プログラマー
フリーソフト・シェアウェア開発者
たかぼー
静岡県浜松市在住。システムエンジニア、プログラマーとして長年ソフトウェア開発に携わる。個人としては「TAKABO SOFT」名義にて、ドット絵エディタ「EDGE」や、シェアウェア「EDGE2」を開発。2007年にはMIDI専用シーケンサー「Domino」を公開。2026年には「Edge3」のアーリーアクセス版をリリースするなど、本業の傍らクリエイター向けツールの個人開発を続けている。プレイステーション5で『ヘルダイバー2』というゲームを長らくプレーしている。
約25年間にわたり開発が続き、クリエイターやインディーゲーム開発者から長らく愛されている、「EDGE」というドット絵エディタシリーズがあります。
無料で、その手軽さと軽快な動作で広く普及した初代「EDGE」。2005年に登場した、高機能なシェアウェア「EDGE2」。そして2026年には、完全新作となる「Edge3」のアーリーアクセス版が、PCゲームプラットフォーム「Steam」でリリースされました。
▲2026年にアーリーアクセスにてリリースされたEdge3
これだけ長い期間にわたり、同じ作者が3回(※)もドット絵エディタをフルスクラッチにてつくり直した理由は、何なのでしょうか? ひょっとすると、PCスペックの向上や、インディーゲームの隆盛に伴う表現手法の高度化の中で、「今の時代のクリエイターのニーズに合ったものを提供したい」と考え続けてきたから……?
しかし、そんな質問をすると、作者・たかぼーさんは「ニーズなんて私に分かるわけないじゃないですか(笑)」と答えます。ではなぜ、四半世紀も開発を続けてきたのか? その根底にある技術者としての探求心と、ユーザーとの不思議な距離感に迫りました。
(※):ポケットPC向けドット絵エディタ「EDGE Pocket」 「EDGE Pocket2」と iPhone向け「EDGE touch」を含めると5回。
EDGE1の誕生:「自分にドット絵が描けないのはツールが悪い」
――本日は「EDGE」シリーズの約25年にわたる歴史について、お話をお聞きできればと思います。
たかぼー:はい! よろしくお願いいたします。
▲無料ソフトだった、初代EDGE
――2001年にフリーソフトとして公開された初代「EDGE」ですが、そもそもどのようなきっかけで開発を始めたのでしょうか。
たかぼー:あれは、勘違いの連続から生まれたツールなんです。
発端は、当時アスキーから発売されていた『TECH Win』というパソコン雑誌です。この雑誌ではゲーム制作の特集企画が頻繁に組まれており、付録のCD-ROMにはゲーム開発に使えるドット絵エディタとして「IDraw」というツールが収録されていました。
これが、当時の私や友人の間で「すげえ!」とブームになりまして。
――どのような点に惹かれたのでしょうか。
たかぼー:操作性が直感的だったことに加え、雑誌上でIDraw自体がアップデートされていくプロセスが魅力的だったんです。
雑誌の号数が進むにつれてバージョンが2、3と上がっていき、新しい機能が追加されていくのをリアルタイムで追うのは、なんというか、「デアゴスティーニ」みたいで面白かったんですよね。
そして、私は当時ゲームをつくっていたので、IDrawを使ってドット絵に挑戦することになりました。
ところが、ここで問題がひとつ発生します。
――何が起きたのでしょう。
たかぼー:まともなドット絵が全く描けなかったんですよ。
市販のゲームで見かけるクオリティのものが、出来上がらない。
これは単純に、自分の画力や絵心が圧倒的に足りないからです。当たり前の話ですよね。
しかし、当時まだ高校生で未熟だった自分は、こんな風に考えるんです。
「これはひょっとすると、ツールのせいじゃないか?」と。
――腕前ではなく、IDrawのせい……!?
