ダットジャパン株式会社 「GAMEPACK」シリーズ
開発ディレクター/プロジェクトマネージャー

新田

大手ゲーム会社にて約7年ゲーム開発に携わった後、2020年に、建設分野を中心にソフトウェア開発を手がけるダットジャパン社に入社。エンジニアとしての知見やスキルを生かし、プロジェクトマネジメント・営業・マーケティングなどを幅広く担当。この画像は『エアホッケー』の主人公・ゆうた。

ダットジャパン株式会社公式サイト

2000年代の富士通PCに付属したミニゲーム集『GAMEPACK』。開発元のダットジャパン社(札幌市)は建設関係のBtoBソフト開発が主業で、10年以上前にゲーム事業からは撤退しており、当時の資料も開発メンバーも、社内には一切残っていません。

そんな中、2020年に入社した元ゲーム会社エンジニアの新田さんは、「自社が、幼少期に遊んだ『GAMEPACK』の開発元だった」ことに気づき、社内で浮いた予算を生かして『GAMEPACK』の復活プロジェクトを立ち上げます。

そうして2024年にブラウザ版として復活し、話題を呼んだのが『エアホッケー』という作品。それはオリジナル版のソースコードが「ゼロ」の中、目視やテストプレイの手触りだけで当時のアクションのすべてをUnity上に再構築した執念の産物でした。

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その後の2025年4月。今度は、同じくGAMEPACKに収録されていたローグライクRPG『ラミィの大冒険 Ⅰ&Ⅱ』がリメイクされて発売されました。一部のUIや操作方法はモダン化しつつも、グラフィックや当時のシビアなゲームバランスまで、当時の仕様を忠実に再現しています。

しかしRPGとなると、ダメージ計算式やアイテムのドロップ率といった目に見えないデータや、複雑な状態異常の分岐管理などが伴い「エアホッケーのようにアクションの挙動を目コピすればいい」というわけにはいかないはず。

今回は、原作のソースコードの発掘に成功したのでしょうか? 再びディレクターを務めた新田さんの答えは「案の定」のものでした。

「一切ありませんでした」

絶望的な状況下で開発チームの光となったのは、過去のプレイヤーたちが残したファンメイドの攻略サイト――?

▲『ラミィの大冒険 Ⅰ&Ⅱ リメイク』(Steam内のPVより)。Steam版とNintendo Switch版がある。キャラクターやマップのグラフィックは当時を再現している。

「マスターデータ」なき検証地獄

――前回の『エアホッケー』ブラウザ版への移植は、ソースコードも社内資料も一切残っていない状態からのスタートでした。今回のRPGのプロジェクトにおいては、さすがに当時のソースコードは見つかったのでしょうか。

新田:いえ、今回も一切ありませんでした。

――やはり……。ではソースコードがない中、どのようにしてシステムを構築したのでしょうか。

新田:実際のところ「ダンジョンRPGのゲームエンジンをUnity上でゼロからつくる」という技術的な観点では、そこまで苦労はしていません。

今回は社内外を含め5名の体制で開発を進めたのですが、協力会社のひとつであるHiBiGA社のエンジニアさんが、過去にローグライクゲームを手がけた経験と知見を有していました。キャラクターや背景などの画像素材についても、当時のゲームのバイナリデータから直接抽出した上で高画質化することで、スムーズに用意できました。

そのため、ベースとなるエンジン部分やデザインは、早々に完成しました。

――ゲームの骨格はスムーズに再現できたのですね。では、開発において最も高い壁となったのはどんな部分ですか。

新田:全ての「マスターデータ」が不明だった点です。

モンスターの体力や攻撃力、アイテムを使用した際の効果値、アイテムのドロップ率やフロアごとの出現テーブルなど、ゲームを成立させるための根幹となる数値が何ひとつ残っていませんでした。

そこでまずは「開発メンバー全員、ひたすらラミィの大冒険をプレイする」ことにしました。各数字面を、プレイ感覚と手計算から逆算していく必要があったためです。

実質的な開発期間は3〜4か月でしたが、大半の時間は「ひたすら原作やプロトタイプのテストプレイをし、オリジナルの挙動に寄せる」という検証作業に消えました。

――ソースコードがない以上、パラメータの正解は動かして確かめるしかないわけですね。具体的に、どのような仕様の特定に難儀したのでしょうか。

新田:特に苦労したのは、複数の状態異常が重なった際のエッジケースの処理です。

例えば「毒状態の時に眠らされ、さらに別の敵から『一部アイテムを使えなくなる状態異常』を浴びせられた場合、システム内部でどの効果が優先して処理されるのか」というような処理です。

