「本質的な課題を見つける」とは、具体的にどういう意味合いでしょうか。

白井:お客様が「これが課題だ」とおっしゃるものの奥に、本当の課題が隠れていることが多いため、FDEにはご要望を鵜呑みにせず、お客様と協業するような立場で「本当に解くべき課題」を突き詰める姿勢が求められます。

目の前のご要望に応えるだけの局所的な最適化では、単発のプロジェクトで終わり、本番導入や現場への定着に至りません。お互いに時間とコストをかける以上は、お客様の採算が合う結果を出す必要があります。

ですから時には「ご指定の業務だけでは費用対効果が見合わないので、前後のフローもセットで見直しませんか」と逆提案し、次の手を仕込むこともあります。技術を切り口に、そうした踏み込んだ提案ができるかが重要ですね。

――ではJD公開からの1年間で、実際にFDEとして活躍されている方々に共通する特徴は見えてきましたか。

白井:最も共通しているのは、やはり「本質を見る力」でしょうか。

若手のメンバーのこんなエピソードがあります。ある程度形になったプロダクトをお客様に触っていただいていたら、「あれもしてほしい、これもしてほしい」と、追加のご要望をたくさんいただいた。しかし、そこで彼は「それを実現しても、業務は軽くならないですよね」と、率直にお伝えしたそうなんです。

お客様からのご要望をそのまま形にするのではなく、プロジェクトの目的からブレていないかを常に見据える。技術を手段として割り切り、不要なものは退ける胆力も含めて、こうした本質を見る姿勢は誰もが求められます。

ただ、活躍しているメンバーの他の共通点を見ていくと、大まかにはシニアと若手とで少し傾向が異なるように思います。

――まず、シニアメンバーについて教えてください。

白井:シニア層のエンジニアが圧倒的な力を発揮するのは、輪郭のはっきりしない、不確実性の高い課題に向き合うときです。例えば「社内の人材配置をもっとうまくやりたい」「退職率が気になる」といった、漠然とした事業課題ですね。

そうしたフワッとした相談からでも、「何をどの順で明らかにすれば解決に近づくか」を論理的に組み立てられるメンバーが活躍しています。

これを支えているのは、過去の多様な経験と、不確実性に対する耐性です。「お客様が本当は何に悩んでいるのか」の勘所を掴んでいるため、一段ずつステップを踏んで問題を解きほぐしていける。自分の中にアプローチの引き出しを豊富に持っていることが、結果として大きな武器になっています。

――では、若手ではいかがですか。

白井:共通するのは、アウトプットの圧倒的な速さです。仕様を完璧に固める前に、まずは動くものをつくってお見せし、そこからさらに現場の情報を引き出すアプローチですね。

我々にはAi Workforceというプラットフォームがあるため、ゼロから開発しなくても、お客様の業務を模したデモを素早く構築できます。「こういう業務フローなら、こんな風にAIが処理してくれますよ」と、実際に動くプロトタイプを目の前で提示する。

すると、お客様も具体的なイメージが湧き、「実はここのチェックにはこういう暗黙のルールがあって……」といった形で、より深い解像度のフィードバックを引き出せます。この「見せて、聞いて、直す」という検証サイクルを高速で回せるメンバーは、お客様の信頼を勝ち取るのも非常に早いです。

――そうした活躍するFDEの条件を踏まえて、採用面接では候補者のどのようなポイントを特に注視しているのでしょうか。

白井:最も重視しているのは「お客様の課題解決」に強いモチベーションがあるかどうかです。

「技術力をつけたい」だけがモチベーションの場合、FDEはお客様と対話する機会の多い職種なので、入社後にミスマッチが起きてしまいます。逆に、顧客志向さえしっかり合致していれば、特定の経歴や出自はそこまで問いません。

――「お客様の要望の奥にある本当の課題を捉える力」についてはいかがですか。

白井:もちろん、そちらも重要視しています。

こちらは面接の受け答えだけでは見極めが難しいため、選考プロセスの中にトライアル試験を設けています。過去に私たちが実際に直面した業務課題を試験用にアレンジして解いていただきます。

こちらは実際にあった複雑なケースがベースなので、表面的な情報だけをなぞって解こうとすると、なかなか本質にたどり着けない問題となっています。FDEとしての実践的なスタンスを、この試験を通して見させていただいています。 白井さん