たかぼー:今思えばIDrawの作者さんには実に申し訳ないのですが、よからぬ他責をしてしまったんです。
私は「ツール側の制作支援機能さえ充実していれば、自分だって上手くドット絵を描けるはずなのに……!」という幻想を抱き、そうした機能を備えたドット絵エディタを自らつくることに決めました。
つまり「EDGE」は、「自分の下手くそさを受け入れられなかった」がゆえに生まれたツールなんです。
そして、きちんとピクセルアートの研鑽を積んでいない「ただのドット絵好きな奴」が自分のために設計したツールなので、本物のドッターからするとセオリーから大きく逸脱した「勘違い機能」がいくつも備わってしまいました。
――「勘違い機能」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
たかぼー:例えばですが、ドット絵の定番テクニックに「アンチエイリアシング」がありますよね。色の境界部分に中間色を配置して、ギザギザとした「ジャギー」を目立たなくする手法です。
当時の私はこの手法について「要するに、境界をぼかせばいいんだろ?」と単純に考え、お手軽にアンチエイリアスを施すことを目的として、「ぼかす」機能を実装しました。本来のドット絵におけるアンチエイリアスは、制作者が全体のバランスを見ながら手作業で1ドットずつ中間色を打っていくのが常識なのに。もちろん、ツールが機械的にぼかすだけなので、境界線にかけたところで綺麗に馴染まないことがままあります。
――ただ、初代「EDGE」は当時から高い評価を得ていました。例えば、よく聞くところでは「動作の軽快さ」です。ご自身でも、軽さは意識されていたのでしょうか。
たかぼー:そうですね。とにかく「軽いツール」にしようと強く思ってはいました。
スクロール操作における画面の追従性や、カーソルを動かして描画した際のレスポンスにおいて、極力処理落ちやもたつきを発生させない、というのは絶対に外せない目標のひとつでしたね。
――当時のPCのメインメモリは数十MB〜128MB程度が主流だったかと思います。その制約下で軽快な描画を実現するのは、大変だったのではないでしょうか。
たかぼー:それは「EDGE」をつくる前、高校のコンピュータ部時代に「デモシーン」に触れた経験が大きいですね。これはプログラムコードの最適化を駆使して、リアルタイムで音楽と映像を生成し、その技術や芸術性を競う文化です。
グラフィックボードが存在しない時代なので、アセンブラをガリガリと書き、CPUの演算能力だけで複雑な3Dを描画するのです。限られた容量下でとにかくリッチな映像生成を行う「メガデモ」や、64キロバイト容量の「64k intro」といったジャンルが知られています。
これに惹かれた当時の私は「デモシーン職人たちに完全に追いつくのは無理でも、手法の一部だけでも自分の血肉にしたい」といろいろと勉強していました。
結果、その時に習得した最適化テクニックの一部が、EDGEの軽さにつながっています。例としてWindows標準のグラフィックAPIに頼らず、メモリ上の配列操作だけで直接画面を書き換える、というような処理です。
――そういえば、ペイントツール「FireAlpaca」の作者さんも、以前の取材で「90年代にメガデモにハマっていた」とおっしゃっていました。
たかぼー:FireAlpaca!? いやあ、お絵描きツールをつくる人は、やはりそこを一回通るんですかね? そのようなつながりがあるとは。ちょっと今、痺れました、私。
――ちなみに、ご自身のドット絵制作を支援するためにつくった「EDGE」ですが、ツールを完成させた後、ドット絵は上手く描けるようになったのでしょうか。
たかぼー:全く描けませんでした。 もしも今すぐ世界のドット絵ツールの開発者を全員集めてドット絵を描かせ、「誰が一番上手いかランキング」を決めたら、私がビリになると思います。
EDGE2への進化:「有料にしてもみんな買ってくれるのか?」
――その後、2005年に高機能版である「EDGE2」を公開しました。まず、その経緯についてお教えください。
たかぼー:「EDGE」のサポート掲示板に様々な要望が日々寄せられる中で、初代のデータ構造や拡張性のままではどうしても実現が不可能な機能がいくつか出てきた、というのが大きな理由です。
その最たるものが「フルカラー画像への対応」でした。初代「EDGE」はあくまで256色以下の画像を対象としたツールでしたから、1677万色を扱うフルカラー画像を編集できるようにするには、プログラムを根本から書き直す必要がありました。
▲シェアウェアで多機能の「EDGE2」
――そこで、有料の「シェアウェア」という形を選択したのは、どのような心境からだったのでしょうか。
たかぼー:これは結構悩んだところではあるのですが。
「EDGE」は先ほどのTECH Winに取り上げられたこともあって、多くの方に使っていただけるようになりました。
しかし開発を続けるうちに私は、「このツールが広く受け入れられているのは、本当にツールが優れているからなのか? 単に無料だから使ってくれているだけなのでは?」と、気になるようになったんですね。「お金を支払ってでも、私のつくったソフトウェアを求めてくれる人々が世の中にいるのか」を、確かめてみたかった。
また、有料化を検討していた時期は、プロのエンジニアとして就職し、働き始めたタイミングでもありました。個人開発とはいえ、一応はプロなのに技術を毎回無料で提供し続けることに対して、「自分を安売りしているんじゃないか?」という葛藤もあったんですね。そうした背景から、有料化に踏み切りました。
――お金を支払ってでも求められるのか、という挑戦だったのですね。そんなEDGE2は有料のソフトになり、ユーザーへのサポートや機能追加の要望への対応もより本格的になったのではないかと思います。20年間以上のアップデートの歴史の中で印象に残っている、ユーザーからの要望などはありましたか?
