プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての成果も求められ、マネジメントの責任も背負う「辛い」ポジション——。そんなイメージを抱く方は少なくありません。ですが、そんなプレイングマネージャーの仕事を「独特のやりがいや成長機会がある」と評するのが、ユーザベース 執行役員 NewsPicks CTOの安藤裕紀(あんどぅ)さん。ご自身も過去にプレイングマネージャーを経験され、成果を出してきました。安藤さんに、前向きな気持ちで同職を担う方法や、現場と経営をつなぐ視点の重要性などを伺いました。
ユーザーベース 執行役員/NewsPicks CTO
安藤裕紀
野村総合研究所にて、エンタープライズシステム開発、プライベートクラウドインフラ構築、DXコンサルティングなど大企業に向けた技術支援を10年超経験し、2021年10月にユーザベースに参画。NewsPicksのプロダクト開発組織でインフラや開発基盤を担当し、エンジニアリングマネージャーを経て2025年1月から執行役員NewsPicks CTOに就任
プレイングマネージャーという仕事の、しんどさと圧倒的な達成感
――安藤さんは以前、SNS上で「プレイングマネージャーをしていた時期がとても楽しかった」という趣旨の投稿をされていました。プレイングマネージャーだった当時の状況や、楽しさを感じていた理由をお聞かせください。
TLM、『エレガントパズル』にも書いてあったけど、この時点では「キャリアの過渡期」限定と語られていた
— あんどぅ (@integrated1453) 2026年4月11日
最近はAI使って少人数チームでプロジェクト回すのが適している状況の方が多いから重要度が上がってそう
自分も何年もプレイングマネージャーでこのロールだったけど、ハマれば一番楽しいんだよな https://t.co/KsEvEvny1n pic.twitter.com/6I5SZ6szan
安藤:私がプレイングマネージャーをしていたのは、ユーザベースでSREチームのリーダーを3年ほど務めていた時期でした。リーダーとして「チームで取り組むべきプロジェクト」を決定し、自分も設計や実装に入り、メンバーの成果物のレビューも行う。そうしてプロジェクト全体をリードしながら、自分一人ではなくチームとして成果を出せる点に、面白さを感じていました。
――エンジニアの中には「プレイヤーでい続けたい」というタイプの方も多いです。マネジメントの仕事をすることに抵抗はなかったのでしょうか。
安藤:むしろ、前職のSIerではマネジメント業務がメインでしたから、抵抗はなかったですね。当時、実装は外部の協力会社にお願いして、自分は進捗管理や顧客調整といったマネジメントに専念するケースが多かったです。その経験があったからこそ、マネジメントの重要性もよく理解できていました。
――世の中のプレイングマネージャーが「大変だ」と感じる要因はなんだと思われますか。
安藤:プレイングマネージャーをしていると、日中はミーティングやメンバーの成果物のレビュー・フィードバックなどに追われます。プレイヤーとして手を動かすのは、それらの仕事を終えた後。夕方から夜の時間帯になりがちです。これがしんどいという話はよく聞きます。
ただ、大変ではあるものの、それ以上の面白さがあります。ステークホルダーとの合意形成もうまくいき、メンバーの成長支援もでき、さらに自分たちの開発成果も世に出せた。そんな「全部できた」瞬間の達成感はすさまじいです。そうした経験を味わえるかどうかが、このポジションを楽しめるか否かの分かれ目になるように思います。

「すべての会議に出る」をやめる。手を動かす時間を確保するコツ
――プレイングマネージャーは常に時間が足りません。業務効率化やメンバーへの権限委譲のために、工夫されていた点はありますか。
安藤:まずは、ミーティングの頻度や時間を減らすことです。毎週1時間やっている定例を隔週開催にできないか、30分に短縮できないかなどを検討します。そして、そのためにはミーティングのオーナーシップをメンバーへ委譲していく必要があります。
委譲する際のポイントは、最初のうちは同席してミーティングの「型」を一緒につくり、次にファシリテーションを任せてみることです。その上で「何かあればチャットや口頭で教えて」と伝え、徐々に手を離していきます。
――「ミーティングに自分が参加しないと不安」というタイプのマネージャーもいるはずです。そうした不安とはどう向き合えばよいでしょうか。
安藤:その不安が生じるのは、「何かイレギュラーが起きたときに、その場ですぐ自分が対応しなければならない」と考えてしまうからだと思います。ですから、「リアルタイムで同席していないとリカバリーできない内容か」を参加是非の判断基準にするとよいですね。
たとえば、週次の1on1で状況を把握し、数日遅れのリカバリーでも間に合う範囲の内容であれば、任せてしまって構わないはずです。一番良くないのは、要不要の判断をしないままズルズルと参加し続け、1日のスケジュールがミーティングで埋まってしまうことですね。
――ほかにも作業効率化のアイデアはありますか。
安藤:今なら、AIを上手に活用するのも有効ですよね。たとえば、ミーティングが始まる前にコーディングエージェントへ丁寧に指示出しをしておき、ミーティング中にAIに実装を進めてもらう。そして会議後にAIの成果物をレビューする、といった働き方は、現代的で効果的なスタイルだと思います。
マネジメントと事業の視点を持つと、プレイヤーとしての成果は格段に出しやすくなる
――マネジメントの知見があることで、プレイヤーの仕事にはどのような影響が出ますか。
安藤:マネジメント視点や事業課題への理解があると、プレイヤーとしての成果を格段に出しやすくなります。たとえば、「マネージャーは何を考えて仕事をしているのか」を把握していれば、マネージャーとのコミュニケーションコストが下がり、より深い議論ができます。また、事業やチームの状況を踏まえて、提案や問題解決を自律的に行えるようにもなります。
――そうした視点が活きた、具体的なエピソードはありますか。
安藤:ユーザベースに入社した直後、SREチームでインフラ管理を担当していた頃のことです。特定アプリのインフラコストが事業の売上や規模に対して適正かをチェックした際、「高すぎるのではないか」と気づきました。
前職で事業のPL(損益計算書)を見る経験をしていたため、システムに対する投資対効果の視点を持っていたからです。是正すべきだと考えて計画を立て、手を打ちました。これは、マネジメント経験があったからこそ事業に貢献する成果を出せた例だと思います。

