株式会社 REUNION SOFTWARE 代表取締役
Software Engineer

吉井 健文

2025年3月 までフロントエンドリードとして、数々のプロジェクトをNext.jsアプリケーションにリプレース。「フロントエンド開発のためのテスト入門(翔泳社)」など、3冊のフロントエンド関連書籍を執筆。2024年10月株式会社 REUNION SOFTWARE創立。

Zenn:Takepepe @Takepepe GitHub:takefumi-yoshii

フロントエンド開発におけるUIコンポーネントの組み立ては、体験としてとても快適です。UI を部品として扱うだけでなく、状態やデータ取得を整理しながら開発できるため、画面を素早く形にしやすくなります。一方で、その便利さゆえに、最終的にブラウザへ出力される HTML を丁寧に見る機会が減りやすいのも事実です。

とくに、Web フロントエンドに明るくないエンジニアがその実装に触れる場合「とりあえず表示されているから問題ない」と判断してしまうことも多いのではないでしょうか。「ボタンにすべき場所を div で実装していないか?」「見出し構造が崩れていないか?」「フォーム部品に適切なラベルがあるか?」といった観点は、見た目だけでは判断しにくいものです。

また、Next.js の開発では eslint-plugin-jsx-a11y などの linter から、セマンティクスやアクセシビリティに関する指摘を受けることがあります。こうした警告は単なる作法ではなく、キーボード操作、スクリーンリーダー対応、検索エンジンや保守性まで含めた「より意味のあるマークアップ」を促す知見でもあります。言われた通りに修正するだけではなく、その背景にある原理を理解しておくと、判断もしやすくなるでしょう。

さらに、App Router や Server Components を使う現代の Next.js では、UI の責務分離やデータ取得方法に注目が集まりやすい一方、HTML の基本原則は変わりません。どれだけモダンなフレームワークを使っていても、最終的にユーザーエージェントが解釈するのは HTML です。だからこそ、フレームワークの学習とは別に、マークアップそのものの意味を学び直す価値があります。

今回は、Next.js 利用者と、Web フロントエンドをこれから強化したいバックエンドエンジニアに向けて、アクセシビリティとセマンティクスの理解を深めるための3冊を紹介します。実装テクニックを断片的に集めるのではなく、「なぜそのタグを使うのか」「なぜその構造が望ましいのか」を説明できる状態を目指すための選書です。

書籍リスト
1.『Webアプリケーションアクセシビリティ──今日から始める現場からの改善』伊原力也、小林大輔、桝田草一、山本伶 著
2.『デザイニングWebアクセシビリティ』太田良典、伊原力也 著
3.『HTML解体新書』太田良典、中村直樹 著

推奨する3冊の読み進め方

本稿ではアクセシビリティとマークアップを学ぶために「実務で必要な改善視点 → より広い設計思想 → HTML そのものの仕様理解」という順序で整理します。最初から仕様書的な知識だけを追うと、現場で何に効くのかが見えにくくなります。逆に、実務上の課題だけを追うと、判断基準が場当たり的になりやすくなります。

そのため、まずは『Webアプリケーションアクセシビリティ』で、日々の開発で起きやすい問題と改善の勘所をつかむのがおすすめです。次に『デザイニングWebアクセシビリティ』で、より広いユーザー像と設計思想を学び、アクセシビリティを要件として扱う視点を得ます。最後に『HTML解体新書』で、要素や属性の意味、ブラウザによる解釈の前提を押さえると、Next.js 上での実装判断に根拠を持ちやすくなります。

この読み順の利点は、セマンティクスとアクセシビリティを別々の知識として扱わずに済む点にもあります。適切な HTML を選ぶことが支援技術への伝達につながり、その結果として操作性や保守性も高まる、という関係を一続きで理解しやすくなります。見た目の再現だけで終わらないフロントエンド実装を目指す上で、実務と原理を往復できる構成です。

現場視点で見るアクセシビリティの勘所

▲『Webアプリケーションアクセシビリティ──今日から始める現場からの改善』伊原力也、小林大輔、桝田草一、山本伶 著、技術評論社

本書は、Web アプリケーション開発の現場でアクセシビリティ改善をどう進めるかを、実践的な観点から学べる一冊です。理想論だけでなく、既存プロダクトにどう向き合い、どこから手をつけるかという現実的な視点が含まれているため、業務に結びつけやすいのが特徴です。

Next.js を使った開発でも、モーダル、フォーム、通知など、アクセシビリティ上の配慮が必要な場面は多くあります。これらは見た目が整っていても、フォーカス管理や読み上げ順、ラベル付けが不十分だと使いにくい UI になり得ます。本書は、そうした「動いているのに使いづらい」状態を見抜く視点を育てるのに向いています。

また、バックエンド出身のエンジニアにとっては、アクセシビリティがデザイン上の配慮ではなく、仕様・品質・利用可能性の問題であると整理できる点も有益です。特定のユーザーだけのための対応としてではなく、入力、遷移、通知、エラー表示をどう設計するかというアプリケーション全体の品質課題として捉えやすくなります。