たかぼー:要望にはかなりの数、対応した気がするのですが、正直、具体的にどんな機能を追加したかはほぼ覚えていないんです。
むしろ「実装を見送った要望」ばかりが記憶に残っていますね。
――どのような要望の実現を見送られたのでしょうか。
たかぼー:例えば、画像の半透明を指定する「アルファチャンネル」です。
当時から「入れてほしい」という声が寄せられていましたが、検討の結果見送りました。
理由はまず、当時のPC環境において、描画の快適性を損なわずに処理する方法を思いつかなかったから。
もうひとつは、実装のための仕様が分からなかったことです。
いや、「PNG画像として書き出す際、背景を半透明にしたい」という意図なら理解できますよ。しかし、そこにドット絵エディタ特有の「レイヤー」が絡んでくると、処理の正解が分からなくなるんですね。
例えば、赤の50%の透明度で塗られたレイヤーが2枚重なった時、画面上に最終的に出力されるべき色は一体何でしょう? システムとしてインデックスカラーのまま合成するべきか、フルカラーとしてブレンドして中間色を生成すべきか? どんな処理をお望みですか?
このように掲示板で直接ユーザーに聞いてみましたが、具体的な答えが返ってくることはありませんでした。
――当時はまだ、デジタルアートの領域においてもドット絵における半透明表現の共通認識やセオリーが確立されていなかったから、というのもあるのでしょうか。
たかぼー:そうですね。そもそも「ドット絵に対してアルファチャンネルのような曖昧なデータを使っていいのか?」という議論すら真面目に存在していた時代です。「特定の1色を透過色として指定する手法こそがドット絵の本質であり、半透明グラデーションなど許さん」と考える方もいらっしゃったと思います。
――他に記憶に残っている「見送った要望」はありますか?
たかぼー:例えば、「別の設定画面を挟まず、キャンバス上で直接マウスドラッグして回転やリサイズをしたい」という要望です。
「EDGE2」ではリサイズ時、専用のダイアログ画面を開いて数値を入力する方式でした。ダイアログを開いている間は他の操作を受け付けないため、プログラムの管理が楽なんです。
ところが、これをキャンバス上で直接変形できるようにすると、変形の途中でユーザーが別の機能を使ってしまった時などに予期せぬデータの衝突が起きます。
こうした複雑な状態管理はソフトウェアの基礎構造に関わるため、後付けでの実装は不可能だと判断して見送りました。
――ちなみに、「お金を支払ってでも自分のツールは求められるのか」という、有料化に際して立てた実験の問いですが、長年の販売を経て、ご自身の中で答えは晴れたのでしょうか。
たかぼー:そこは結局、よく分からない感じです。
そもそも「ドット絵を描くユーザーの人口」という、ニッチな市場の母数が誰にも分からないですよね。そのため「ここまで売れれば、私のツールは強く求められているんだろう」という合格ラインを設けることができないことに、後から気がつきました。
ありがたいことに全く売れなかったわけではないので「まあまあ、こんなものか」という、なんとなくの感触がある感じです。
Edge3の登場:「Aseprite時代」に舞い降りて
――そして2026年、完全新作である「Edge3」のアーリーアクセスが開始されました。いつから、どんな理由で、また新たなドット絵エディタのフルスクラッチに踏み切ったのか教えてください。
たかぼー:いつ頃から、というのは難しい質問なんですね。
まず、ある種の「罪悪感」を次第に抱えるようになった、というのがあります。
なにせ、2010年代に入っていくと、PCには論理コアがいくつも搭載されるようになりました。しかし「EDGE2」を動かしてタスクマネージャーを見ると、ひとつのコアしか使っていない。また、高DPI環境に対応しきれていなかったこと。Shift_JISベースのままで、Unicodeにもちゃんと対応できていなかったこと、など……。
こうしたモダンな環境に対応できず、ハードウェアの性能を生かせていないことに対するもやっとした思いがあったのです。
――その罪悪感が、新たなエディタをつくる原動力に?
