
山下(Seamless)
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米テキサス大学オースティン校などに所属する研究者らが発表した論文「Discontinuous Prior-Mode Sections and the Geometry of Ambiguity in Intrinsic Image Decomposition」は、写真のドレスが人によって「青と黒」にも「白と金」にも見える現象の原因を、AIと数学の視点から解き明かしたという研究報告だ。
どっちに見える? 画像空間の中に生まれる「境界線」
2015年にインターネット上で話題になった「あのドレス」。同じ写真を見ているのに、人によって青と黒に見えたり、白と金に見えたりする不思議な現象で知られる。 人間は、画像を見る際、目に入った色を、物体本来の色(反射率)と周囲の光の色(光源)の組み合わせへと自動的に分解している。しかし、1つの画像に対して光と色の組み合わせは無数に存在するため、脳は過去の経験(事前分布)をもとに、可能性の高い解釈を1つ選び出している。
ほとんどの画像では、一番自然な分解は1つに決まる。しかし、このドレスのような画像では、青黒の表面と白金の表面の2つの解釈が、もっともらしさでほぼ互角になる。その結果、画像空間の中には境界線が生まれ、その線をまたぐと最適解が一方からもう一方へ不連続にジャンプする。
▲画像空間に存在する曖昧性の境界線の図(論文内よりスクリーンショット)
この現象を数学的に分析するため、研究チームはチホノフ正則化という枠組みを用いた。これは、「AIは急激に変化する答えを学習できず、滑らかな関数で近似するしかない」という性質を数学的に表現するモデルである。
分析の結果、AIが境界線をまたぐ答えの切り替わりを滑らかに近似する代償として、入力の変化に対する出力の敏感さを示す「ヤコビアン」や、AI内部でのデータ軌跡の曲がり具合を示す「フレネ曲率」が、境界付近で鋭く跳ね上がることを数学的に証明したという。
つまり、曖昧なものを無理やり1つの滑らかな答えに押し込めると、そのしわ寄せが境界のすぐそばでの数値の跳ね上がりとして必ず表面化することを数式で示した、とされている。
アーキテクチャの異なるAIでも同じ事象
論文によると、この理論は、実際のAIモデルを使った実験でも裏付けられている。約2,000枚の画像・2,000万ピクセルのデータを用いた画像分解AIの検証では、色温度を変えたときのAIの敏感さ(ヤコビアン)が、アルベド(物体本来の色)の予測誤差と相関を示した。
しかも、明るさや彩度の影響を統計的に取り除いてもこの相関は残った。一方、逆に色温度の影響を取り除くと、明るさや彩度の敏感さは誤差とほぼ無相関になった。つまり、解釈を分ける軸は、明るさでも鮮やかさでもなく、光の色温度だったのだ。この傾向は、アーキテクチャの異なる拡散モデル型の画像分解AIでも同様に確認されているとのこと。
さらに、研究チームはドレスの画像の照明の色温度を少しずつ変化させた画像群を画像認識AI「CLIP」に読み込ませる実験を行った。その結果、元写真が撮影された際の自然光(標準光源D65、6504K)にほぼ一致する6473Kの地点で、AIの潜在空間におけるデータの軌跡が急激に折れ曲がる(フレネ曲率が鋭いピークを示す)ことがわかったという。
つまり、人間の知覚が青黒と白金に分かれるドレス写真の、撮影時の照明(D65)のごく近くで、AIの潜在表現の軌跡が急激に向きを変えた。これは、AI内部でも2つの解釈の間の切り替わりに相当する現象が起きていることを示唆する。
▲色温度を変化させたドレス画像をCLIPで解析した結果(論文内よりスクリーンショット)
Source and Image Credits: Chen, Z., Liu, L., Zhan, Q., Hu, M., & Geng, L. (2026). Discontinuous Prior-Mode Sections and the Geometry of Ambiguity in Intrinsic Image Decomposition. arXiv preprint arXiv:2607.10321.
アイキャッチ画像背景:Figure design by Kasuga~jawiki; vectorization by Editor at Large; "The dress" modification by Jahobr CC BY-SA 3.0 Source:Wikimedia Commons

