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山下(Seamless)

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ロンドン自然史博物館やオックスフォード大学などの研究者らがNature誌で発表した論文「Dogs were widely distributed across western Eurasia during the Palaeolithic」は、1万5800年前から犬が人類と共に生活していたことを示す最古の遺伝学的証拠を発見した研究報告である。

これまでの最古の遺伝的証拠→中石器時代だったが

犬がいつ、どこでオオカミから分岐し、人類と行動を共にするようになったのか。これまでの研究において、形態学的な証拠から旧石器時代にはすでに犬が存在していた可能性が指摘されていたものの、確実な遺伝的証拠として確認されていた最古の犬は、約1万900年前の中石器時代のものにとどまっていた。

研究チームは、トルコのピナルバシュ(1万5800年前)やイギリスのゴフ洞窟(1万4300年前)から発掘されたイヌ科動物の遺骸から、ゲノムのデータを抽出・解読することに成功した。

https://cdn.blog.st-hatena.com/files/6802418398571665203/17179246901369358491 ▲ゴフ洞窟から出土した約1万4300年前の犬の下顎骨

これらの古代ゲノムを詳細にDNA解析した結果、旧石器時代後期には遺伝的に均一な犬の集団が確立していたことが判明した。トルコとイギリスという遠く離れた2地点の犬は遺伝的にきわめてよく似ており、西ユーラシア全域に広く分布していたことが明らかになった。

https://cdn.blog.st-hatena.com/files/6802418398571665203/17179246901369358493 ▲ユーラシア各地の古代の犬とオオカミの分布と年代

しかもこれらの犬は、遺伝的にも文化的にも異なる3つの人の集団である狩猟採集民で見つかっている。人同士は遺伝的に大きく異なるのに犬は均質だったということは、異なる文化圏の人々の間で犬が行き来していたことを意味する。

さらに、犬の遺骸に対して人間と同様の死後処理や埋葬が行われていた痕跡が確認され、当時の人間と犬との間にあった密接な関係性も浮き彫りになっている。

また、骨のコラーゲンに残された炭素と窒素の同位体を測定することで、長期間にわたる食生活の化学的特徴も明らかになった。ゴフ洞窟の分析データでは犬と人間が類似した栄養段階にあったこと、ピナルバシュの分析データでは犬が魚を豊富に含む食事を送っていたことが判明した。犬が自ら大量の魚を捕獲することは考えにくいため、人間から餌を与えられていた可能性が示唆される。これは人間と犬の親密で協力的な関係を示す証拠である。

時代が下り中石器時代に入ると、東方の狩猟採集民がヨーロッパへと移動したことに伴い、東ユーラシアの犬の血統がヨーロッパに流入したことも明らかになった。この時期の遺伝的な交雑が、現在のヨーロッパにおける犬集団を特徴づける主要な祖先系統の基盤となっている。

Source and Image Credits: Marsh, W.A., Scarsbrook, L., Yüncü, E. et al. Dogs were widely distributed across western Eurasia during the Palaeolithic. Nature 651, 995–1003 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10170-x