こうした複雑な状況は、実際に原作と、プロトタイプそれぞれでその場面をつくりだし、結果を観察して仕様を推測するしかありません。開発メンバー各々が、双方合わせて数百回は『ラミィの大冒険』の「Ⅰ」と「Ⅱ」 をクリアしています。

――先の見えない作業に絶望することはありませんでしたか。

新田:そこそこ、ありましたね。取り組むうち「これ、大変なことでは?」と。

しかし検証を開始して1週間ほど経ったころ、ある突破口が見えてきました。

――突破口?

新田:過去のファンの方々が残してくれていた、非公式の攻略サイトです。

ネットを漁ると当時の攻略サイトや記事がいくつか存在しており、どれも非常に参考になりました。中には、モンスターの体力や特殊攻撃の仕様、アイテムのダメージ量などを極めて詳細に記載してくださっているサイトもあったのです。例えば「ラスボスには、あるアイテムのダメージが半分になる」といった例外的な耐性パラメータまで記されている例もありました。

当然全ての数字が網羅されているわけではありませんし、参考にしつつ入力した数値が実際のゲーム挙動と同じか、何度も照らし合わせて検証する作業が必要でした。ただ実際に検証を重ねてみたところ、こうしたサイトに記載されている数値の多くが実際のゲーム挙動と矛盾していないと分かりました。「あ、これ本当に合っているな」と。

当時ここまで緻密に検証して残してくれていたファンの方々の熱量には頭が下がる思いです。もしこうしたサイトがなければ、マスターデータの構築だけであと1か月は追加でかかっていたと思います。

今は「ガラッと変えるフルリメイク」よりも「懐かしさ」を

――技術面やマスターデータ関連以外に、リメイクにあたって苦労した点はありましたか。

新田:そもそも「当時のまま完全に再現するべきか」、それとも「現代のユーザーに向けて、ガラッと改変するべきか」という方向性の判断です。

基本的には、再現に振り切ることにしました。「今『ラミィの大冒険』にユーザーが求めるものは、単に優れたゲーム体験ではない」と判断したからです。

率直に申し上げると『ラミィの大冒険』は、純粋なゲームメカニクスや演出がずば抜けて洗練されているAAAのような大作タイトルではありません。

それでもお金を払ってくださるユーザーがいるとしたら、その方はきっと当時のBGMやSE、手触りといった「懐かしさ」を買いたいはずだと考えました。なのでリメイクと冠してはいますが、一部要素や追加のゲームモード以外は当時の再現に徹しました。

――当時の体験を、そのまま届けることにこそ価値があると考えたのですね。

新田:私個人は、リメイク作品はガラッと変えてほしいタイプの人間なんですけれどね。ラミィの絵柄を今風の全く新しいものに変えるとの案もよぎりました。

ただ大前提として、「あくまでお客さんが望んでいるものをやるべき」とも考えています。それが何かというと、今回は「原作再現」だろうな、と。

――とはいえ、現代の基準では洗練されていないと感じる仕様や、バグと見紛うような挙動もあったかと思います。そういった要素はどう扱ったのでしょうか。

新田:基本的に、明確な理由がない限り、原作をリスペクトして改変はしていません

例えば、原作では階段を降りて次のフロアに進んだ瞬間、目の前に敵が6体いて、なす術もなく詰んでしまう……といった理不尽な初期配置の事故が起こることがあります。召喚したサポートキャラがたまに敵を攻撃せず、どこかへ去ってしまう挙動をとることもあります。こうした部分も、原作通りに再現しました。

――意図的に、不便さも残したわけですね。逆に「ここは現代の環境に合わせて変えた」という部分はありますか。

新田:大きいのは、操作方法とUIです。当時のPCゲームはキーボードによるカーソルキー操作が主体でしたが、昨今のSteamプラットフォームにおける主流に合わせて「マウス+WASDキー」での操作に変更しました。

