
山下(Seamless)
2014年から幅広い分野の研究論文をピックアップして解説しているメディア「Seamless」を個人運営。 X(@shiropen2)でも更新情報を発信中。
英オックスフォード大学やニューヨーク市立大学などに所属する研究者らがPNASで発表した論文「Resolving Feynman’s restaurant problem reveals optimal solutions and human strategies」は、約50年間未解決だったリチャード・ファインマンのレストラン問題の最適解を解読し、人間の実際の行動と比較した研究報告だ。
▲絵:おね
ジンジャーチキンにしようか、新メニューにしようか→数学問題化
1970年代、物理学者リチャード・ファインマンと、友人ラルフ・レイトンがタイ料理店で昼食中、レイトンがいつものジンジャーチキンを頼むか、新しいものに挑戦するか悩んだのが発端。ファインマンはその場でこの悩みを数学の問題に変えて解いてしまった。ただ論文にはせず、手書きメモだけが残り、それが50年近く解読されないままだった。
しかし、今回の研究によってその全貌と最適解が解読され、さらには人間の意思決定の仕組みについても明らかになった。研究者らは今回、同じ店のメニュー選択を次の問題に置き換えて分析している。
ファインマンの最適解は
具体的には、ある都市に何泊か滞在する人が、毎晩どのレストランで食事をするかを選び、滞在を通じた満足度の合計を最大化しようとする状況を想定している。未知の新しい店を試すか、これまでで良かった店に戻るか、というレストラン選択問題に置き換えているのだ。
ファインマンが数学を用いて導き出した最適解を解読した結果、次のようなことがわかった。結論から言うと、残り日数に合わせて新しい店を開拓するための合格ライン(閾値)を徐々に下げていくのがベストな戦略ということだ。
最初は合格ラインを高く設定して新しい店を探索し、その基準を超える美味しい店に出会ったら、残りの日数は冒険をやめてすべてその店に通い続ける。残り日数が少なくなるにつれて、「この辺で手を打とう」と徐々に合格ラインを下げていく。残り日数をnとしたとき、この最適な合格ライン t_n は以下の数式で計算される。
▲ファインマンが導いた最適解
では、人間は実際にこのような状況に直面したとき、頭の中でこの数式を計算しているのだろうか。研究チームが2,520人を対象に実験を行った。参加者には都市に7泊、14泊、28泊のいずれかで滞在する設定のもと、毎晩レストランを選んでもらった。
その結果、人間は数学的最適解ではなく、よりシンプルで独自のルールを使って決断していることがわかった。具体的には、数式が示すような複雑なカーブを描いて基準を下げるのではなく、残り日数の割合が減るのに比例して、一定のペースで直線的に妥協していくという戦略をとっていた。
さらに、人間はただ単純に妥協するわけではなく、その街のレストランの質のばらつき方や当たりの出やすさを察知し、それに応じて最初の合格ラインの高さを上げ下げしていた。また、数学的な正解が示すよりも、最初の数日はとりあえず色々試してみようと少し多めに冒険する傾向があることも判明した。
特筆したいのは、この人間が自然に使っている、直線的に妥協するというシンプルなルールが、ファインマンが導き出した複雑な計算結果とほぼ変わらないほど優秀なスコアを叩き出したこと。脳のエネルギーを節約するために計算をある程度シンプルにしながらも、無意識のうちに現実世界でしっかりと結果を出せる、優れた戦略を採用していると考えられる。
Source and Image Credits: B. Christian,E.M. Russek, & T.L. Griffiths, Resolving Feynman’s restaurant problem reveals optimal solutions and human strategies, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123 (23) e2509612123, https://doi.org/10.1073/pnas.2509612123 (2026).