「他メンバーの動きが見えにくい」中で、育成をどう仕組み化するか

――FDEは案件ごとに動き方が変わりそうで、知見の共有や育成が難しそうに思えます。

白井:そうですね。正直、私も当初はどう育てていいかわかりませんでした。

何せ、FDEは、他のFDEがどう動いているかを隣で見る機会が少ない職種です。「FDEが2人いるプロジェクト」はあまり存在せず、基本はDSとFDE1人がタッグを組む形で動きます。なので、他のメンバーの立ち回りを見て技を盗む、といったことが物理的にできません。

定期的なナレッジの共有会は実施していましたが、どうしても「こういうことをやりました」という表面的な結果の報告になりがちで、現場での試行錯誤や判断の裏側といったノウハウが伝わりきっていませんでした。

そこでLayerXではFDEの育成を行う「FDE Enabler」という役割を設けてFDEやDSのメンバーにコーチングを行うとともに、「FDEインテンシブ」という強化プログラムを始めました。

Enablerを務めるのは、元PalantirのFDEである大治慶晃というメンバーです。FDEというロールの解像度が高く、どう働きかければ成長につながるかの勘所を持っているので、メンバーが成長しやすい環境が整備されてきたと感じます。

――「FDEインテンシブ」とは、どういった取り組みなのでしょうか。

白井:まず、育成対象の2人を選び、大治がメンターとして入ります。そして選ばれた2人がお互いの案件の進捗を相互に共有し、疑問をぶつけ合うのです。

聞かれた側は自分の判断の意図を言語化しなければなりませんし、聞く側は「他のFDEが現場で何を考え、どう動いているのか」を深く知ることができます。単なる事例共有ではなく、FDEとしての思考プロセスそのものを伝え合う場として、非常に手応えを感じています。

――そのようにして育成の仕組み化を進めているのですね。

白井:もうひとつ、先ほど軽く触れましたが、週に1回「ニュース斜め読み」という時間を設けています。 担当のメンバーが、1週間分のAI系ニュースをまとめます。それに対して各自が深掘りした内容をコメントし合い、30分間話し合うという場です。中には、ニュースの元となった英語論文の原文にまで直接当たり「読んでみたけれど、実運用にはまだ遠い内容だった」「この技術は将来的にこの領域に活かせそうだ」と、一次情報に基づく踏み込んだ見解を共有してくれるメンバーもいます。

お客様の期待を超える解決策を提案し続けるために、このようにして「今、AIで本当に何が解けるようになったのか」を掴んでおくことも欠かせないと考えています。

また、個人に合わせて柔軟な育成を行うこともあります。FDEは役割の幅が広いので、得意も不得意も当然ある。例えば、FDEとして入社した新卒メンバーが「まずは技術力を伸ばしたい」と希望していたので、社内の開発グループに籍を移し、武者修行してもらったこともあります。開発力が上がれば、顧客に対する提案の幅が広がりますから。

――では今後、FDE組織で目指していることを教えてください。

白井:私が2025年10月に当時のFDEグループのマネージャーを務め始めたとき、会社からは「将来的に、CTOをどんどん生み出すような組織になってほしい」と伝えられました。

FDEはよく「お客様にとってのCTO」のような立場だと言われます。

もちろん、CTOは自社の技術経営を担う役職なので厳密には異なります。ただ、FDEはお客様の事業課題に対し、自ら手を動かしながら技術的なアプローチで解決策を判断し、推進していきます。「事業の要求を、技術でどう解くか」をジャッジするこの動き方は、CTOに非常に近いロールです。

この経験を最前線で積んだメンバーが、いずれ、LayerXの社内に残るにせよ、あるいは外へ羽ばたいていくにせよ、本当にCTOという役職で活躍していく。そんな構想です。

当初は「とはいえ実際にそこまでの人材を育てるのは難しいだろう」と思っていました。ですが、先ほどお話しした育成の仕組みも含めて、素養のあるメンバーをしっかりと引き上げられる環境が整ってきました。

このまま進めていけば、最終的にCTO級の人材を次々に輩出する組織をつくれると、今は本気で思えるようになっています。まだ道半ばですが、確かな手応えを感じながら組織づくりを進めています。

LayerXのFDE部自体も、まだまだ成長途中の組織です。出来上がった船に乗ってただ個人の技術を伸ばすというより「自らが舵を取り、組織や事業そのものを大きくしていく」ことにモチベーションを感じる方にとっては、面白い環境なのではないかと思っています。 白井さん 取材・執筆:樫本 倫子
編集:田村 今人
撮影:曽川 拓哉

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