細かな部分ですと、シリーズ間における仕様の統合です。例えば、原作『ラミィの大冒険 Ⅰ』では、モンスターが寝ているときに、一部の敵だけ「ZZZ」という睡眠のエモートが出ませんでした。が、続編『Ⅱ』では、全モンスターの睡眠時にこのエモートが出るようになっていた。『Ⅱ』の仕様の方がゲーム上は自然かと考え、『Ⅰ』でも全モンスターに「ZZZ」が表示されるようにしました。

また、どうしても特定条件の敵の動きやマップ生成アルゴリズムなど、ブラックボックスで完全には分からなかった部分に関しては、「ユーザーが不利にはならない」「リメイクして理不尽になったと思われない」ことを念頭にバランスを調整しています。その他、高難易度な「チャレンジモード」など追加要素を設けています。

▲睡眠エモート(Steam内のPVより

――実際にリリースされて、プレイヤーからの反応はいかがでしたか。

新田:社内でプロジェクトを継続していくのに十分なほどの反響は得ています。

印象的だったのは「再現度が高い」と既存のファンの方々に喜んでいただけたことです。完全再現に振り切るか、絵柄やストーリーを新しくして別ゲーにするかの2択で迷っていたので、余計な改変をしない判断が正解だったとはっきり分かって安心しましたし、うれしかったところですね。

社としては“異端”なプロジェクトを通してみて

――そもそも、なぜ『ラミィの大冒険』を復活させようと考えたのでしょうか。改めて経緯を教えてください。

新田:最大の理由は、2024年のブラウザ版『エアホッケー』への反響が大きかったからです。もともと自社IPを生かして企業ブランディングを行うという名目で始めたプロジェクトで、同時展開している『エアホッケー』キャラのLINEスタンプは現在まで毎月安定した販売を維持しています。

同時に、ユーザーの方々から「『GAMEPACK』作品なら、次は『ラミィ』も復活させてほしい」という要望が数多く寄せられていたため、では「やってみよう」との流れになりました。

――ただRPG2作を同時リメイクするとなると、現実問題、予算上の問題も出てくるのではないでしょうか。

新田:はい。開発の規模が全く違うため、今回は開発資金の調達と、市場の熱量を測る目的を兼ねて、クラウドファンディングを実施しました。

――手応えはいかがでしたか。

新田:スタートダッシュは、あまり良くありませんでした。

私が思うに、日本のクラウドファンディング市場は投資というより、完成品に対する「予約購入」の意識が強い傾向にあります。そのため「確実に面白いと分かっている大作」「すでに話題沸騰しているもの」などでないと、なかなか初動の支援に結びつきづらいと思うのです。『ラミィの大冒険』は熱狂的なファンがいるとはいえ、世間一般から見ればややニッチなレトロタイトルですから、初動の伸び悩みはそこに起因していると分析しています。

ただ、クラウドファンディングと並行して、札幌市が公募していた「オリジナルコンテンツ制作(IP)補助金」を幸いにも獲得できたのが大きかったです。札幌市内に本社を有する企業が、自ら販売権を持つコンテンツを制作する際の経費を一部補助してくれる制度です。最終的にクラウドファンディングでも400万円以上の支援が集まったのと、この補助金が合わさり、無事にリメイクを実現できる予算が確保できました。

――それにしてもダットジャパン社の社内には、『GAMEPACK』について詳しく知っている社員がいない状態だったのですよね。『エアホッケー』『ラミィ』を経て、社内の反応はどうなっているのでしょうか。

新田:基本的に社内では私ひとりで進めているので、周囲からすれば「知らない間に話がでかくなっているな……」という感覚だと思います。

ただ最近は、BtoB向けのソフトウェア展示会などに会社で出展した際、エアホッケーやラミィのノベルティを置いていると「あ、これ知ってる!」とお客様に興味を持っていただけて、他製品の営業につながるケースが増えてきました。なので「自社には『GAMEPACK』という武器がある」という認識が社内にも浸透してきたと感じています。

――そこなのですが、そもそもダットジャパン社はゲーム会社ではなく、建設領域のシステム開発を主業とする企業です。新田さんがゲーム企画を通し、比較的自由に立ち回ることができている理由は何なのでしょうか。

新田:身も蓋もないですし自分で申し上げるのもおかしい話なのですが、幸運にも私の本業務である営業の方で、会社からある程度評価していただける成果を出せているからかと思います。