――コスト最適化だけではなく、プロダクト開発やシステム運用にもポジティブな影響はありますか。
安藤:大いにあると思います。たとえばソーシャル経済メディア「NewsPicks」は、世の中で大きな出来事が起きた際にアクセスが急増する傾向があります。多くのユーザーが一斉にニュースを読もうとするためです。その際、もしシステムの可用性が低いと「アプリが重くてページを開けない」という残念なユーザー体験を生んでしまいます。
エンジニア自身に事業視点があれば、「事業目標を達成するうえで、必要な可用性のレベルはどれくらいか。現状は、その理想とどれくらい乖離しているか」を自ら考え、先手を打てるようになります。事業を深く理解することは、プレイヤーとしてのパフォーマンスにも直結するはずです。
プレイヤー経験の落とし穴。「自分の作業スピード」を基準に見積もってはいけない
――幅広い視点を持っているからこそ、全体最適の仕事ができるようになるのですね。
安藤:そうですね。また、これは余談ですが、マネージャーの仕事だけをやり続けるのは「自己肯定感との戦い」という側面もあります。「自分では手を動かせないのに管理だけする人」になってしまうことに、耐えられるかという不安です。プレイヤースキルがまったくないと、この不安を抱えながら働き続けることになります。
私は、マネジメントを健全に続けるためにも、プレイヤーとしての自信が必要だと思っています。「いざとなったら自分でも手を動かせる」という確固たる自信があるからこそ、マネジメント業務にも集中し切れる。その軸がないと、マネジメントでも突き抜けられず、心配で気が散ってしまうのではないでしょうか。
――ここまでは成功事例でしたが、逆にプレイングマネージャーとしての失敗談はありますか。
安藤:かつて、「自分の作業スピード」を基準に、工数を見積もっていたことですね。その基準は、一緒に働くメンバーにとってはかなりきついものだったんです。プレイングマネージャーは技術力も事業視点も持ち、かつ評価者でもあるため、どうしても強い権威勾配が生まれます。だからこそ、メンバー側からは「この見積もりはおかしいです」とは言い出しづらいんですよね。
振り返ってみれば、当時はメンバーに無理をさせていたと思います。高い負荷をかけると、短期的にはプロジェクトが進むかもしれませんが、長期的にはメンバーの自己効力感の低下やバーンアウトを招きかねません。
――そうした事態を防ぐには、どうすべきでしょうか。
安藤:私の場合は、自分が技術的に詳しくないフロントエンド領域のマネージャーを経験したことで、見積もりの基準がリセットされました。自分自身の解像度が低い分、メンバーの力量や意見を尊重して見積もりをすり合わせるしかなかったからです。
その過程を通じて、これまでいかに「自分のスキル」を基準に物事を判断していたかを痛感しました。これが、マネジメントスタイルを根本から見直すきっかけになりました。
マネージャーは「任される」ポジション。まずは日々の仕事で信頼を積み重ねよう
――プレイングマネージャーというポジションで、前向きに働くためのコツはありますか。
安藤:技術に対する好奇心と、事業・経営・マネジメントに対する好奇心。この両方を持つことが大切です。どちらか一方が義務になってしまうとつらいですが、両方に興味を持てれば、プレイングマネージャーの仕事は決して苦にはなりません。
読者の中には「今の時点では、事業やマネジメントにはあまり興味がない」という方もいるかもしれません。ただ、知ってみると面白さに気づくものだと思います。エンジニアは本来、知らないことを解き明かしていくのが好きな職種のはずですから。ぜひ、関心のアンテナを事業やお金の動きにも広げてみてください。
そうすると、「こんなに面白い世界があったのか」「エンジニアリングで解決できる事業課題がこんなにあるんだ」と気づけるはずです。その視点を持てるようになれば、プレイングマネージャーのポジションを前向きに楽しめるのではないでしょうか。

――最後に、現場で奮闘しているプレイングマネージャーや、これからその役割を担う読者へメッセージをお願いします。
安藤:プレイヤーとして高い成果を出し続けるためにも、マネジメントの世界を知っておいたほうが絶対にプラスになります。実際、マネージャーを経験してからプレイヤーに戻ったエンジニアたちも、口を揃えて「マネジメントの景色を知っているかどうかで、アウトプットの質がまったく違う」と言っています。
ただ、マネジメントやプロジェクトリードの役割は、自ら手を挙げてなるというより、周囲からの信頼の積み重ねによって「任される」ポジションです。だからこそ、まずは日々の仕事を通じて目の前の信頼を一つひとつ積み上げることから、ぜひ始めてみてください。
取材:中薗 昴、王 雨舟
執筆:中薗 昴
編集:王 雨舟
撮影:山辺 恵美子