たかぼー:加えて、かつて使っていたWindows向けのUIフレームワーク「MFC」への鬱憤もありました。
これは、とにかくUIの描画周りの仕様が古臭くて。例えば、ツールバーにコンボボックスを置くにも、直接は配置できず「一度セパレーターを置いて幅を指定し、できた空き地の上にコンボボックスを子ウィンドウとして重ねる」といった裏技を使わなければならなかったりと、開発の足を引っ張られていたんです。
つまり、UIを今風に綺麗にしたいと思っても、外部のフレームワークの仕様が、そのままツールの「上限」になってしまう。そうやってフレームワークに縛られるのが嫌になってきたんですね。やがて「MFCを使わずにアプリケーションをつくりたい!」という欲求が芽生え、UIフレームワークを自作するところから始めました。
それで、「スクロールバーを実装するだけで、土日が潰れる」というようなことをずっとやっていました。
――UIフレームワークからそのようなリソースを……。現代環境ならば、ElectronなどのWeb技術を使ってアプリをつくる選択肢もあったのではないでしょうか。
たかぼー:もちろん検討しましたが、最終的にはWindows固有のC++アプリにしました。 ドットエディタの特性上、「ピクセルパーフェクトで描ける」ということが絶対条件になるからです。
そこにWebブラウザの技術が一枚噛んでしまうと、OSのディスプレイ設定などに合わせて「あ、俺、ブラウザなんで勝手にズームしておきますね!」と、ツール側の意図しないところでおせっかいな拡大縮小機能が働いてしまう可能性があるんです。最後の最後でブラウザに裏切られるかもしれないと思うと、自分のツールのすべてを載せることには抵抗があった。
あとは、JavaScript環境などにみられるガベージコレクションへの懸念です。意図しないメモリ消費や処理の停滞を避け、自分で確実にメモリを管理して長期間快適に動かすには、やはりC++だろうという判断もありました。
――20年ぶりの新作となると、機能面でも現代のニーズに合わせた追加が多かったと思います。最近のドット絵制作におけるトレンドは、どの程度意識されていたのでしょうか?
たかぼー:私自身はドット絵の界隈からかなり離れ気味だったので、開発にあたって改めて調べ直しました。ただ、Asepriteというツールが海外を中心に流行っているというのはX(旧Twitter)などで見かけてなんとなく知っていました。
▲Aseprite。2014年に正式リリースされた高機能なドット絵・アニメーション制作ツール。Spineなどの2Dアニメーションソフトや、Unity等のゲームエンジンとの連携に優れ、インディーゲーム開発において広く普及している。画像はSteam内からスクリーンショット
たかぼー:なので、「Edge3」にもAsepriteが得意としているようなモダンなアニメーション機能は意識して取り入れています。例えば、1つのファイルの中に「歩く」「走る」「攻撃」といった複数のモーションを同居させて管理する機能や、現代のゲームエンジンでの利用を念頭に置いた、スプライトシート機能ですね。また、描いたパーツを福笑いのように組み合わせて動かす、スプライトアニメーションの機能も実装しました。
▲スプライトによる、アニメーション作成機能
たかぼー:とはいえ、そうした機能をなんでもかんでも追加することには、かなり慎重になりたい、との思いもあります。
――なぜでしょうか。
たかぼー:例えば現在、「Asepriteにあるような、タイムラインの特定の区間だけをループさせるタグ機能が欲しい」とか、「セルごとに重なり順をZインデックスで細かく調整したい」といった要望が来ています。
でも、私の中には「みんな、本当にそんな機能を使いこなせるの?」という疑問があるんです。
前作の「EDGE2」では長年、さまざまなユーザーからの機能要望に応えて、いろいろな機能を詰め込んできました。
しかし、それが結果的にソフトウェアとしての体験やユーザーの満足度を下げてしまっているんじゃないか? という気がしているんです。「せっかく備わっているこの便利機能を使わないと、自分はこのソフトをちゃんと使いこなせていないんじゃないか」と、謎の後ろめたさやプレッシャーを感じさせてしまうのではないか、と。
実際、EDGE2をお使いの方から「多機能すぎて使いこなせていません」という声も、たびたび聞きます。要望に沿ってさまざまな機能を追加したつもりが、結果的に、自信を持って誰もが「使いこなしています」と言い切れない状態にさせてしまっている。そんな状態で良いのか? との葛藤があります。
なので「どこまでやるべきか?」というのは、開発者として常に悩ましく思っていますね。
「Aseprite」は、「EDGE」を終わらせてくれなかった
――今回、同じシリーズを3回もフルスクラッチでつくり直しているということで、恐らく個人開発者としては最長クラスでドット絵ツールをつくってきた方だと思いまして。だからこそ、「ドット絵文化の変化に伴い、ドッター側のニーズはどう変化してきたのか」を体系的にお聞きしたいな、とも考えていたのですが。
たかぼー:はい。
――本日のお話を通して薄々感じているのですが、ひょっとすると……。
たかぼー:お察しの通り、分かりません! 強いて言えば、「いつの時代も人によって違う」というのが答えです。
だってそんなの、私に分かるわけないじゃないですか(笑)。自分の観測している範囲で「こういう意見を見た」ぐらいは語れますが、それは決して、ドット絵に関わる人々の総意ではありません。むしろ、人によってニーズがあまりにも違うので、「EDGE」のサポート掲示板には多種多様な要望が寄せられ続けてきたわけです。
ただ、だからこそ、世界的なスタンダードとされるAsepriteがあるのに、いまだに「EDGE」シリーズを使い続けてくださる方がいるんでしょうね。
――というと?