本書で得られる知識とスキル

1. 日常開発での改善観点
フォーム、ダイアログ、ナビゲーションなどで見落としやすい論点を整理しやすくなります。
2. レビュー時の観点整理
UI レビューで「何を確認すべきか」を具体的な項目として持ちやすくなります。
3. 段階的改善の進め方
新規開発だけでなく、既存機能をどう改善するかの優先順位づけに役立ちます。
4. 支援技術を意識した設計
スクリーンリーダーやキーボード操作を前提にした実装判断を考えやすくなります。
5. チームでの共通言語化
アクセシビリティ上の問題を感覚ではなく根拠付きで説明しやすくなります。

アクセシビリティを設計要件として考える

▲『デザイニングWebアクセシビリティ』太田良典、伊原力也 著、ボーンデジタル

本書は、アクセシビリティを個別の修正項目としてではなく、Web を設計する上での前提条件として捉えるための書籍です。障害の有無に限らず、多様な利用状況や環境差を含めて考える視点が得られるため、UI 実装の背景理解を深めるのに適しています。

Next.js では、デザインシステムやコンポーネントライブラリを導入して画面を統一することがありますが、部品化が進むほど「再利用できるが使いにくいコンポーネント」が生まれるリスクもあります。たとえば、見た目の統一を優先した結果、見出しレベルやリンクテキスト、コントラスト、エラーメッセージの扱いが不適切になることがあります。本書は、そうした問題を局所修正ではなく、設計原則として捉え直す助けになります。

さらに、Web フロントエンドに不慣れな人ほど、アクセシビリティを「後から足すチェック項目」と認識しがちです。しかし実際には、情報設計、文言設計、検証フローに早い段階から組み込む方が効率的です。本書を通じて、アクセシビリティを品質保証や UX 設計と地続きの活動として理解しやすくなります。コンポーネント設計に関してはスコープ外ですが、基礎的な考え方を身につけることができます。

本書で得られる知識とスキル

1. 多様なユーザー理解
利用者の身体特性や利用環境の違いを前提に設計を考えやすくなります。
2. 要件としてのアクセシビリティ理解
実装後の修正ではなく、設計段階で織り込む発想を持ちやすくなります。
3. 情報設計の改善
見出し、ラベル、文言、説明文の役割を整理しやすくなります。
4. 継続的な検証の視点
デザインレビューや実装レビューにどう組み込むかの考え方を得られます。

HTML の意味を理解し、フレームワークの外側にある土台を固める

▲『HTML解体新書』太田良典、中村直樹 著、ボーンデジタル

本書は、HTML の各要素や属性がどのような意味を持ち、ブラウザやユーザーエージェントにどう解釈されるのかを丁寧に学べる一冊です。普段なんとなく使っているタグを仕様レベルで見直せるため、セマンティクスを根本から理解したい人に向いています。

React や Next.js を中心に開発していると、<div><span> を多用しながら、必要に応じて ARIA 属性で補う実装に寄りがちです。しかし、本来は適切なネイティブ要素を選ぶことが第一選択になる場面も多くあります。buttonformlabelmainsectionarticlenav などの意味を理解すると、余分な実装や過剰な補助属性を減らしやすくなります。

とくに、バックエンドエンジニアがフロントエンドへ関わる際には、JavaScript の制御より先に HTML の役割を理解しておくと、UI 実装の迷いが減ります。どのタグを選ぶかは単なる書き方の違いではなく、ブラウザの既定動作、支援技術への伝達、保守性に影響する判断です。本書は、その土台を着実に補強してくれます。

本書で得られる知識とスキル

1. 要素選定の根拠整理
どのタグを選ぶべきかを見た目ではなく意味で判断しやすくなります。
2. ネイティブ機能の理解
ブラウザが標準で提供するふるまいを活かした実装を選びやすくなります。
3. ARIA 依存の見直し
まず適切な HTML を使い、その上で補助的に属性を使う考え方を持ちやすくなります。
4. 文書構造の把握
見出しやランドマークを含むページ全体の構造を整理しやすくなります。
5. フレームワーク依存からの脱却
React や Next.js の記法の奥にある Web 標準の理解を深められます。

まとめ

改めて俯瞰すると、Next.js を使った開発であっても、最終的な品質を支えるのは HTML とその意味づけです。コンポーネント設計、スタイリング、状態管理がどれだけ洗練されていても、マークアップが不適切であれば、操作しにくさや伝わりにくさは残ります。

アクセシビリティの観点では、キーボード操作、読み上げ、エラー理解、情報の見つけやすさなど、見た目だけでは捉えにくい品質を扱う必要があります。セマンティクスの観点では、要素の意味、文書構造、ネイティブ機能の活用を理解することが、無理のない実装につながります。これらは別々の話ではなく、同じ Web の基礎を違う角度から見ているものです。

Next.js 利用者にとっては、linter の警告やコンポーネント実装時の迷いに対して、より納得感のある判断ができるようになるはずです。また、フロントエンドに不慣れなバックエンドエンジニアにとっても、「なぜその HTML が望ましいのか」を説明できるようになることで、実装レビューや設計議論に参加しやすくなります。

今回紹介した3冊は、現場改善、設計思想、仕様理解という異なる角度から、アクセシビリティとマークアップの基礎を補強してくれる組み合わせです。短期的には、まず自分の担当画面で div で代用している要素がないか、見出し構造が崩れていないか、フォームに適切なラベルがあるかを見直すだけでも効果があります。その上で、書籍を通じて HTML の原理を押さえると、Next.js の実装はより堅実で説明可能なものになっていくでしょう。