『ラミィの大冒険』の開発中も「主業でがんばっているから、残りのリソースで新しいチャレンジをする裁量を与えてもいいだろう」という、社内の信頼関係や寛容な空気感があるのは非常に大きいですね。

普段の業務を片付けた上で、ひたすらラミィのテストプレイをしてバグを洗い出す日々はなかなか骨が折れましたが……。

次なる野望は「ローグライク市場への一石」

――今後の「GAMEPACK」復活に関する展望をお聞かせください。

新田:引き続き企業ブランディングの一環として、人気のある『GAMEPACK』過去作を順次復活させていく予定です。

ただ、私自身の本命は、今回のリメイクから発展させた『ラミィの大冒険 DX』という完全新作をつくることです。

▲構想段階の『DX』のイメージ。完全に絵柄を刷新している(CAMPFIRE内ページより)。

――リメイクではなく、完全新作ですか。

新田:はい。

というのも、現在のゲーム市場において、ローグライクRPGというジャンルは「ブルーオーシャン」だと私は分析しています。

――というと?

新田:少し異なる話をさせてください。近年、対戦格闘ゲームの『ストリートファイター6』が、複雑なコマンド入力なしで簡単に必殺技を出せる「モダン操作」を導入したことで、格闘ゲームの初心者層にも一気に間口を広げた事例がありました。

ひるがえってローグライクRPG市場を見ると、コアゲーマー向けの骨太なタイトルは存在しますが、あの「モダン操作」のように、初心者でも飛びつきやすい要素を有するポジションのタイトルが意外とあまり見当たりません。

その点、『ラミィの大冒険』は一定の知名度があり、ファン層もライトなゲーマーが多いとみています。大それた話かもしれませんが、このIPを生かし、現代的な操作感で気軽に遊べる作品を打ち出せれば、自社ブランディングの枠を超え、ひとつのゲームとして「ローグライク市場」自体に一石を投じられるのでは、という期待感を持っています。

――そのような展望が。では、その『DX』の開発はすでに進んでいるのでしょうか?

新田:いえ、予算が足りません。

グラフィックやシステムをすべて一新するとなると、今回のリメイクの倍近くの開発費がかかりますし、現在の私の兼業体制では到底回らなくなります。今は適切な補助金や資金調達の好機がやってくるのを待ちつつ、他のタイトルの復活を進めていこうと考えています。

――最後に妙な質問をしてしまうのですが、ダットジャパン社が過去に手がけていたゲームタイトルの「ソースコード」は、現在に至るまでひとつも見つかっていないのでしょうか。

新田:あ、実は『モンスタースライダー』というゲームだけ、奇跡的にソースコードが残っていたんです。

――なんと。それをリメイクしたり移植したりする場合は、「目コピ」やリバースエンジニアリングせずに済む、と?

新田:ただ、そのゲームは「セガサターン」用です。

――え?

新田:どのような経緯かは不明ですが、PCのバンドルソフトである『GAMEPACK』シリーズですらなく、当時コンシューマー向けに発売されていたパッケージソフトなんです。

中身を確認してみると、私自身は見たこともない独自形式のデータ群で構成されており、グラフィックも当時のSDサイズなのでジャギジャギです。これをそのまま現代のUnity等のゲームエンジンへコンバートするのは、技術的にかなり困難です。

結局はまた素材を人力で抽出して組み直すような作業が必要になるのではないかと頭を抱えているところです。

▲パズルゲーム『モンスタースライダー』(画像はAmazonよりスクリーンショット

――約20年前のゲームを現代に復活させるとなると、一筋縄ではいかないのですね。

新田:予期せぬ壁は常にありますが、クラウドファンディングやSNSで声を届けてくれるファンの方々の存在が大きな原動力になっています。『ラミィの大冒険 DX』の実現を含め、各作品のリメイクを形にするまでにはまだまだ時間がかかるかもしれません。それでも楽しみに待ってくださる声に応えられるよう、今後も地道にプロジェクトの準備を続けていくつもりです。

▲なおダットジャパン社公式サイトをWayback Machineで遡ると、2000年代には自社より攻略情報を公開していたと思しきFlashサイトが存在していた。取材中、新田さんに聞くと「初めて知りました。ただFlashなので詳細は閲覧できないですね」とのこと。

取材・執筆・編集:田村 今人