たかぼー:本当なら、Asepriteのような高機能ツールが登場した時点で、私の役割は終わっていたはずだったんですよ。「ああ、もうEDGEでは何もしなくていいかもな」と。
しかし、英語ベースのUIや日本語入力のしづらさなど、細かな使い勝手が合わずに、Asepriteへと移行しきれない人たちが、結構な数いらしたのです。そして結局「EDGE」に帰ってきて「『EDGE2』にAsepriteのあの機能を付けてください」との要望をお寄せになる。
「いや、その機能は使いたいんかい」とは思いつつ、みなさん、単純な「特定の機能の有無」だけでツールを選んでいるわけではないんだな、と気づかされました。
恐らくクリエイターには、マウスホイールでのズームなど「手に染み付いた癖」があり、ツールを跨ぐと細かな誤操作が起きてしまう。だから、使いたいモダン機能があったとしても、総合的な手触りで「どうしてもこっちじゃないとダメだ」というのがあるんですよね。
ただ、それが人によって違うので、「これさえあれば正解」という共通ニーズが私には分からない。むしろ「これさえ実装すれば全員が満足する」という絶対的な正解があるなら、つくる側としてはよっぽど楽ですから、「ユーザーを捕まえて直接Zoomでヒアリングしようか」と考えたこともあります。
が、どうせ全員言うことが違って収拾がつかなくなるだろうな、と実施していません。
――やはり、ひと言で「ドット絵エディタにはこれが求められている」と言うことは難しいんですね。
たかぼー:はい。 とはいえ世の中のドット絵エディタが進化し、「Edge3」にも実装した方がよさそうな、新しい機能がいくつも登場しているのは確かです。ですが、詰め込み過ぎるのも怖い。どれが本当に必要かも分からない。
ということで、どこを落としどころにするかを探るために、とりあえず70点の状態でSteamにアーリーアクセスとして「Edge3」を公開してみたんです。そして「何か改善すべきことがあれば言ってください!」というスタンスですね。
――最後に、今後の「Edge3」の開発に向けた意気込みをお願いします。
たかぼー:大それた意気込みは特にない、というのが正直なところです。
アーリーアクセスなので様子見しつつ、例によってユーザーの声は拾い上げていきます。
また、実装に慎重にはなりたいとは言いましたが、現実問題、多くの要望については「やるしかない」と思っています。では多機能化による懸念をどうするかというと、ひとつの解としては「この機能はこう使うとこんな良いことがありますよ!」ということがわかるマニュアルやガイドを充実させていくことだと考えています。
今、試行錯誤しているところについて言うと、例えば「素材管理」の機能。前作の「EDGE2」には本来アニメーション用に用意した「ページ機能」があったのですが、これがユーザーの間ではもっぱら素材管理として使われていました。
そのため「Edge3」でも、「ファイル全体でレイヤーを共有する仕様じゃなくて、ページごとにバラバラのレイヤー構造にできる機能も欲しい」と言われてしまいまして。対応のために今大工事中(編注:取材後、7月25日リリースのVer.0.9.7にて実装)で、リリース直後なのにすぐファイルバージョンが2に上がりそうです。
何をつくればいいのかはっきりとは分からない以上、こうした試行錯誤はずっと続くと思います。
もちろん、どこかで正式版にしないといけないのですが、個人開発ゆえにゴールポストは自分で動かし放題ですので。どこにゴールを置こうか、しばらくはグラグラしていると思います。
取材・執筆:田村 今人
編集:王 雨舟